触られたなんて、言えるわけ、ねーし…



「ぶ、つけた…」

「・・・」


我ながら苦しい嘘だ、と思う
冬馬もすっげえ呆れた顔してるし


「…俺が言うのもなんだけど、お前嘘下手くそすぎだろ」

「う、嘘じゃねえし!!」

「あーあー、はいはい」

「っ」


身じろぎする俺がうざったかったのか、また腕を塞がれた
なんでわざわざこんなっ…


「もういいだろっ、俺に嫌がらせするのはあとにしろよ!」


ただでさえ狭い風呂場で、男二人なんて窮屈すぎる。
しかも服着てるし。くそ重たいし。


「あとででもいいけど、今にしとくわ。…体、洗ってやるよ」

「っはぁ!?」


な、なにいってんだこいつ!
つかなんでそうなるどこのBL展開?なに今日俺厄日?


「いやいいよ、俺、一人でシャワー浴びてえし」

「遠慮すんなよ。ほら、腕あげろ」

「っ!」


しかもいつのまにかシャツのボタン外されてた

水で滑りにくいのに、さっさと服を(半ば無理矢理)脱がせていく冬馬
なにそのいらないテクニック


「なあ、冬馬、本当にやめ…」

「これ以上『止めろ』とか言ったら、お前の大好きな漫画燃やす」

それは嫌だ。


本気でそれを行いそうな冬馬だから何も言えなくなる。



「男二人で洗いっこなんて、お前、そういうの大好きじゃん」

「それは、俺相手じゃねーし!だいたい冬馬となんて…」

全然萌えねーよ、


そう言おうとしたら、頬をつかまれた

っい゛…


無理矢理上を向かされ、冬馬と近距離で目が合う
目が完全に冷めてて、イラついてるのがわかる冬馬


な、なんでまたキレてんの…


唖然としてると、冬馬が口を開いた



「でもお前、男に触られて興奮したんだろ?その後輩くんとやらに。」


ギリギリ、と顎に力が入って痛い
そのまま抵抗できずにいると、また唇が重なった


「ん゛んっ、ン」


唇を噛まれ、痛さに呻くが冬馬はお構いなし


「しま、島崎くんとは、ただ勢いでそうなっただけで…お前に関係ねーだろ」

「へー、シマサキっつーんだ。覚えとこ」

「なあ、冬馬、お前なんでキレてんの…」


ぶっちゃけ、怖い
俺が島崎くんとどうなろうがただの幼馴染みのこいつには関係ないじゃんか。

怯える俺の問いかけに、無言で俺を見つめる冬馬



「………なんでだろうな。」

「はぁ?八つ当たりかよ、ふざけんな!めっちゃ怖いからやめろ!」


意味わかんねえ、最悪
さっきからずっと、イライラしたり直ったりまたイライラしたり…
こいつこんな情緒不安定だった?


「オモチャ取られそうになったから、つい。」

「・・・」


………ゲスかよ。
俺がオモチャ?

冷めた目を向けると、それに気付いたのか冬馬がアゴに置きっぱの手を離した


「あー…わり。痛かった?」

「知るか」


……なんで突然優しくなったんだよ。
目も、さっきみたいに苛ついてないし…

本当、今日の冬馬おかしい


「今日、お前情緒不安定なの?」

「…そーかもね。」


なにそのぶっきらぼうな答え方。
俺をこんな目に合わせといて、しかもキスしやがって、ふざけんな


「あー、もー、いいわ。とりあえず体洗わせろ」

「はぁっ!!??なんでそうなる!」

「なんで。男同士なんだから変じゃねーだろ?お前の好きな漫画じゃねーんだし。」


そ、そう言われると…なんか…


「そんないやがられると、俺を意識してるって思っちゃうなぁ」


さっきまで、余裕の無さそうな冬馬だったのに何故か急に戻りやがった

なんで?え?


「いいじゃん。どうせ自分で洗うんだったら俺が洗ってやるから。お前は頭でも洗ってろよ」


いや、お前が出てけばいいはなしじゃん
つかなんでそんな体洗いたがってるの。
嫌がらせ続行か。


床に落ちてる俺の服を扉の方に蹴飛ばす冬馬


そして、


「下も脱げよ」


と、恐ろしいことまで言ってきた



……どうやら、俺に逃げ場はないらしい。



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