恋はもう溶けている | ナノ
05





「早かったね、頑張ったんじゃないの?」

「うっせえ」



重なりに重なった紙袋を押し付けるようにして雫に倒れ混む
潰れちまえって内心思ったのに雫は「おっと」と言ったくらいで俺の体ごと支えた

また負けた!



「お前ごときに倒れるわけねーだろ」



馬鹿にしたように笑った雫は軽く俺を小突いた後、俺からダンボールを取ってリビングに運び出す
クソ……悔しいっ

その後を追いかけて室内にはいった



「俺手作り無理だからやるよ」

「え、いや、でもその子に悪くね?」


おずおずとそう訊ねると、雫が軽く驚いた顔をした
なによ


「…お前って本当平和な頭してんな。全部食うの?」

「失礼だな!普通だろ!だってその子もちゃんとお前が好きで作ったわけだし、それを俺みたいなヤツが食ってたらショック受けるだろ!手作りって一応心もこもってんだぞ!」


自分でいっといて俺みたいなヤツって悲しいな
力説してるとふはっと雫が吹いた


「わかったわかった。偲は優しいね」

「今さらか」

「前から知ってたよ」

「うるせ…………えっ!?」


……ほ、誉めた、か!?
今誉めたか雫


ギョッとして雫を見ると、笑顔だった
なにその微笑み怖いんですけど



「……それで、良いものって何」


なんだか気まずくて話を変える
こいつに誉められたっていう事がない俺は、とんでもなくテンパった


「あれ、なんでそんな顔赤くなってんの」

「うるせえ!変な所ばっか見るな!」

「へぇ、俺に褒められるのそんな嬉しいんだ。可愛いね」

「っ、くそ、うるせえ!別に、嬉しくねえし、」


ちょいちょいと髪を弄くられてその手を払う
うーわー、楽しんでるこれ確実に楽しんでるよ

俺の様子を見て『ふうん』とニヤニヤ笑ってる雫
やな予感


「じゃあ、良いものは『優しさ』にしようかな。今日一日だけお前にやさしくしてやるよ」

「なんだそれ。お前が優しいとか不気味…」

「ん?」

「ちょっ!この頭の上にある手は何ですか!?」


不気味って言おうとしたら頭を鷲掴みされて慌てた
今言ったことさっそく忘れてんじゃねーか!


「生意気なこと言ってさすが偲だねーって頭撫でようとした手」

「…すぐに言い訳を考えられるお前はやっぱ頭いいよ」


ゾッとするくらい優しい手で俺の頭を撫でる雫
表情まで少し柔らかいからイケメン振りに拍車がかかってる

…本当にずっとこのキャラなのだろうか。
つか良いものがこれってどうなの


「つか雫、チョコどうすんの」

「どうするかな。まあ、食べる。ほとんどバツゲームのような感じするけど」

「………ソウダネ」


自慢にしか聞こえないよボク


「一緒に食べるのはお前の良心に背くわけ?」

「…………大丈夫」

「じゃ食べよ。偲コーヒー派だろ」

「う、ん」


今いれてくる、と立ち上がった雫にやっぱ驚く
普通こいつはそんな気遣いしてこない
「飲みたきゃ自分で作れば」とか、そんなん

しかも、コーヒー。
俺がお茶とかよりコーヒー好きなの知ってたんだ


なんだよ、もう
お前俺の事見てないようで意外と見てたのな


くそ……ニヤける…




こたつの板部分におでこを擦り付けて必死に耐える

うーん、雫の優しさっていうのは殺傷能力があるな
現に俺今なんか心臓が苦しい 悶えかなんか?


チラリと雫を盗み見する

キッチンに立ってコーヒーを作ってる雫
信じられない光景ですね



しばらくすると雫がコーヒーを持ってこっちにやってきた


「ほら」

「ん、ありがと」

「熱いから火傷するなよ」

「………」


まじでお前誰だ。双子とかじゃねーの
録音したいくらいのレベルだぞ今の


「さーて。どれから行くか。」


俺の前に腰かけてダンボールを開く雫
チョコの匂いが部屋を包み込む

どれも美味そう


「……ほとんど手作りじゃん……最悪。」

「なんで手作り無理なの?」

「知らないやつの手垢とか入ってんじゃん。変な物入ってたらやだし。汚い。無理。」


やっぱこいつ性格悪い。潔癖性の雫でした。
めっちゃ顔をしかめてる雫を見て安心する
双子かなんかかと思ってたわ


「いつもどうしてたの」

「捨ててた。てか母親が食べてた」

「なるほどね…」


ようやく見つけた売り物のチョコを開ける雫
うわー、すっげえ高そう
誰だよこんなんくれるの
てか俺食べていいのかな


「ほら、」

「え、あ、どうも」


摘まんだチョコを渡されてそれを貰おうと手を伸ばす
すると、雫は目を柔らかく細めた


「口、開けろよ」

「え゛」


微笑んでるはずなのに、言ってることが恐ろしい

え、つ、つまり、さ、
これって所謂…

いや、まあ、いいけど…


「……」


『あ』と言いながら口を開ける
なにこの余分な優しさ。別に要らねーんだけど。

俺の顔を見て軽く笑った雫の指が俺の唇に近づく
そして微かに指が舌に触れ、離れていった

……今、俺の唾液で指汚れたんじゃね?
気にしないのかい。とりあえず生チョコ、うめえ。


「毒味役ね」

「ちょっ」


なんてこというんだよ!




「美味しい?」

「……や、美味しいですけど…」

「そう」


指についたココアパウダーを舐めとりながら俺に聞いてきた雫
うわー、エロイーなんだそのオプションー。伏せ目がちなのがエロイー。

無意識のうちに生唾飲み込んでてハッとした
いやいや俺キモいわ



「それで、偲はチョコ貰えたの?」

「………………イエ」

「え、なんで?」


な、なんで!!?

なんで、ってなんで?
俺がもらえると思ってたのかこいつ
それとも嫌味か?ありえる。こいつなら有り得る。



「昨日あんなに呼び出されてたのにね。」

「あれは、お前に関しての質問攻めだよ!」

「そうだったんだ」



わざと聞いてるのかとイラッとしたけど、雫の「なんだ俺だったのか」という表情を見て違うのか?と思う

え、まさか、


「気付かなかったのか?」

「偲ってそんな女に人気あったのかって思ってた」


・・・お前変なところで疎いな
勘違いじゃねえか
あ、もしかしてあの腕折る発言も勘違いから?



「あー、なんだよ結局ブサイクはモテないってことか。」


「うるせーな!!!」


「あはは、ドンマイ」


その爆笑はむかつくぞ!
なんだその爽やかさ

笑いながら俺の口にまたチョコをいれてくる雫

・・・あまりにも笑うから逆に不気味なんだけど。






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