「とられた!ピン取られた!」

「ハイハイ、そのうち返ってくるからねー」


悠哉が俺をガキ扱いして頭を撫でる
ぶっ殺されてえのかてめえはよぉ!



「藤、後で、覚えてろよ…」


許せねえ…島井ちゃんのピン留め…


歯軋りをしながらコートに視線を移すとさっきよりなんか周りがザワザワしてた
何にザワザワしてんのかわかんないけど、騒がしい



……ん?てか待てよ、あいつ、ピン留め借りってったってことは……




「もしかして今顔オープン!?」



ガバァッとすごい勢いで立ち上がった俺に江道が「は?」と言った

こちらに背を向けている藤はしゃがんで、靴紐を結び直している
もう前髪オープンはしてるんだろうか。


足ジャージの裾を捲った藤はなんか立ち姿がイケていて。
まあ背も高いから…………あれ、なんか腹立つな。



そして、立ち上がった藤はそのまま足を進めた




ええええええこっち見ろよおおお




「あいつ俺に顔一度も見せたことねーんだよ!」

「まじで?そりゃすげーわ」


すげーわじゃねえよ!お前!
あんなに俺に見せねぇくせにこういう時見せるってどういうこと!?つか結局俺に見せてくれてねーし!


よくよく見てみるとみんなして藤を見てザワザワしてる


藤くんザワザワされるような顔してるの?それとも うさちゃんのピン留め効果か?可愛いもんな早く返せ



そんな周囲に関係なく試合は続いていて
忙しくドリブルしながら駆け回っている集団の中に藤が入ると、同じクラスの奴が藤に気づいたらしい



「藤!?」と遠くにいる俺らでもわかるくらい大きな声で確認をしている



え!?なにやっぱりそんなびっくりしちゃうツラしてんの!?
ちょっと待って俺も見たい!



「悠哉!俺を放せ!」

「え、今放したら面白くないから放さなーい」



ざっけんなあああああああ

ガシリと脇の下に両腕を入れられホールドされてしまった
俺が面白くないから!!!



そんな時ボールが7組に渡って、はたまたあっち側に行く集団
こちらに背を向けている藤は体をこちらに向けてくれない


………つか………



藤ってあんなに動けたんだな



俺の知ってる静かな藤くんどこ行っちゃったのってくらい動きが俊敏

今だってパスカットしたし


「藤くんフォロー上手だね。」

「そうだな、早く放せ」


藤の顔を見ようと躍起になって暴れてるとき悠哉が楽しそうに笑った
お前俺をいじめて楽しんでんだろ



「待て!今奴はボールを持っているため顔を隠す余裕がない!から今こそダッシュであっちに行くべきだと思うんだ!!!」

「必死だな」



江道も見てねーでたすけろよ!
我関せずって顔してんじゃねーよ!!!



くっ、ここはどうにかしてでも…!


悠哉の腕をギュッと握った



「ちょっ春也、腕の関節、いっ、いたたたたた!」

「放さねーと折るぞ」


「どんだけだよ」


あれ?なんで俺が江道にそんな呆れた顔されないといけないの



暴れつつどうにかして体を反転させたら離れた腕




ついに悠哉の腕から脱出した!




と喜んだその時、




「「あ」」



江道と悠哉が声を揃えた




「あ゛ぁあっ!?」



その声に俺もグリンッと体をコート側に反転させる










そう思ったときには藤の手元からボールは離れていた




素人でもわかるような綺麗なフォーム
あんな細い腕のどこにそんな力が、と思うようなボールの飛距離に俺はポカンとした



………嘘だろ?





その驚きの光景にシンとしていたギャラリーだったが、

綺麗に弧を描いたボールが『パスッ』と音を立てて網に吸収された瞬間、ワッと騒がしくなる




こいつ、

3P見事に決めやがった





「わー、藤くんすごーい」





一層煩くなった歓声のなか、悠哉が呟く




確かに、決まった
そりゃもう俺が驚いちゃうような綺麗な形で。




・・・。




「嘘だあああああ!!!!」




まさか藤にそんな格好いいシーンをされるなんて思ってなくて絶望
決まったら決まったでなんか微妙な心境なんだけど…


だって3P決めるとか超格好いいじゃん!腹立つ!



シュート入れたことで、7組のバスケやってる人に揉みくちゃされる藤



そんでニャンちゃんの視線を総奪いしやがってる。
羨ましい!!!!!!




そして再びボールが2組に回りこっち側のゴールに戻ってくる集団

今度こそ藤の顔見れるか?よしその情けねえだろうツラを拝んでやるよ!!




と思ったが、


まあそんな良いように事は回らず。




クルリとこちらに踵を返した藤


じっくりと見ようとした瞬間、ピン留めをとられまたいつものような髪型に戻ってしまっていた


ぐああああ



「ハル」



試合中だからかちょっと駆け足でこちらに来る藤

俺の名前をいつものように呼ぶ




そして、



「泡盛、よろしくね。」




そう言って笑った。

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