……金、土、日は松本の家で泊まり勉強会。




終わってしまった松本との電話を切り、携帯を閉じる
意味もなく、空を見上げていたら頬を生温い風が撫でてジトリと首元に汗が伝った。


早く部屋に戻ろう



そう思うが、やはり足が動くのを渋る。腹から下が嫌に重たい



何が俺をそうさせたんだ
さっきからしてる『俺は普通』ていう暗示が逆効果なのか


でもぶっちゃけ、あんな事を突然されたらびっくりするじゃん
なんであんな恥ずかしくなったのかは知らないけれど


「…あ。」


そこで気付いた。

俺、恥ずかしいんだ。



そう思って湊さんをチラリと見るが、やっぱり熱くなる顔




……っいや、いくらなんでも、もう恥ずかしさは抜けたっていいんじゃないか?


頭をブンブン振りながらドアの淵に触れる



カラカラと音を立てながら開いた戸に湊さんが顔をあげた



何か言わなきゃ…


「松本からだったよ。」

「…そっか」


そう言うと静かに目を緩める湊さん
…湊さん、いつもこんな風に笑うんだっけ


とりあえずソファの下に腰かける
さっきはソファーに座っていたけれど湊さんのすぐ隣に座るというのは少し抵抗があった。…というより、体が勝手にそこに座った



「・・・。」



ギシリ、とソファが鳴ったのが、湊さんが俺の座る分をあげるために動いたからということにも気づかずに。




「………なんて?」

「え?」

「松本くん。」



あぁ…松本か。
びっくりして跳ねた心臓を取り繕うように咳払いを軽くした


「来週の月曜日テストあんだけどさ、その前に勉強会しようってなって」


意味もなく手元をいじる
というか左後ろにある湊さんの気配を感じるだけでゾワゾワする、なんだこれ


「来週か。大変だな」


湊さんが軽く笑う

いつもなら大変ってレベルじゃねーよ!って言っていたところだったが、不思議とそんな余裕もない。



「それで、週末なんだけどさ」

「ん?」



…あ、なんか言いづらい、かも



「その…松本の家で泊まりで勉強会することになって。だから、金土日の夜いねぇかも」

つか、いない。


通常通りに行動するため、テレビを見ながら話す
もちろん頭にその内容は入ってこない


どうしてこんな頭ん中グチャグチャしてるんだよ、意味がわからない



自分自身にイライラしているとき、湊さんが「そうか」と言った事に少し驚いた



「いいの?」


「勉強会なんだろ、俺がダメ出し理由もない」



普通の声のトーンで言われ、納得せざるを得ない



「…うん。」



意外と呆気なく終わって少し変に思う
前泊まるってなった時は、なんか、こう…。

渋られた気がしたけれど。




「………ちゃんと勉強してこいよ」


湊さんがそう言うと、ソファがギシリとなる音がした。
視界の端っこに湊さんの腕があり、近付いてくる気配に思わず肩に力が入る

………頭、撫でてくるのかな………


どんなに頭の中で『いちいち反応するな』と忠告しても体が勝手に動いてしまう。いつもは落ち着く行為だと言うのに、心臓が暴れまくって視界がふらつく



けれど、俺の予想していた行動は起きなかった



ソファーの音が鳴ってから数秒後「…風呂入ってくる。」と言った湊さん。

ドアの開く音に顔を後ろに向けると、湊さんの後ろ姿だけがあって。



見慣れた後ろ姿




思わずその姿に名前を呼びそうになったが、何も意味がないので口を閉じる


そして、パタンと扉が閉まった






「………はぁ。」


ついさっきまであんなに『今は普通だ』とか思ってたくせに、湊さんを前にするといつも通りの行動が出来なくなる。
その結果の自分に呆れ、ため息をついた



………明日はいつも通りに。



心の中で復唱して、顔を腕の中に埋める

こんなに心臓が落ち着かないのは初めてだった。


……やっぱり、最近の俺って変だよな。

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