落ちるのが怖かっただけ





あー、それにしても…



考えれば考えるほど、当時の動機の理由がわかり脈が早くなる
結局俺の思い込みはその通りだったって訳か



報われない想いに思わず笑う

初恋がこれって、我ながら虚しいな。



「…ハア」


出てきたのはデカいため息


…あんま長居して腹下したって思われるのも嫌だしそろそろ出よ…


目をゴシゴシと数回擦り個室トイレを出る
あー…最悪

泣くとかすっげえ恥ずかしいんだけど。
俺ってこんなに感情表にだす奴だったっけ。



目赤くなってねえかな、と鏡の前に立ち手を洗う



そしてふと、鏡を見たとき心臓が止まりそうになった





理由は、




「やっぱ双葉だったんだな」




どこかホッとしたような様子で俺に近づいてくる湊さんがいたから。




………っ!



「湊さ…!?」




……どうして………!




慌てて顔を逸らす



「後ろ姿が、双葉そっくりだったからもしかしてと思ったんだけど。…アタリだったな」


嬉しそうに笑う湊さんを見て心臓がギュウゥと絞められる感触に陥る


そんな顔で笑うなよ…



「ぐ、うぜんだね」

「そうだな、まさか俺もこんな所で会うなんて思わなかった」



二日ぶりの湊さん


二日しか経ってないのに、どうしてこんなにひさしぶりに感じるんだろう。


声も姿も、どこか懐かしい



……たったの二日なのに




「あー…勉強うまくいってんの?」

「そこそこ。」

「へぇ…」



会話がうまく続かない
俺としてはさっさと成幸さんの所に戻りたいのに


平常心でどうにかしろ俺


どうにか会話を続けようとネタを探すが今の俺では続けられそうにもなかった。

すると先に沈黙を破ったのは湊さんで。



「一緒にいた奴…」

「え?」

「一緒にいた奴、誰?双葉の友達にしては大人びてたけど」


…あ、成幸さんの事かな。


「あぁ、それは、勉強教えてくれてる人で…」


顔を上げたとき、思わずドキリとした


…湊さんがじ、とこちらを真っ直ぐな目で見ていたから。



なに…



まるで探るような目に戸惑う
結局目を合わせていられなくて先に視線を逸らしたのは俺



「松本のお兄さんで成幸さんって言うんだ。」

「……仲良いんだな。」

「そう?すっげえ良い人だよ。優しくて」



笑いながら「頭すげえいいの」とも付け加える
他人の話は普通に会話できるのに。

自分のこととなるとてんでダメだ。


「松本に全然似てないよな。カッコいいし。爽やかだし」

「……」



あえて他人の事を話し、やっと続いた会話だというのに今度は湊さんが黙ってしまって俺も黙ることになる


…うまくいかないな


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