く、くさい…?



「……誰のかわかんねーけど」


「ンむッ…!」


そう言った冬馬はもう一回顔を寄せてきて唇を重ねてきた
気を抜いていた俺はされるがままキスをする


ゆっくりと歯の形を確認するように舌でなぞられてから、舌を深く深く絡ませてくる冬馬。逃がすまいと、俺の手首を掴んでる部分が痛い



角度的に唾液を流し込まれて今にも噎せそうだというのに力が抜けて頭を反らす力すらない

チュ、と水音が響く浴室
唇を吸われる度に足腰も甘い痺れで震えて、腰が抜けそうになる


やば…っ、立ってんのやっとなんだけど…!



それを知ってんのか知らないのか、濃厚なキスは終わらない



いやてか、


なんでこいつ俺にキスしてんの…!?
今さらだけどさ!


香水臭かったから?
嫌がらせに?

なんで?


「…っ、んぐ…!」


おまけにベロをガブリと甘噛みされ、拍子に水を飲み込んでしまい変な声が漏れた

それに軽く笑う冬馬

やっと離れた唇に、グッタリと倒れこみそうになる俺を冬馬が支えた


「…そういや、快キスで噛まなくなったな」

「…はぁっ…?」


なんだその言い方

乱暴にキスされたことや今の意味不明な発言にイライラして冬馬を睨みあげると、軽くニヤけてる冬馬がいた

……なにその悪どい顔
こいつ、俺が嫌がると機嫌直ってくんだよないつも

性格悪いよ本当


「初めてのディープキスで、ビビって相手の舌噛んだのどこのどいつだっけ?」


俺の濡れた前髪を払いながら呟く冬馬



「っ!!!」



なななっ!!!



昔のことを出されてカカカと熱があがる

こ、こいつ、んなこと覚えてたのかよ!
俺しか覚えてない記憶だと思ってたのに!



「あ、いや、あれは…」



誤魔化すように言葉を繋ぐ
しかし否定もできない

まだ若いときの話だし、はじめてだったし、
予行練習でキスしたらまさか舌まで入ってくるとは思わなかったし!

まだ学生時代だった過去を思い出しながら必死に言い訳を述べていく
けれど口に出す前に冬馬が先に口をひらいた


「それで、その相手って誰だったっけ。……なあ、快?」


びしょ濡れで赤く腫れてるだろう下唇をぐにぐにと親指で押される
恋人に囁くかのような甘い声色

今こいつの顔をみたら絶対意地の悪い笑顔を浮かべているのが予想できた



「………意地悪なくそ野郎」


名前は出したくなかったから、ボソッとそう呟くと冬馬が笑った



「まあハズレてないけど」



そう言ってパッ、と押さえつけていた俺の手首から手を離す冬馬
強く握られていたからか、赤くなっている



「まさかあれがファーストキスだって思わなかったし…ゴメンね?」

「うっせえ」


ごめん、とか微塵も思ってないくせに…!
なんだその顔は!
どうせならその達者な舌切るくらい強く噛めば良かった

重たい服を上に引っ張りながらため息をつく


つかどうすんだよこの服。
ばかやろ



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