スラムダンク | ナノ

 6

眩しい……もう、朝か。

外の様子を確認して、管理人室の備え付けのベッドから降りた。
普段使っているベッドとは違うから、少し体が痛かった。

今日はよく晴れているようだ。
昨日の雷が嘘みたい。
あれは、夢の中の雷だったのかな?
結局、どこからが夢だったんだろう。
それに、いつのまに眠ってしまったんだろうか。

起きたらちゃんと管理人室にいたし、ほんとにわかんないや。

でも、今はもう現実。
ちゃんと今後の未来を考えていかなきゃ。


うん、大丈夫。


頑張れる。


湘北のみんなに貰った元気が、感動が、私の中に残ってる。


それを糧にして、これから頑張る「チース!おはよーさん!」


……ぞ……!?

「ここってもう開いてるのか?ちょっと自主練してーんだけど」

「え!?リョータ!?なんで?」

「なんでって。だから、自主練!」

「あ、ああ、ど、どぞ!」

挙動不審の私の横を、不審な目つきで通り過ぎるリョータ。

な、なんで?
夢じゃなかったの!?

いつまでもその場に立っていると、再びリョータに話しかけられた。

「お前、何時からいるんだ?ずいぶん早いけど」

「何時からって……昨日は管理人室で寝ちゃって……」

「うおっ、ってことは風呂は入ってねーのかよ!」

「…あっ」

「ちょ、おまえ!ほんとに女か!」

「うわわわ、シャワー室行ってくる……!」

ぎゃああ!!
そんなことを指摘されるなんて!!
しかも、なんでいるの!
夢はまだ続いているの?
それとも、夢じゃないの、これ?

慌ててシャワー室に向かうと、その途中で外の景色の異変に気づいた。

「……私の知ってる町並みじゃ、無い、んだけ……ど……」


……一体、どういう事……?


頭をスッキリさせるためにも、さっさとシャワーを浴びることにした。
そして、Tシャツとハーフパンツの運動スタイルで体育館へと向かう。


「亜子さん!!おはよーございます!!」

「おお、はよーッス」

「……ッス」

「え、あ、お、はよう……」

入口に差し掛かったところで、桜木くんと三井さん、流川くんと出会った。
みんな、朝練がないかわりにこっちに来たらしい。
私の頭は混乱を増すばかり。
適当に使っていいよ、と指示をし、一旦管理人室に戻ろうと思ったその時。

「おはようございます」

声のした方向に目をやると、カーネルサン○ースによく似たあのお方、安西先生が立っていた。

「!?お、おは……ようございます」

慌てて返事をすると、安西先生はニコリと微笑んで。

「貴女が……蜂谷亜子さん、だね?」

「あ、はい、そうです……って、え?」

夢の中の設定だと、私って安西先生の姪っ子っていうことになってるんじゃなかったっけ?
その姪っ子に対して、なんで疑問系?

「話があるんだが、いいかな?」

「……はい」

神妙な顔をした安西先生。
一体、何の話があるというのだろうか。
内容も気になるので、管理人室へと通した。




ソファーに座ってもらい、お茶を出す。
それから、話を聞くために私も真向かいのソファーに座った。

「単刀直入に聞きますよ。貴女は、私のことを知っていますか?」

知っているかと聞かれれば。
漫画の登場人物だということは知っているけど、実際には会ったことないし……これは、どう答えたらいいんだろうか。

「答えあぐねているようですねぇ」

「……かなり、混乱してるので……」

「では、違う質問にしましょう。ここは、貴女の知っている世界ですか?」

……!

どういう、ことだ。
安西先生は……私の置かれている今の状況が、理解できているのだろうか?

「あの、一体どういう……?何が言いたいんですか……?」

「まずは、質問に答えてからですよ」

嫌な言い方をしてしまった、と思った。
それでも、安西先生は気に止めず、ニコニコと話を進めるように促す。

「……知っている……けど、私の世界じゃ……ない、です」

ああ、何を言っているんだろう。
もしかしたらまだ夢が続いているだけのことかもしれないのに。
私って、こんな意味不明なことを言っちゃうようなヤツだっただろうか。

「……やはり、そうでしたか」

「え」

「話が長くなりそうですが、ちゃんと聞いてくれますね?」

「は、はい」

私の返事を聞いてから、安西先生はぽつりぽつりと話始めた。






昨日、安西先生が起きたとき、机の上に走り書きが置いてあったらしい。
自分の字なのに自分で書いた覚えのないことばかり。

そこには蜂谷亜子……、つまり、私が姪っ子だという事と、この体育館の管理人が私だということ。
そして、湘北高校の体育館の改装工事のこと。

書いた覚えがないことばかりか、身に覚えもなく。
姪っ子なんていなかったし、そんな体育館があることも知らない。
そして、高校の体育館の改装工事の話も聞いたことがない。
不審に思って色々探りを入れてみたが、自分の妻は蜂谷亜子のことを知っているし、バスケ部のみんなは改装の話も知っていて。
どこで部活をやるのかと思っていたら、いつのまにか自分がこの体育館でやるように、と指示を出したことになっている。

一瞬、自分が違う世界に迷い込んでしまったのかと思ったそうだ。
はたまた、夢をみているか。

「その状況、私と同じです……!」

話の途中だったが、そう叫ぶと、安西先生はやっぱり……と呟いた。

「私が別世界に迷い込んだと思ったのですが、それは貴女のほうだったようだ。何か、思い当たる節はないのかね?」

「思い当たる……?」

「小説なんかでよくある話だと、地震とか、雷とか、事故にあったとか……」

「あ、か、雷!昨日、雷がここに落ちたような感じがしました。体育館自体も激しく揺れて……」

「ふむ。では、それが原因と考えて良さそうだ。……時に、蜂谷さん。キミのご両親は?」

「両親……は、いない、です」

安西先生に聞かれ、私は両親の話をした。
事故のこと、そして、この体育館のこと。
話せることは、全部話してしまおうと思って。


話が終わると安西先生は眼鏡を外し、お茶を一口ゴクリと飲んだ。

そして、ゆっくり息を吐いて。

「もしかしたら、私はとんでもない使命を背負ってしまったのかな」

「え……?」

「蜂谷さんを、助けてやれ、という神様からの、ね」

……なんてこっ恥ずかしい事を平然と言うんだ、この人は。
でも、話を聞く限りだと、安西先生は私に巻き込まれたっていう形になりゃせんかね……!

「あ、あの、本当にすみません!私、どうにかして元の世界に戻れるようにしますから!」

「でも、戻ったところでキミの幸せはないのだろう?」

図星を突かれた。
まさに、その通りです。
でも、安西先生を巻き込むのはとっても申し訳ないと思うんです。
下を向き、返事をしかねていると。

安西先生の暖かい手が、私の頭にぽんっと乗った。

「私の、姪っ子になりなさい」

その言葉に驚いて、思わず顔をガバッと上げる。

「金銭面などは全く問題ないようだし、ちゃんとこの世界での戸籍も作られているようだ。どんな経緯でこうなってしまったかなんて、人間の理解できることではないのだろう。でも、キミは今、ここにいる。だったら、ここがキミの生きる世界なんじゃないのかね、きっと」

「同情……ですか?」

「違うよ」


即答。

「ほんとに、私、ここに居ていいんでしょうか」

「うん、いいんだよ」


暖かい。


……お父さんを、思い出しちゃった。


安心感のある手。
私の事を、大切に思ってくれていた、大きくて…暖かい手。

安西先生の手は、お父さんの手に似ていた。

気づけば、私はぽろぽろと泣いていた。
そんな私の頭を、安西先生はゆっくりと撫でてくれていた。

夢じゃなかったんだね。

違う世界に、足を踏み入れてしまったんだ。

私、ここに居てもいいんだ。


「あり、が、とう、……ございます」

声を振り絞って、たった一言しか言うことができなかった。
それでも安西先生が微笑んでくれたことが、すごく嬉しくて。
私の涙は、なかなか止まってはくれなかった。
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