“明日はいつも通りに”





………なんて言ったけど、




(無理無理無理無理)




朝、キッチンに立ちながらブンブン頭を振って自分と戦っている俺





「(つか昨日あんま寝れてねぇし…)」



昨日は心臓が耳についたのかってくらい五月蝿かった。
何故かやたらと湊さんが思い浮かぶし、おまけにムシムシして暑い室内


その三つの条件に頭が冴えまくる一方
寝ようと思えば思うほど寝れない


寝返りをあまりに打ち過ぎたのか、ついには湊さんも起こしてしまった。『寝れねぇの?』って言う声にあのときどれだけ体が跳ねたことか

その瞬間体が余計熱くなったから、それを利用して『あまりに熱くて』って答えたら無言でクーラー入れられた。ああ、電気代が勿体無い

けれど制止を要求する前にまた布団に倒れた湊さん


すぐに寝たらしく、微かに寝息が聞こえてきた
…わざわざ立ち上がってまでリモコン探さなくてよかったのに…


しばらくして、かなり丁度いい室温になり疲れもあったから自然と眠りにつくことができた



そのことを思い出していたら顔が緩んでいるのを感じる
ガラスに微かに写ってる自身


顔はやや赤く、目元が緩み唇がだらしなく弧を描いている




…………キモ




自分らしくないと、素直に思った。




やっぱダメだよな。
なんかいつもと違うよな俺

一日経てば、元に戻ると思ったんだけれど。





頭の中では特定の人が何度も浮かんできて、
その度に心臓が煩くなる



………だってこんなのまるで………



「いや、ない。」


頭に思い浮かんだ二文字の言葉をすぐに消去する


絶対、ないし、気持ち悪い。

つかそんな事を頭によぎらせた自分自身が恥ずかしい。もう二度と考えたくねえ。






お弁当におかずを詰めてると湊さんが寝室から出てきた

……前髪跳ねてる…。




「…はよ、双葉」

「おはよ」



まだ頭が完全に冴えきってないのか、目を軽く伏せている湊さん
だるそうにこちらに歩いてくる


「?どした?」

「っいや、」


どうやらガン見しちゃったらしく、首を傾げられて慌てて顔を背けた
うわぁ、俺あからさますぎるだろ今の



「…寝れた?」

「え?」

「昨日、眠れてなかっただろ。隈出来てる」



隈…?



同時に湊さんが手を伸ばしてきて、なんとなく先が見える


「(あ………、)」


触られる


今までの経験上、そう予想した俺は固く目を瞑った
…どっちかというと反射のような感じで。



「・・・・」



けれど、俺が予想していた手の感触はなく。



・・・?


恐る恐る目を開けたら、いつの間にか手は下ろされていた。



そして、


「我慢すんなよ」


と言って背を向けた湊さん


我慢って何のことだよ、と聞く前にリビングを出てってしまった
どうやら洗面所に向かったらしい




つか、さっき、目元撫でられるかと思った…。


自分ばかりが勝手に慌ててしまって恥ずかしい
何もしてないのに目を瞑った俺を湊さんはどう思ったんだろうか。



ふと気づいたら、再び心臓が煩くなっていた


だから、何なの俺の心臓昨日から煩いんだけど


ハア、とため息をつきキッチンに体重をのせる



………今日緑川と松本に相談してみよう

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