ワンス・ウポン・ア・タイム




『一人になっちゃった』





ひどく無機質な声が、

包帯だらけの少年から零れた







なんの感情すら感じられない空っぽの声






真っ白な部屋には、




ただただ雨の音だけが響いていて。










''………いっそ俺も、死にたかった。''








そう呟かれた言葉にゾッとしたのを覚えている









あいつは、





俺の知らない所ですべてを抱え込んでしまった。
















「湊さん」


「んー?」






「運転しづらくねーの」





握られたままの手を見つめ、ボソッと聞いてくる双葉

双葉の顔は見れないけれどきっと怪訝そうな顔をしているんだろう




「しづらい。」

「じゃあ離せよ」



本音を言ったら「バカじゃねーの」と言われた。冷てーな。
だいたい繋いできたのはそっちからじゃねぇか。



「珍しい甘えにのらない訳にはいかないだろ」



意外と暖かかった双葉の手

まさか双葉から握られるとは思ってなくて、かなりびっくりした



俺の言葉に無言になった双葉




なんだ?と思い赤信号の時に覗いてみたら、微かに頬が染まっていて



おぉ…



「照れてんの?」


「照れてねーし!」



…そんな本気で否定しなくても…

振りほどかれそうになった手を慌てて掴み直す




「片手運転あぶねーんだからじっとしてろ」

「じゃあ離せよっ」

「んー。」




危なくなったら離す

つかそこまで車ねぇし危険ではない。たぶん。




窓の外は相変わらず雨
何度もワイパーが行き来するのを無言で見つめる




………そういえば、
あの時の双葉の手は死人のように冷たかった




何の力も感じられなかった右手
今は感じられる

まあ、そりゃあ、生きてるから当たり前なんだよな。
これが普通




「…なに。」

「いーや、なんでも。」


無意識に力がこもったらしい
双葉の絡まった指がピクリと反応する






あの雨の日、

過去を拒絶した双葉




現実を認めたくなくて俺を見ようともしない。
頑丈な檻に籠って、心を開こうとしない








そんなこいつに、俺はどうする事も出来なくて。









双葉が笑顔を取り戻すまで3ヶ月はかかった
学校ではどうだったんだろうか。それはわかんねぇけど、少なくとも俺の前では無表情の連続



こいつは、人との関係を断とうとしていた





けれど。








「危なくなったらまじで離せよ…!」




そう言って俺をにらんだ双葉はずっと昔に戻ったと思う








生まれてきた瞬間から顔を知っている、
大切な大切な俺の従兄弟











『お前を一人になんかさせねぇ』






こいつにそう言ってからもう少しで一年経とうとしてる





少しでも、その痛みを和らげてあげれれば、それでいい。










まあ俺としては、







痛みを共有して、





もっとこいつを甘えさせて、









めっちゃ頼られる存在になりたいんだけどね。


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