数秒の沈黙が訪れ、どうしようと悩む

本音を言うと、さっき一緒にいた女性が誰だか気になるけれどどうしても聞きたくなかった


「あの、さ」

「……うん?」

「俺、帰るのテスト終わった日になるかもしれない」

「どうして」


冷たくて強い声に顔をあげると湊さんも「…ごめん」と謝ってきた。
眉間に寄せられた皺は取れそうにない


「結構息詰まっててさ、ちょっと」


…こんなのはただの理由付けにしかすぎないけど
本来なら、赤点を取らなければそれでいいくらいの対応だし


「家事出来ないの本当に悪いと思うけど…」


俺の私事の理由で家事をしないのがとても後ろめたい
こんな事初めてだから、湊さんに申し訳ない気持ちで一杯になる

湊さんの顔見れねぇ…


謎の緊張で、手をギュッと握りながら話した。


「そんなの、別にいい」

「……え?」


何が別にいいんだろうか


湊さんは相変わらず、不機嫌そうな顔で。
…俺がいなくても大丈夫ってことか?


ちょっと、悲しいかもしれない。



「あー、まあ、俺いなくても他の女性に頼めばな。大丈夫か。」


さっきの人とか。
こんなイケメン相手だったら喜んでするだろう


ハハ、と笑いながらそう告げたら突然腕を捕まれた
びっくりして湊さんを見ると、先程より皺が深くなっていて


「……そうじゃねえよ」


低く響いた声が、湊さんがどれだけ怒っているのかを知らせた



…お、怒ってる…?


なんで?


全然わからなくて、無言でいたら湊さんが先に口を開いた



「…………俺は、」


「双葉くーん?そろそろ行かないとかもー」





湊さんが何かをいいかけたところで、成幸さんの声
ひょこり、と壁から顔を出してきたので俺は慌てて湊さんの手をはがす


「・・・。」


一瞬だけ、湊さんの苦しそうな顔が見えたが気のせいだろう



「あ、すみませんすぐ行きます!」

「あははごめんね。なんか弟たちが待ってらんないみたい」


やべっ…
何分くらい成幸さんの事待たせてた?


成幸さんに駆け寄ると小声で「大丈夫だった?」と聞かれて、心配されてたんだなと知る。そういえば喧嘩中って言ってたかも

小さく頷いたらポンポンと頭を撫でられた
ほんと弟みたいに扱ってくれるなこの人は…



「んじゃ、湊さんまたね…」

「………あぁ」


湊さんの視線から逃げるようにしてトイレから出る


どうして湊さんはあんなにイライラしていたんだろう。




もしそれが俺の事を考えてなったものなら、

かなり嬉しいのに。


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