２
冬馬の表情が一気に険しくなる
な、なに、怖いんですけど、
「いや、後輩の家行ってちょっと」
「ちょっと、何？」
「え、演技の練習を……」
さっきまで寝転がってたのに上半身を起こす冬馬
「……ふうん」
「…うん。」
じ、と見つめられ、どうすればいいかわからなくなる
昔からこいつは、俺が嘘をついたり誤魔化したりするとすぐ気づいてこんな風に見つめてくる
冬馬の方が隠し事多いくせに…
「…俺シャワー浴びるから」
耐えられなくなって即風呂場へと逃げた
風呂場へまでは追っかけてこないだろうという、謎の安心感に浸りつつ服を脱ぐ
……脱いでから気づくんだけど、この服めっちゃ島崎くんの匂いがするのね…
島崎くんが使う香水の匂いが服から溢れる
そりゃああんなベッタリくっついてあんな事したら匂い移るよなあ…
悶々と再び出てくるあの情景。
…………いや、思い出さない思い出さないぞ俺は
シャツを脱いで、ベルトに手をかける
胸には恥ずかしい感じで貼られてるバンソウコウ
剥がそうと胸に手を置いたその時
ガラリ、と洗面所のドアが開いた
「！！！？？？？？」
突然の事に声も出せなくなるほど驚く
ちょっ、ちょちょちょ！！？
開けた人物は言わずもがな冬馬
雰囲気はスウェットのせいかひどくダルそうで、かつイライラがこちらまで伝わってくるほど冷たい
「な、なんだよ冬馬」
普段なら特に隠したりしないが、胸にバンソコウを貼っているためバレる前に反射的に服を被り直す
「……なに、お前俺に素肌見られんの恥ずかしいの？」
今さらじゃね。と口許を歪める冬馬
……なんか、怒ってる…？
腐れ縁だから、冬馬が何かしらにキレてる事はわかる
「…なんか用かよ」
「いや。」
とか言いながら俺に近づいてくる冬馬
一歩後ろにさがるが、普通に風呂のドアにぶつかってアウト
え、まじで怖いんだけど冬馬
何なんですか
「挙動不審すぎ」
「え」
その時背後の支えが無くなる
どうやら冬馬が風呂場のドアを開けたらしい
グラリと足がもつれると同時に冬馬に体を押されて、シャワー横の壁に体を押し付けられた
「ちょ、ちょっと、冬……………わッ！？」
意味がわからず、驚きと痛みと恐怖に駆られていると頭上から一気に冷たい水がかかってきた
お互い服を着てるというのにシャワーの水を吸収して一気に体が重くなる
「何すんだ………よ…？」
言おうとして疑問系になったのは、冬馬が今までに見たことの無いような顔をしてたから。
ポタポタと水滴を垂れ流しながら俺を見下ろす冬馬
いや、前に一度だけ見たことがある
数年前に、一度だけ見せた冬馬のこの表情
「冬……………んッ」
それに固まっていたら、ゴンッと頭を鏡に打った
唇には強い圧迫感
嘘だろ……!?
徐々に温かくなっていく水温
ぬるいお湯が首筋に伝って行く時には、冬馬の舌が口の中に侵入していた
抵抗しようと手を伸ばすがそれを捉えられて顔の横に押さえつけられる
「ん、はっ、ンん…ッ」
シャワーの水なのか、冬馬の唾液なのか、わからないまま飲まされ唇を吸われ酸欠でクラクラする
島崎くんとは違って乱暴なキス
そのキスにすべて持ってかれそうで、必死に意識を保つ
熱い舌が俺の舌に絡むたびにその気持ちよさに膝がガクガクいった
「………ッハ…」
長いキスの後に、冬馬が一呼吸入れる
俺は浅い呼吸を繰り返すというのに、こいつはその一息だけ。
そして、歯の奥から絞り出すような冬馬の声が、風呂場に反響した
「くせーんだよ、バカ」
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