「うあー…。」


今日は料理番組の撮影で微かに緊張してる俺


まあ、雑誌とかドラマの撮影よりは緊張してるよ普通に。
料理番組ははじめてだしね。



「あ、篠原くん。」
「え。」


本番前廊下を歩いていたら誰かの声が。

声のした方を振り返ってみると、いつも通りイケメンオーラを発してる高田さんがいて。



今日も相変わらず素晴らしい攻めオーラですね!



「やっほー。」とパタパタ振られている手に俺も慌ててそれを返す
なんでここにいるんだろう?



「あ、え、高田さん今日は…。」

「ん?俺も撮影があるんだ。」

「そうなんですか。」


ニコリと優しく微笑まれ俺の心臓がギュッとなる
さすがイケメン。腐男子の心なんて余裕に笑顔でゲットだぜ!的な?




「そういや篠原くん。」

「はい?」



「島崎に飯ご馳走したの?」



「え。」



なんでそれを。
突然の話題に瞬きをする。


首を微かに傾けている高田さんに俺は硬直
笑顔、なんだけど…


目が笑ってない。



なんで、と疑問に思う前にその理由がすぐに思い浮かんだ。

………絶対島崎くん関係だ…。




「え、はい…まぁ…。」

ここで下手に嘘をつくより正直に言った方がいいだろう。
高田さんは僕をジッと見てから「ふーん。」とつぶやいた。


やっぱり機嫌が悪そう


……俺、もう高田さんが怖くてしかたねぇよ…!
なんですか、その意味深なふーんは!
なんですかぁ!


「怒って…たり、します?」
「そんな事ないよ。」


さらに笑顔が張り付いた。

…そんな事ありますよね。


島崎くんを誘ったのが原因…ってしか思えない
俺の島崎に手ぇ出すなんていい度胸してんじゃん?ってか!
もしかして俺、完全に敵に思われた!?


高田さんが一途に思うようになったことは嬉しいけど、近くで見れなくなるのは嫌だ!!


あわわわ、と内心焦りながら高田さんを見上げて話を聞く


「あ、あの…」

「…なぁ、どうして俺誘ってくれねーの?島崎と二人きりの方がよかった?」
(なんでてめぇ俺の島崎だけ誘ってんだよ。下心見え見えなんだよ)


…あ、やべ。心の声が聞こえる。完全に俺の妄想であるが。

恐怖に足を一歩下げるが、すぐに詰められる距離


下心は持ってませんっ!!!


「いや、あの…!た、高田さんお仕事忙しいかと思って…。」

「島崎も同じくらいじゃん。」


ニコ、と微笑まれても怖さが倍増するだけです。
気がついたら俺の背中は廊下にぶつかっていて、これ以上逃げられない
だというのに、高田さんはさらに距離をつめて俺の頭の横に手を置いた



これ、もし俺が他人だったらすごい萌える構図なのに。なんで俺なの。

むしろ、今なら素で泣ける怖さ


「えー、と…俺、」

至近距離にある高田さんの顔から目を背けながら何かを答えようとする
なにかって何だよ


でてきません。


「………今度は俺を頼れよ。」
「え?」


まじで泣きそう5秒前、ふとそんな優しい声が響いた
幻聴かと思って高田さんを見上げてみるけどやっぱり高田さんが呟いた言葉らしく。


「あんな奴より、絶対俺の方が使えるから。」と小さく笑みを落とされた


どぇええ…!?
え、なに!?料理の話、だよね?


「いや、でも、そんな…!」

悪いですよ!


「すっげー上手らしいじゃん?俺家庭的な料理とか久しく食べてないんだよね。」


ついででいいからさ、と言われても戸惑うことしかできない

だってそんな!先輩でもある高田さんに俺の庶民的な料理を食べさせるなんて…!島崎くんは後輩だからつい甘えちゃうんだけど…!


「やっぱダメなの?」

「そんなことはないですけど…!」


首を傾けられ俺は慌てて頭を振る
高田さんが良いなら、別に……


「次持つ番組料理系なんだし、やっぱ試食する相手は多い方がいいと思うんだよね。」

「そうですか?………って、」


ん?



なんで、俺が料理番組出るってこと知ってるんだろう。
そういえばさっきも「俺の方が役に立つ」って言ってたような…。



俺の反応を見て、「あぁ、」と苦笑した彼


「島崎から聞いたんだよ。」
「あー……。」

納得。島崎くんか。

てか、そういう話のやり取りをするくらいの仲なんですね!ハアハアハア



「……俺の練習料理なんかでいいなら、全然いいですよ。」



二人のイチャイチャドキッな光景を見ることができるかもしれないし!
あ、なんか楽しみになってきた



「やった。」


そんな俺の言葉に子供みたいな微笑みを落とした高田さん
………無駄にイケメン、っていうか今のギャップなに。



「んじゃ、俺行くわ。連絡よこせよ。」

「あ、はい!」



俺の顔の横の手をどけて体を離した高田さん
離れるときにふわっ、と煙草の匂いがして軽く頭が麻痺する。大人だなおい。

……あれ?

てか、高田さんって煙草吸うんだっけ。
この前は全然煙草の匂いしなかったのに…。



「あ、次の撮影よろしくな。」

「はい、よろしくお願いします!」


ペコリと頭を下げて高田さんを見送る




「……………ん?」



次の撮影、よろしくな?




ん?
え?




この言葉の意味を知るまで、あと数分。





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