いい加減な赤い糸
幼馴染み会長×女王様気質平凡





ああ、もう信じられない!!!



「僕はコーヒー好きじゃないんだけど!」



目の前にあるケーキたちと、
カップに入った茶色がかった黒い液体



それを見て僕、立花 哉汰(かなた)は憤慨した




「あー?んなの知るかよ俺はコーヒー派なんだよ」

「あんたの好みなんて聞いてないし!」

「俺の部屋で何言ってんだてめえ」



呆れたようにそう言うのは幼馴染みの瀬井。
この学園で生徒会長をやっていて、ボンボンお坊っちゃまの超イケメン


今日はそいつに呼ばれたから部屋にきてみたもののまさかの飲み物がコーヒーオンリーだった

カフェイン中毒なのかこいつは!



「僕を呼ぶんだったら紅茶とか用意しといてよね。信じらんない本当。」

「へいへいそれは悪うござんしたー。」


絶対悪いって思ってないよこいつ!



「というか別に僕じゃなくても良くない?あのうっざいファンクラブの子達にあげればよかったじゃん。」


今日呼ばれた理由は、知り合いから試作品ということでケーキをたくさん貰ったもののその量を食べきるのは無理だと悟ったらしく 僕を誘ったというものだった。

確かにこの量は多い。僕でも食べれる気しない。


…こんなに多いならあのビッチ犬共に食べさせりゃいいのに。



「哉汰、甘いの好きだろ。」

「嫌いじゃないけどね。」

「だいたい、あいつら俺に誘われたりしたら調子乗るだろ」

「・・・。」


まあ、そうですね。



「瀬井はさぁ、早く恋人でもなんでもいいから作りなよー。面倒くさい」



だいたい、特定の相手がいないから僕が駆り出されるんだ

モグモグとショートケーキを口に含みながら言う。…まあそこそこ美味しいんじゃないの?



「お前だっていねえだろ」

「僕は自由気ままな生活を送りたいの。縛られるとか絶対嫌」

「…平凡の癖にえらっそうに。」

「テクはあるよ」


瀬井の言葉にニヤリと口角を上げながらフォークにイチゴを刺す
わざとイチゴについたクリームだけを掬うようにして舐めとると鼻で笑われた



「淫乱」

「うっさいヤリチン」



確かに僕は平凡に近い見た目だけど、小柄だし色白だし細身だし?結構人気だったりするから男捕まえ放題。

おまけに家柄も良いから瀬井みたいなヤツとつるんでも苛めにもあわない。さいっこー。



「つかお前、乃木ともヤったんだってな」

「乃木…?」


あぁ、生徒会の下半身ユルユルチャラ男の事か。



「なんで知ってんの?」

「乃木から聞いた。」

「…ふーん」

「お前に夢中だってさ。」

「はは、冗談」


あの性格的にそれは冗談だな
まあ、かなり上手かった。さすが下半身ユル男。


「…ねえ」

「あ?」

「喉乾いた」

「・・・。」


なにその白い目。



「…学園のトップをこんな風にコキ使うのお前だけだぞ」


呆れたように呟きながらよっこいしょ、と腰をあげる瀬井
こんなイケメンなのによっこいしょなんて言うのもあんただけだと思うよ。


「水な。」

「えー」

「コーヒー飲ませんぞ」


…それは嫌だ。
むぅ、と唇を尖らせて我慢する

コーヒーなんて不味いものの何がいいんだろう本当



じぃっ、とコーヒーを睨むようにして見る


するとピンポン、と部屋のベルが鳴った


「お客さんじゃない?」

「めんどい。哉汰出ろ」

「はあ?」

「はやく」


この僕をコキ使うとはいい度胸だな、と思うが仕方なく腰をあげる。…瀬井も僕もお互い様だな。


ベルはその間もピンポンピンポンピンポンピンポンと忙しく鳴り続いていた


うるさいな…!!



「一回鳴らせばわかるっての!!!」



ガンッ!と蹴破るようにしてドアをあける
この部屋に来れるのはどうせ生徒会とか風紀委員とかだからたぶん問題ない。


しかし、


「んぶっ!!!」

「あー、やっぱこんな所にいたあ」


突然間延びした声と共にギュウギュウ抱き締められた
この声は聞いたことがあるし、この趣味の悪い香水にも身に覚えがあった


「の、乃木…く、ん?」

「せーかい」


一応くん付けしたのは馴れ馴れしくしないためだ。
ちなみに瀬井は別にどうでもいい。

てかなんでここだってわかったんだ?


とりあえず離れようと胸板を押すがびくともしない
…なんだこの人


「すっごい哉汰に会いたくなってさぁ」

名前呼び捨てとか馴れ馴れしすぎるでしょ。
礼儀をもっと弁えろっての


「僕は別に会いたくなかったけど。」

「あんれぇ冷たい」


馴れ馴れしい奴好きじゃないの。

胸板を普通に押し返しては効果がなので、肘でガンッと打ったらとよろめいた。


「い、ってぇ…」

「瀬井呼べば良いの?」


てか瀬井、水だけなのになんでこんな時間がかかってるんだろう


下を見ると、よほど痛かったのか踞ってる乃木
わざと?


「…大丈夫?」


一応自分もしゃがみこんで心配してやる
脆すぎでしょ


「うわっ」

「なぁんちゃって。」


そしたら突然押されてひっくり返ってしまった
お尻からドテンと転がる

こ、こいつ!


「痛いんですけど!」


起き上がろうとしたら手で肩を押さえられ覆い被された。
乃木はニヤニヤ意地悪い笑顔。腹立つな。

てか、ここ玄関なんですけど!


「大丈夫?」

「いやなんで押し倒してるのさ」


膝を立てて乃木をこれ以上近づけまいとお腹を押し上げる

おまけに顔も近いから乃木の顎を手で固定した


「意外と身固いねー」

「そりゃ他人の部屋だからね!」


どうやら下半身ユルユル男はどこだろうと関係ないらしい
節操なしだな本当。瀬井を越えるヤリチンか。


でも瀬井は何故か僕には手を出してこないから何とも言えないけれど



「んじゃ俺の部屋来る?」

「行かない。てか瀬井に用事あるんでしょ?」

「特になぁい」


何しに来たんだ。

イライラしながら目の前の美形顔を見る
この人もこの人でむかつく位のイケメンなんだよね…。
瀬井とは違って甘ったるい顔してるけど


「哉汰は今何してたのぉ?」

「……僕は、」

ケーキ食べてました?
いやこんな浅い内容だと連れてかれるな

あー…なにかないかな…


頭をフル回転して言い訳を考えていたら、

突如脇の下を捕まれた


「っ!?」


びっくりして下を見るがどうやら乃木ではないらしいがっしりした腕。

同じく驚いた顔をしている乃木が視界の端に写ったと同時に、ズルズルと引きずられ乃木から離された



「今からいろんな事すんだよ」



そして耳元では聞きなれている心地良い声
風景の見映えがいいと思いきや、抱っこされていた



誰に、というのは言われなくてもわかる



………瀬井だ。




「あんれえ、なかなか来ないからいないのかと思ったぁ」

「そりゃ残念だったな。つか人の部屋で何おっ始めようとしてんだよボケ」

「ついつい興奮しちゃってさぁー」


ちょうど乃木から背を向けている状態なので乃木がどんな様子なのかはわからない

ただわかるのは、自分が縦抱きをされているということだけ
自分の顔の横にはすぐ瀬井の耳がある

こ、こんな近いのは初めてかもしれない…


何故かドキドキする心臓に首を傾げながら後ろを振り向くと、ちょうど乃木がゆったりと立ち上がっていた



「ヤるなら自室でやれ」


呆れながら乃木にそういい放つ瀬井
僕を落ち着かせようとしてるのか背中をぽんぽん撫でてきた


っ!


「子供扱いしないでよ!」

「あーはいはい。つか耳元で叫ぶな」

すごく嫌そうに眉を寄せられた。
…けど、あんたが悪いんでしょうが!



「んじゃ部屋でやるからぁ、哉汰ちょーだい?」


はあ?

その乃木の勝手な言い草にイラッとくる
人を物みたいに…てかセフレとやりなよそういうことは!

僕は今そういう気分じゃないの!


そう言おうと思って口を開く


が、その前に


「だからこいつはダメだっつーの。」


と瀬井が僕の代わりに口を挟んできた


たまにはナイスフォローしてくれんじゃん!と思いながらコクコク頷いていると突如瀬井の手のひらが頭に回される


引き寄せられる頭


元々瀬井と距離が近かったが、さらに近くされてその時異変に気づく



…あれ?なにこの状況



「だいたいさっき言ったろ?“いろんな事する”って。」


「……え、」



そして、僕がその言葉を理解するよりも早く、

無理矢理唇を合わせられた



・・・・んんんんん!?



「…っひょ、ひょっと、せい…!?」

「うっせえ。萎えんだろ」

「んむっ、」

なんて横暴な



そんな事考えてる間にれろりと舌が口内に侵入してくる
歯の裏をなぞったり唇を噛んだりとしてるが、僕は頭がついていかなかった。



え、え、なんでこいつ僕にキスしてるの?
ヤリチンの癖に一度もそういう態度僕に見せてこなかったじゃん?


なんで、どうして、と

頭がグルグルとそればかり流れた



………意味が、わからない。



「ふっ、…はぁッ…ン」


突然の事に動揺した僕は鼻で息をするのも忘れ、口で息を吸った瞬間どちらかわからない唾液が垂れた

その唾液を掬うように瀬井の舌が顎を舐める


「全部飲めよ」


そう言って、いつもと違った熱い視線を僕に向けながら。


………こんな瀬井、知らない。


乱暴なキスを受けながら、そう思う


いつも僕の前でダルそうにしてどこか締まりの無い奴なのに、今の瀬井はまるで別人だった。

…もしかして、こっちの瀬井の方が本物なのかもしれない。
僕に見せなかっただけで。

ズキリ、と何かが痛んだ気がした



「……ん、ぅ……っ」


チュ、と音を立てて唇が離れたとき、僕は酸欠で息が乱れていた

僕だってキスの上手さには自信があるのに、それをこえるキス


ハアハアと何度も荒い呼吸をする僕

…だというのに、瀬井は飄々としていた。



悔しい…!


ギリ、と歯を食い縛る僕だけれどそんな僕を余所に瀬井は、



「つーわけで、お前はまた今度。」


と言って乃木を蹴り飛ばした



え、


えぇええぇ!?



その勢いに廊下に出た乃木
部屋に戻る前に閉め出された

廊下から微かに「ひっでえー!」と声が聞こえてくるが僕はそれ以上にこの空間に頭がいっぱいで。


沈黙が訪れた部屋


瀬井は僕をだっこしたままで、僕の心臓はバクバク煩い


瀬井、何か話してよ、と思う
すると 瀬井がゆっくり口を開いた



「お前の口ん中甘ったるすぎ」

「・・・。」


第一声がそれか。






ーーーー・・・




初めてお互いでキスをしたというのに瀬井は特に気にする様子もなく僕を普通に床に下ろした

“いろいろな事をする”というあの言葉に一瞬身構えたけれどそんなつもり毛頭ないらしい。


初めて瀬井の手が自分の体を触れてきたことと、その力強さに今さらながら驚いたけれど…

チラリと前方にいる瀬井を見ると、袖で口許拭ってやがった
思わずふくらはぎを蹴ってやるとかなり痛がってる様子。ざまあ。




「………あれ?」



部屋に戻るとさっきまでなかったコーヒーカップがあった。
なんだ、またコーヒーかと思ってみたら、ミルクティー色の飲み物が。


・・・。


「……なに、これ?」

「ミルクティー」

「えっ」


そのまさかの返答に目を丸くする

み、ミルクティー?



「なんで?」

「は?お前がコーヒー飲めねえつったんだろ」

「いや、そうですけど…!」


えぇええ、なんだよそれ!

突然の優しさという名の不意打ちをくらって、慌てる


こんなの僕らしくない、そう思うがぶわりと溢れてくる熱は抑えることが出来なかった



「俺の幼馴染みは面倒くせえから」


そう言っていつもみたいに人を小馬鹿にするような笑いが、


今だけ別物に感じた