不満はどうしようもないの





行きつけの美容院に行ったら「久保さんってこんなイケメンさんとも友達なんですね」と言われた。友達ではないけれど否定するのも面倒くさいからハハ、と笑っておいた


「俺そこら辺グルグルまわってきますね」

「あ、んじゃコーヒー買ってきて」


この人は…。
ついでと言わんばかりに俺に頼む鹿野さんは女性客までも虜にしている
店員なんて雑誌を持っていったり話しかけたりと大忙しだ



「何分くらいでカット終わりますか?」

「んー、シャンプーとかもするから、40分くらいかな。彼髪長いし」

「わかりました」


本屋にでも行ってこようか
あの隣にカフェあったし。


それじゃ、と鹿野さんに声をかけて店を出る


鹿野さんどんくらい変わってるんだろうなぁ。







ーーーー・・・






そろそろ四十分経ったかな

そう思って、さっき買った料理本とコーヒーを持って立ち上がる
好みとかわからないから、ミルクとガムシロも一応入れておいた


なんか、秘書みたい俺。



自分で言っときながら苦笑する。
そんな足取りで美容室に戻った



「鹿野さんどうですかー?」

「あ、もう少しで終わりますよー」



チラリと店内を見渡すと女性に髪を乾かしてもらってる鹿野さんがいた

はにかみながら鹿野さんに話しかけてる女性

…ドライヤーしながら話してもあんまわかんないんじゃない?
てか、彼女ガン見しすぎててちょっと引く。

案の定鹿野さんは適当に相づちを打っているみたいだが、なんと笑顔を浮かべている



これには少し驚いた。
対応が面倒くさいって、言ってなかったっけ。

…俺にはあんな顔して笑わないのになぁ…



「久保さん、色落ちてきましたね」


顔見知りの店員の言葉にハッとする
なんだ今の。


「あー…やっぱりそう思います?俺の髪大分明るいから仕事に支障きたしたらやだなぁ」

「大丈夫なんじゃないですか?あっち側も久保さんがハーフだってことわかってるなら」


そんなもんかね
でも俺のとこ、お高いホテルだから上が煩く言ってきそうな気もする


「久保さんって一応染めてるのに全然髪痛んでないですよね。切る度さらさらでビビります」

「あはは、なんすかそれ。」


もともと髪細いからなぁ。
あんま目立たないのかも。


「あ、あの人ドライヤー終わったみたいですね。ほんと美形すぎて俺羨ましいっすわ」

「中尾さんも十分イケメンじゃないですか。」

「久保さんに言われたくないです。」


まあ、でもあの人はずば抜けてるな。
本当はモデルとかやってんのかな…でも見たことないし。



…つか、

髪切ったせいでさらにイケメンになってるし………。



「待たせたな」と言って近づいてきた鹿野さん
襟足もさっぱりでワックスまでつけて整えてもらった彼は昨日までの彼と全く違っていた。

なんといっても若く感じる。

いや、ほんと、信じられないね。




「久保、今会計済ませるから待ってろ」

「あ、はい。」


……………………ん?



今、名前………



ん?




かなりの違和感に首を傾げ会計を済ませようとする鹿野さんを見る
よくよく見てると、カード払いをしていた


…想像と、違うんですけど


いろいろ頭の整理を出来ないままでいたら、鹿野さんが行くぞ、と言って俺の腕を掴んだ


「は、はい」

店の人たちに挨拶を済ませ、俺も急いで外に出る




……名前、知ってたんだ

てかどうして腕握るの。




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