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授業が終わって、帰りの会が終わったあと懇談会があるから帰らずに待っていた。

こんな長い時間彼の声を聞いて、彼の姿を見ているのは本当に何かの罰なのかと言いたくなったけれど我慢した。仕方ない、保護者だもの。


そもそも彼をこうやって意識しまうあたり、俺がダメなんだけれど。
元恋人に会ったら、何パーセントの人が動揺してしまうんだろうか。




生徒が帰った後、保護者と先生だけの懇談会が始まった。

内容としては今後の行事だとかクラスの様子だとか、問題点だとか。



千史さんはそれを淡々と話していったし、奥さん方からの質問にも丁寧に返していた。



それを見て改めて、ああ、この人はやはり教師なのだと実感した。
俺が塾に通っていたころとは、全く違う。
あの時はもう少し茶目っ気があったというか、少しふざけた態度を取ったりしていた彼。


塾の講師も、充分責任ある立場だったけれど、レベルが違うのだろう。

・・・それか、保護者の前だから真面目ぶっているだけかもしれないが。





「ほかに何か質問のある方はいますか?」


その言葉に懇談会も終わりが近づいてるのがわかった。
はあ、やっと帰れる。


特に保護者の人たちも質問があるわけではないらしく、静寂が訪れる




「それじゃあ、今日はお集まりいただいてありがとうございました。気を付けてお帰りください」



千史さんが笑顔を浮かべて会をお開きにさせた

ところどころで『お疲れさまでした』と飛び交う声。俺も一応隣の人に「お疲れさまでした」と声をかける。



すると、隣の奥様に話しかけられてしまった。




「あの…冬彦君のお父さん…なんですか?」



たぶん、多くの人が疑問に思っていたんだろう。
視線が俺に一瞬集中するのがわかった。

・・・仮にも同じ学年なんだから、俺の父さんの顔くらいしってるんじゃないか?って思うが、考えてみたら単身赴任してるから学校行事来た事ないな。



「あ、いえ。兄です。…歳がかなり離れているんですけど」



苦笑しながらその奥さんに返事をした。
それに納得したように「なるほど〜」という奥さん



「冬彦君も綺麗な顔してるけどお兄さんも随分格好いいのね〜」


「いえいえ…」



お世辞だとわかっているけれど、普通に照れてしまう。

そして気づいたら、いろんな奥様方に囲まれていた俺。
えっ…若いとやっぱり注目の的になってしまうのか



「お兄さんだったのね!随分若いと思っていたのよ!」


「入ってきたときとんでもないイケメンパパがいるなって焦っちゃった」



それらの言葉に苦笑で返す

「いつも冬彦がお世話になってます」と付け加えて。
誰が誰だか全くわからん。



「お母様は?美智子さん」

「あ、父の単身赴任先についていってしまって…」



俺の言葉に「あら、そうなの〜〜」とハモる奥様方


もしかしてあと30分くらいは質問攻めされるのではないかという勢いについつい押される俺
どうにかして逃げられないかな…

というか、千史さん教室閉められないんじゃ、と不安になる



チラリ、とほんの一瞬だけ千史さんがどうしているか覗き見る



千史さんも奥さんたちに囲まれていた。
やっぱり人気なんだろうな、と思っていたらバチリッと目が合ってしまって。


うっ・・・!




慌てて千史さんから目を逸らす


意識されているのだけはバレたくない。






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