4(湊SIDE)





(湊目線)







トイレに行くと、手を洗っている様子の双葉がいた


鏡越しに見える顔
気のせいか、目元が少し赤い


そして、鏡越しに目があった瞬間双葉が勢いよく振り向いた




「湊さっ……!?」


かなり驚いている様子の双葉

二日ぶりだからか、双葉を見れてと心が浮き足立つ。お陰で心臓がうるさい


「…後ろ姿が、双葉そっくりだったからもしかしてと思ったんだけど。…アタリだったな」


もしかしてというより、確信だったけれど。

顔が自然と緩む
なんで双葉を見ただけでこんな落ち着くんだろう
さっきまであの同僚といたからか



「ぐ、うぜんだね」

「そうだな、まさか俺もこんな所で会うなんて思わなかった」



お互い知らない店なのに。
双葉はあのイケメンの紹介で、俺は同僚の紹介

…ここにはもう来たくねぇな



「あー…勉強うまくいってんの?」


さっきの相手の男が誰かを聞きたくてその話題を持ち込む
双葉は視線を少し下にして目を合わせてくれそうにない


「そこそこ。」

「へぇ…」


…会話が全然続かねぇ。

双葉もそう思ったのか袖を弄りっぱなしだ


「一緒にいた奴…」

「え?」

「一緒にいた奴、誰?双葉の友達にしては大人びてたけど」


結局すぐに本題に入ることにした
ちょっと嫌みっぽい感じがするのは百も承知だ


「あぁ、それは、勉強教えてくれてる人で…」


勉強を教えてくれてる人?

なんだそれ。塾講師かなんかか
信用するにも出来なくて双葉の目をじっと見つめた

結局すぐに逸らされたけど
…ショック。


「松本のお兄さんで成幸さんって言うんだ。」


兄…?

その言葉を聞いて、他人でないと言う事実にホッとした
それにしても松本くんのお兄さんね…


「……仲良いんだな。」

「そう?すっげえ良い人だよ。優しくて」


彼を思い出してるのか、楽しそうに笑う双葉


「松本に全然似てないよな。カッコいいし。爽やかだし」

「……」


その話に、無性にイライラした。
なんでこんなにもってくらい腹の中にドス黒い物が溜まっていく


……俺とどっちが?、とかガキっぽいこと聞きそうになった


何に張り合ってんだよ俺



「あの、さ」


俺が作った沈黙のあと、双葉がゆっくりと口を開く


「……うん?」

「俺、帰るのテスト終わった日になるかもしれない」

「どうして」


出てきた声はとても冷たくて自分でも驚いた
少し強めの声に双葉が顔をあげたので「ごめん」と謝る


……でも、どうして。

そんなにあの男の家にいたいのか


「結構息詰まっててさ、ちょっと……家事出来ないの本当に悪いと思うけど…」



家事、

それが双葉が俺の家にいる一番の理由だったことに気づいて、胸が苦しくなった


……俺の家に居候してる気遣いで、今まで家事をしていたのか



「そんなの、別にいい」

「……え?」



家事なんて本当は一人で出来る
元々、学生時代は独り暮らしだったんだし

俺が、必要なのは、そんなんじゃなくて。



「あー、まあ、俺いなくても他の女性に頼めばな。大丈夫か。」



この言葉に、完全にプチンと理性が消えた



「そんなんじゃねぇよ」


双葉の腕を強く握り、目を合わせる
自分の声が、どれだけ必死なのかもイラついてるのかも双葉に筒抜けだ

その証拠に、怯えた顔をしている


それでも俺は話を続けるため口を開いた




「俺は………」




お前が、




「双葉くーん?そろそろ行かないとかもー」



第三者の声にハッと我に返った


きっとあの男だ



舌打ちしそうになったのをどうにか抑える



「あ、すみませんすぐ行きます!」

「あははごめんね。なんか弟たちが待ってらんないみたい」



スルリと俺の手から逃れる双葉

小さく息をつきながら、微かに体温を残す手をポケットに突っ込んだ



頭を撫でられている双葉を見て、またイライラが募る

…なにこそこそしてんだよ。



「んじゃ、またね湊さん」

「…あぁ」



行くな、なんて言えた柄じゃないからおとなしく見送る




……これが親離れってヤツ?




一人になったトイレで虚しい苦笑が聞こえた。



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