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ん?


なに、今の?



ゆっくりと自分のおでこをなぞる




…………確かにおでこには柔らかい感触がした。




初めての感触。
そして、目の前には先輩のクラスTシャツの色である、青


石のように固まってしまった体を無理矢理動かして上を見上げると確かに、神崎先輩が目の前にいた




……今、俺は、

もしかしなくても、神崎先輩の唇にキ………





を?



唖然として先輩を見上げてると、その唇が綺麗に弧を描く
近くで見て初めてわかった唇の下にあるホクロが歪んだ





…………俺の気のせいじゃ、ない




「せ、先輩、何してっ!?」




自覚した瞬間脳みそが沸騰して溶けてしまうのではないかというくらい頭から全身があつくなった。

全身の穴という穴から汗が吹き出る感じ。


それを見て先輩が笑う


「すごい、茹で蛸みたいだね。」


先輩の手の甲が俺の頬を滑る
先輩の手は冷たくて、それでいて細かった



な、なんてこったい!!!



16年近く生きてきた自分でも理解できないようなクラクラ感
血の出しすぎなのか、それとも他のものに当てられているのかわからないけれどとにかく体が定まらなかった


ぶっ倒れそう……




「あ、あの、えっと、」



やっとの思いで言葉を紡いで先輩の顔を見上げる



けれど先輩の笑顔があまりにも色っぽくてすぐにうつ向いてしまった



や、やばいやばい、なんか、俺ごときが近くでみちゃいけないんじゃないかってくらい綺麗っつーか…大人?大人な色気がある。なんだこれ



「そんな顔してるともう一回キスしちゃうぞ」

「っ!!!!!!!!」



突然耳元で囁かれて体が跳ねた
そりゃもう面白いくらいにビクン、と。



「さっきなんでキスしたかって聞きたいの?」

「は、はい…」



なんでこんな近距離で囁かれなきゃいけないんだってくらい近くで耳に先輩の息がかかる。唇もつきそうだし、おまけに少し低めのかすれた声。

ここが保健室だからなのか。そうなのか。


それにしても俺ほんと色々限界なんですけど、心臓が別の生き物みたいにうるさい。まるで地面にあげられた魚みたいだ。ビタンビタン…いやでもさすがにドキドキだけどね。ドックンドックンかな。そろそろ破裂するんじゃないかな。



「杉本くんがキスしてほしそうな顔してたからだよ」

「へっ…」


その言葉に唖然とする
まさか、そんなこと言われると思わなかったから。


「杉本くん、俺の唇見すぎ。」

「へぇええっ!?」


「……そんなに気になる?」



と顔を近づけられ びっくりして下がったら後ろにひっくり返った



お、俺、そんなみてた?確かにみてたけど、見てたけど……!!
気づかれてたなんて思わなかったっていうか!!!


恥ずかしさがマックスになった。



「そ、そんな、そんなつもりじゃないんですっ、あのっ」

声にならない声をあげて必死に訂正をする


「じゃあ、どんなつもり?」


ひっくり返った俺に追い討ちをかけるように、先輩が俺に覆い被さる



ちょ、な、なにこれぇええええっっ




俺の頭の横には先輩の手


バタバタと暴れる俺の足を抑えるかのように先輩の足が絡んできた




意味がわからず俺の頭には?マークの嵐
わからない、先輩がわからない

てか先輩良い匂いするし…なんか、甘い、匂い…




「…杉本くんって、本当…」

「……え?」


先輩の匂いに頭がボゥ、としてフワフワした気分になっていると先輩の苦笑が聞こえてきた


気づいたら顔の距離も数センチ





だめだ。
今日一日だけで俺の脳みそは働きすぎた



動かない体

に対して頑張る心臓



頑張りすぎて心臓とまんじゃね?


って思ったとき。



『シャッ』とカーテンが開く音がした




「「・・・。」」


「なにてめーら盛ってんだよ」





そこには、本気で嫌悪の表情を浮かべる保健の先生がいた。





押し倒されている(ように見えなくもない)俺に、押し倒してる(ように見えなくもない)先輩



や、やばいんだぜ…!


「お疲れさまです伊吹先生」


!?


こんな体制だというのに何事もないように話しかける神崎先輩

俺はそんな先輩の横顔を驚きながら見つめる
すげえ、普通慌てて うわぁってなるんじゃないのか。



「…………君ね、副会長だからって許されると思うんじゃねーぞ?」

「思ってませんよ。ただ離れるの勿体ないなって思って」

「自室でやれボケ」


「自室かあ…」



仲がいいのだろうか、二人の会話が弾む
俺は二人の会話をほとんど聞かないで先輩の横顔をみていた


もしかしたら夢かもしれないから、その分幸せを噛み締めとこうと思って


けれど、先輩と突然目があったからドキリと胸が鳴る

そして、一言。




「俺の部屋来てみる?」



ニコリと笑う先輩


無論、その言葉に俺はキャパオーバーで気絶しました。

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