消せないあなた
嫌な朝を迎えたけれど、なるべく冬彦にはいつも通りにふるまった
そんなことより俺には授業参観という名の大きなミッションがある。
あんな夢、ただの夢だ。
そして悩みの種の一つは、服装について。
服装に悩みまくった挙句ググった。
スーツが一番無難らしいがもちろんラフスタイルなものでもいいとの事。
だから書いてあるとおり、シャツ+ジャケット+スキニー系のチノパンで行くことにした。
浮いてないと、いいなあ…!
服もそうだけど、そもそも弟の授業参観に来る兄って全国に何人くらいいるんだろう。
しかも俺の歳中途半端だから、下手したら父親に見られるよね。でも若すぎると。
そんな事を思いながら弟の教室を探して学校の廊下を歩く
俺が昔通っていたこともある廊下だから、悩むことなく校舎内に入れた。
そして、悩みの種2つ目。
「ねえねえ、あの人父親にしては若くない?」
「本当だぁ…」
奥様達の会話が耳に入ってきて、ドキリとした。
やっぱ言われるのかこういうこと…
彼女たちからしたら悪気はないんだろうけど、俺は気にしちゃうわけで。
「・・・。」
いや、負けるな俺。
冬彦、俺はお前の保護者として自信を持って参観するから!
あまりに彼女たちの視線が気になったから笑顔で会釈してやった。
そんな俺に目を見開く彼女たち。サッと目を逸らされた。
塾講師なめるなよ。
階段を上がって2階。
4-2が冬彦のクラス
チャイムが鳴る2、3分前だからか廊下に生徒はいなかった。
冬彦のクラスの前で少しだけうろちょろしていると、机の上に名簿が載っていることに気づく。
んー、と
あ、これに何か書けばいいのかな
丸を書いてくださいって書いてあるからその通りにする。
すでに丸はいくつもついていて親御さんが中に入っていることを知った
うわー…やばい、謎の緊張。
授業でもこんな緊張したことない。
でも冬彦が待ってる。
冬彦の様子をみるため、俺はやってきたんだ!
気合を入れ直し、名簿をガン見していた顔を上げる
が、その時、
ふと、担任の名前が目に入ってしまった。
その文字の羅列に、指先からざわざわと血の気が引いていく
嘘だろ
担任: 雨森 千史
胸にわだかまっていた不安が一気につきあげてきて、頭が真っ白になった
もし、この人が彼なら、
俺はいったいどんな顔をすればいいんだ。
「そろそろ授業が始まるので入って貰ってて大丈夫ですよ」
突然の男性の声に、反射的に顔をあげた
低くて癖のない声。
・・・俺はこの声を、知っている。
恐怖に似た緊張が全身に駆け巡った
そして、その人の顔をみた時
心臓が潰れそうになるのだ。
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