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「まあ、藤がむっつりだろうがなんだろうが俺は構わないよ!」

「…どうも」


親指を立てた俺に藤が適当に相槌を打ってきた

今度一緒にオススメのAVを見せてやろう!!藤だってあれをみたら表情が崩れるはずだ!

男が煩悩持たないわけないもんね。獅子尾先輩は漏れ出てるけど会長だってただの変態かもだしね 神崎先輩のストーカーかもしれない しんでくれ


「・・・なんだよ」

「なんでもないですがぁ、なんですかあ。」


会長が俺に目をあわせてきて(俺がガン見していたともいう)眉を寄せた

くあぁ〜だめですわ
俺この男だけは好めませんわぁ憎たらしい


「おい、駄々漏れだぞテメェ」

「うぐぁあああ殺されるうううう」

「うるさっ!!つかザコいなしゅんしゅん!!」


会長に襟をひっぱられて反射的に叫び声があがった
え、つかいつのまにか漏れてたの俺の本音。


「と、と、といれーいきたいですーー!」


慌ててソファからガバッと起き上がり、地に両足をつける
靴は・・・片っぽ履いてるけど、片っぽどっかいってる・・・!


「大丈夫?ひとりで行ける?」

「うん!」


さっき行ったし、場所はわかってるから何ら問題はない。
これは逃げるんじゃないぞ、俺がトイレ行きたくなったから行くんだ
さっき誰かさんが、セクハラしたせいなんだぞこれはきっと。
…それもどうなんだろう!


藤がもう一個の靴を渡してくれて歩き始めた途端、世界が歪んだ



おっ、


おおおおあっ!!?



「ふぐっ!!!!!!!!!!!」


まるで世界が回っているようだ!!!
ぐらぐらと揺れる体を必死に支えようとしたが、そのままバタンッと鈍い音を立てて倒れた俺


「し、シュンシュンー!!」


獅子尾先輩が遠くで叫んでる気がした。
あれ、なんか予想以上にひどくない酔い?ん?さっきの羞恥で血流いきなりあがったからかな
痛さもあまり感じなかった。



「ハル、大丈夫?」


すぐに駆けつけてくれた藤が俺のことをゆっくり起こす

す、すごいコーヒーカップの世界のようだ



「だ、だめえ」


ザコすぎる俺。普通に耐えることを諦めてる
藤が「だから飲みすぎってあれほど…」と呟いているが、もう過去はどうすることもできない。今をどうにかするしかない



「馬鹿かあいつ」


なんか今すげえむかつくこと言われた気がする
今日おれ会長に何回馬鹿呼ばわりされた?ねえ、俺が本気出したら会長なんてポンポンポーンなんだからね。まだ本気出してないだけだから。まだ本気出すとこじゃないから。


「立てる?トイレいくよ」

「うんー。うん・・・。」


半ば、赤ちゃん抱きのようにされながらゆっくり運ばれる
もちろん俺は歩いてるけど、かなり足取りが悪い。自分でもわかるくらい。
獅子尾先輩に指さされて笑われてる。


「重い・・・。」


藤が呟いた。
だって、男の子だもの…。

おかしいなー、歩けると思ったんだけどなあー。
まあさっきから何もしてないのに息切れはしてたけど。


藤に「着いたよ」と言われて、顔をあげると、トイレが目の前にあった。
ご丁寧にドアまで開けてくれた藤にお礼を言い中に入る

やばい・・・グラグラしすぎてるぜ俺・・・。


やっとの思いで用を足し、手を洗ってトイレを出る

すると、コップを持ってる藤がいた。あれ、いつのまにコップ。



「ほら、水。もうお酒は終わり。」

「う、うーーん」


お楽しみの時間おわりすか…。
水をじっ、と見た後チラリと藤を見る。が、首を振るだけ。


「もう千鳥足レベルなんだから。」


子供に諭すように言う藤

・・・確かにこれ以上藤に迷惑かけられないしなあ・・・。今もなぜか藤の肩に両手乗せてるしなあ・・・何してんの俺・・・。

ついに立っているのがしんどくなってその場にしゃがみこんだ。

やたら息が切れるし、あー、しんどい


「藤がよく見えねえ〜」


意味もなく笑いながら藤の手を取る
おっ指輪 親指に指輪つけてるなんだこいつー


「この手で何人殺したの?」

「いや、0人」


あっそうかそしたら藤ここにいねえか あっはっは

「確かに〜」と言いながら横になろうとしたら「いくら綺麗だからってトイレの前は汚いよ」と腕を引っ張られた

ええー?
でもヤンキー座りキツいっす


「も、動けないし動きたくもないです」

「ほら、水どうぞ」

「水も飲めましぇーん。飲ませてくださあい」


しゃがみこんだまま火照るおでこをゴシゴシする あつい ここはサウナか

そんな俺にため息をついた藤
あからさまにそんな事されたって俺は動けんのじゃ トイレするのに全てのエネルギーを使ったのじゃ

ぼーとフローリングを眺めていると視界の端に水を飲んでる藤が写った

…んん〜気持ち悪くなってきた気がする やっぱり明日二日酔いとやらになるのではないだろうか

まあどうにかなるかな…

そう呑気に考えてゆらゆら揺れていたら、おでこを擦っていた方の腕を藤に掴まれた

んぁ?

俺の視力も限界なのか、藤の顔がぼやけていて見えない。

いや、違うこれは藤の顔が近いからだ
いつの間にか同じ目線の高さにいる藤


「?」


なんでこんな目の前にいるんだ?
よくわからなくて首を傾げると、今度はもう片方の手が顔に添えられた

俺の顔も十分熱いはずなのに、藤の手の方が熱く感じる



「藤の手、あついね」



そのまま口にしたが藤からは返答がなし そのかわりに「そう?」と言いたげに目が笑った

藤の黒い瞳に俺が写っている気がする
そんな近くにいるのかな

よくわかんなくてぼうっとしながら藤の目の中の俺を見ていたら、唇に違和感を感じた



・・・。


なんだ、この感触。




「・・・んっ・・?」


間抜けな声が漏れた

その瞬間、唇の隙間から生ぬるい液体が入ってきて身体が強張る



こ、

これは、



「んぇっ…ん゛んっ」


目の前には、藤の顔。


キスされてる事実にびっくりして噎せそうになったが、藤がうまく口を塞いできたため液体はそのまま俺の喉の中へ

酔ってるせいで、頭がうまく働かない
これって、もしかしなくても、口移し…


「んん…っ、く、」


やっとの思いで、ゴクリと音を立てて水を飲み込んだ
それに対して俺の頬を親指でゆったり撫でてくる藤


「よくできました」


その声に余計頭がクラクラした
目を開けても焦点がうまく定まらなくて、空いてる手で藤の服を握る


熱い…、なんだこれ…



「ッ…ふ…」


じ、と名前を呼ぼうとしたら、また唇が重なってきた。なんてことだ。

藤も酔っているのかもしれない。
それとも俺が言うことを聞かなかったから嫌がらせをしてるのか



「…ん…ぁ、ぅ…」

ゆっくり動き始めた藤の舌らしきものにゾクリと不思議な感覚が走る

熱い。とっても熱い
藤の手も、俺の口内をゆっくり犯すこの舌も。

なんか…変な気分になる…


気づいたら俺は尻餅をついていた
藤は俺の腕を離さないままどんどん深く俺にのしかかってきている
馬乗りされてる状態。

…てか、さっきトイレの前で寝転がるなって言っといて、今完全にお前が俺を押し倒してるよね


「…ぁ…はぁっ…んン…」


うっすら目をあけると、なんとも色っぽい目をしている藤と目が合った。その目線に不覚にもドキッとする。いったい俺はどんな顔をしているんだろう。


そう思ってたら唇の圧迫感が消えた


「っ、はぁっ…はぁ…」


新鮮な空気をやっとの思いで吸い込む
ゼエハアしてるとは違って余裕な顔で見下ろしてる藤

無意識のうちに強く握っていた藤の服を離すと、藤が俺の口元に指を持ってきた


「もう一口飲む?」


そう言って、首を軽く傾げながら俺の口元を拭う藤
その感覚と表情に鳥肌が立った

藤の目が、完全に、俺の知ってる藤ではなかったから。


「ひ、…ひぃえ、いいでふ」


首をブンブンしながら、力の入らない足のおかげで腕で後ずさりする

ふ、藤にとんでもないことされてしまった
きすだ

しかも、ディープキス。
・・・全く抵抗できなかった。


「う、うぉおお…!」


羞恥で顔を両手で覆い、小さく雄叫びをあげる。やたら俺の声が部屋に響く。でもこうさせたのは全部藤君のせいであってだね。君ね、そんな第三者ヅラしてるけどね、


……あれ?


そこで、俺はある違和感を感じた

確かに、俺はさっき自分の小さな雄叫びがやたら響いて聞こえた。これは別におれがよってるからとかじゃなくて。

……なんか、静かじゃない?ここの部屋。

恐る恐る周りを見渡す。
が、すぐに後悔した。




みなさん、こっち見てらっしゃるんですけど、藤くん





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