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「ごめんね双葉くん。じゃんけんに負けちゃったせいで…」

「いえいえ!俺がしたくてしたことですから」


結局俺がじゃんけんに負け、成幸さんと行くことになった。
財布と携帯だけ持って出てきたからお互い身軽だ。


「松本の家って駅から近くていいですね。」

「んー、そうだね。徒歩15分かからないくらいだし」


俺らはとりあえず駅に向かうことにした。
近くにコンビニもあったが、駅近くに成幸さんオススメのパン屋があるらしい。


「どんなパン屋さんなんですか?」

「カフェと連結してるところ。あ、ちなみに俺のバイト先ね」

「へぇー!」


カフェもあるってことは、ウェイターさんとかかな。
成幸さんならエプロンもめっちゃ似合いそうだけど。


……てか、成幸さんがいたら女子が無条件に寄ってきそうだな。


「今度遊びにおいで」と微笑まれてぎごちなく笑い返す
…こんな顔で微笑まれたら女子みんな勘違いするでしょ…

無自覚なのがまた怖い



「どうしよっか、俺らだけ食べて二人には持って帰るようにする?」

「え、でも…」


俺だけそんな。


「ここまで歩いてくれたんだから二人も許してくれるよ」


ね、と言われて小さく頷く
んじゃお言葉に甘えようかな



しばらく他愛のない話をして歩いていたら、あるお店にたどり着いた
なんかオシャレな感じのパン屋さん


「あ、ここですか?」

「うんそう。昼前だとちょっと混んでるけどね」



そう言われて中に入ると予想よりずっと混んでた

うっわ、すごい。
めちゃくちゃ人気なんじゃんこの店


「パンいろんな種類ありますねー」

「そうだね。あの子たちに何買っていこうかな。」


種類が豊富すぎて選ぶの時間かかりそう

成幸さんの後ろについて歩いて二人で美味しそうなのを選んでいった。
甘いものからしょっぱいものまで。


そして、ここで気づいたことはやっぱり成幸さんに対する視線がハンパないという事だった。



…いや、湊さんの時も味わってるから別にいいけど…!なれてるけど!!



やっぱりモテるんだろうなぁ、と端整な横顔を見てそう思う




「よし、こんなもんでいいか!」

「そうですね」


美味しそうなものを拾っていったらトレイ二つ分で結構の数になってしまった。
まあ、あいつら結構食べるしちょうどいいか。


レジに並んだ時、ちょうど成幸さんの知り合いだったのかレジの女の子がハッとしたようにこちらを見た


「ま、松本さん…!」


少し赤くなった顔でこちらに声をかける彼女。
ああ、バイトの後輩かな。

ついで俺を見る
…まあ、似てもないし、友達にも見えないだろうし誰って思ってるんだろうな。


「俺の弟の友達だよ」

「あ、そうなんですかぁ」


成幸さんが笑いながら俺の紹介をする。
女の子は俺より成幸さんに夢中って感じするけど。


あー、ぶっちゃけなんかこの人の隣にいるの凄くいたたまれない…
松本はいつもこんな気分なのだろうか。



「あ、双葉くんどれ食べるの?」

「…えと、俺はこれとこれですかね。」

「わかった。」


俺の注文を聞いて淡々と袋別のお願いをしていく成幸さん
残りは食べていくと伝えて会計をすませようとする



「あ、あのお金!」

「いいよ、分割面倒くさいから俺払っちゃう」

「いや、ですけど…!」

「頑張ったごほうびだって」


ね?と頭を数回撫でられ言いくるめられる


あーどうしようか、本当に申し訳ないんだけど…!



レジから荷物を受けとり渋々席につく

しかもカフェラテまで奢ってもらってしまった




「あはは、そんな申し訳ない顔されてもなぁ」

「…」


俺の顔を見て笑う成幸さん
そりゃあ、奢ってもらっちゃって申し訳ないですよ。


「弟がお世話になってるお礼も入ってるから。気にしないで?」

「ですけど、勉強教えてもらってるのに…」

「俺としては楽しいからなんら問題ないよ」


成幸さんが微笑みながら言うもんだから言葉が出てこなくなる
本当にできた人だな…


「……ありがとうございます」

「いえいえ」


頭を下げてお礼を言ったら礼儀正しいなぁって笑われた
俺としてはお金を渡したいところなんですけどね。


しばらくパンを食べながらいろんな話をする
成幸さんが医者になったらイケメン医師でモテモテですね、とかそんな事ばかり。
成幸さんは恋人はあまりつくらない主義らしい。
意外だ。こんなモテるのに。



「………?」


あれ?


今気付いたこと。




「後ろに何かあるんですか?」

「ん?いや…」


さっきからチラチラと俺の後ろの方を見てる成幸さん。
ちょうど俺が通路側だから後ろは背を向けているからわからないけれど。


成幸さんにチョイチョイと手招きされ耳を寄せる


なんだ?



「なんかさっきから男の人がこっち見てくるんだよね。どっちかって言ったらガン見に近いんだけど」

「え、なんですかそれ。」


コソコソとお互い話す
成幸さんイケメンだからじゃないか?



「双葉くんの知り合い?」

「えー…と、どこの席ですか?」


窓側の奥の女性と一緒にいる人、と言われて考える


ガン見してくるくらいなら知り合いなのかな
女性とって事はカップルか。学校にカップルの友達なんていない気がするんだけど。

……やっぱり成幸さんのイケメン具合にガン見してるだけなんじゃ?


さりげなさを装いつつ、頭だけ動かす。





しかし、その時振り返らなければ良かったと後悔した。




「っ、」

「………双葉くん?」



すぐに向き直った俺に成幸さんが不思議そうな顔をする


一瞬見ただけでもわかった、その容姿。

目が合わなかっただけでもいい方だろう。


ドクドクと血が全身に送られていくのがわかるくらい心音が煩くなる




だってそこには、


俺がここ数日の悩みの種となってる人物がいたから。




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