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試合終了の礼を交わした後、喉が渇いていたのでペットボトルを取りに移動した。
「……負けちゃったか」
思わずボソリと呟いてしまったが、負けたことよりも楽しかったっていう思いのほうが強くて、顔はニヤニヤが止まらない。
「負けた割には嬉しそうじゃねーか」
「ぬおっ、三井さん!」
ニヤニヤをバッチリ見られてしまい、かなり恥ずかしい。
っていうか、なんでこっちに来るんだ!
「今日はオレも楽しかったぜ、まさかお前がここまでやるなんて思ってなかったからよ」
「私も、すっごい楽しかったです!みんなとプレイするの、夢だったので……!」
「なんだ、蜂谷、オレたちのこと知ってたの?」
三井さんの後ろから、リョータが近づいてきた。
よくよく見てみれば、みんなこっちに寄ってくる。
なんでだ、みんなして……こっち来んな……!
「一応ね、有名だと思うし」
「有名!!ですよね、さすが天才……!!」
「……どあほう」
「さては流川!!オレが有名だからって妬んでんな、はっはっは、参ったか!」
「みんな、だよ。みんな」
有名という言葉に桜木君が反応し、それに対して流川くんのツッコミ。
さらに言い返す桜木君に対し、木暮さんのツッコミ。
ああ、このやりとりが目の前で見れる日が来るなんて……!
幸せだわ、ほんと幸せ!!
「まあ、安西先生から聞いてるのかもしれないしな、今日は突然誘ってすまなかった。だが、部員にもいい刺激が与えられたようだ。礼を言おう」
ゴリ、とても年相応に見えない……いや、それは今は関係ないとして。
言われたことは凄く嬉しかったので、素直に『どういたしまして』と返しておいた。
「でも、みんなさすがですよね!スピードもパワーもあるし、なにより力強いダンク!あれ、感動しちゃった……!ダンクした後って、どんな気持ちなんだろう」
試合中にダンクをかましたのは、流川くんと桜木くんの二人。
もちろん、即座に反応を示したのは桜木くんで、有頂天になっていた。
この男はおだてればおだてる程付け上がるから、面白い。
「ダンクは出来なくても、お前だって凄かったじゃんよ」
ニヤリと笑い、リョータが言う。
「ちっこくたって出来ることはあるもんね!」
「何……!てめー!!」
「ぎゃあ!!イタ!痛い!!ギブギブ!!」
「コラ、やめないか宮城!!」
嫌味を交えて言うと、リョータに頭を拘束された。
でも、顔は笑っていたけど。
それを止めてくれたのは、やはり小暮さん。
「……へへっ」
「あんだよ、気味わりーな」
「そういうリョータだって笑ってる」
「うっせ!」
意味もなく、笑いがこみ上げてきて。
それをリョータに指摘されたが、お互い様。
心臓の早鐘は試合が終わっても収まらなくて。
このままじゃ、ドキドキしすぎてどうにかなっちゃいそうなくらい。
「これから二週間は確実にここに来ることになってるからよ、また一緒にやろうぜ?」
「え、いいんですか?」
「たりめーだろ、なあ、赤木?」
三井さんの有難いお言葉に、ゴリも頷いてくれた。
余所者の私なんかを入れてくれるなんて、心が広いなぁ……!
「ありがとうございます、楽しみにしてます!」
「ああ。こちらこそ、よろしく頼む!じゃあ、今日はここまで!片付けをしてから解散だ!」
「「「「チュース!!」」」」
全員で片付けが行われ、それからみんなはちらほらと帰りだした。
そんな中、私は未だに胸が高鳴っていて。
広いコートにただ一人、じぃっとゴールを見上げていた。
まさか、夢の中で夢が叶うなんて思ってもみなかったけど、今日はほんとに、すっごく楽しかった。
今まで頑張ってきたご褒美が、せめてもの形で降ってきたっていう感じかな?
またいつもどおりの日常が始まると思うと、それは寂しいけれど。
今日を思い出して、頑張れる気がするよ。
だから、もう少しだけ。
この余韻に浸っておきたいんだ。
「……何してる」
「え?」
てっきり全員帰ったかと思っていたのに、その声に思わず肩が跳ねた。
ボーっとしているような私の後ろから声をかけてきたのは、流川くんだった。
「何、してると聞いてる」
「いや、コートを眺めていただけ。今日の感動が忘れられそうになくってさ」
「……ふぅん」
「……」
「……」
……えーと。
会話が続かないな。
流川くんは帰らないのかな?
「あの、帰らないの?」
「……ちょっと、」
「?」
素直に問いかけてみたのだが、彼は自分の持っているボールをケースから取り出し、ゴールに近づいていった。
そして、私に手招きをする。
なんだろうと思って近づいてみると、ボールを渡されて。
「んん?」
「後ろ、向け」
「え?後ろ?」
「いいから」
何をしようとしているのか、全くわかんなくて。
とりあえず、彼の言うことに従ってみた。
すると。
「わ!?うわ、うわあ!!何!?」
流川くんは無言で私の腰を持ち上げた。
「ダンク……」
「え!?」
突然の出来事に驚いたけれど、前をしっかり見てみるとゴールがすごく近い。
これなら、私にもダンクが出来る距離だ。
も、もしかして……。
「ここからダンクしてみろ、って事?」
そう聞いてみると、コクンと頷く流川くん。
「……おりゃっ!!」
こんなダンクの仕方なんて聞いたことないな……と思いつつ、可愛げのない掛け声と共に思いっきりゴールにボールを叩き込んだ。
それと同時に、流川くんの手が離れて。
ガコンッ、という音と共に、ボールは落下した。
「……!!」
……ダンクを決めるって、やっぱり凄い気持ちいいかもしれない……!!
着地して後ろを振り向くと、相変わらず無表情の流川くん。
「えと、あの、」
「ダンク、こんな感じ」
「へ?」
「『どんな気持ちだろう』って言ってたから」
あ、さっき私が言った言葉……。
「もしかして、気にしててくれたの?」
そう聞くと、再びコクンと首が動いた。
そして。
「……体育館のお礼っつーことで。そんじゃ」
「あ、ありがとう!!」
体育館を使わせてくれてありがとう、っていう事だろうか。
そんなの、こっちが礼を言いたいくらいだ。
思い切り叫ぶと、流川くんは後ろ手に手を振ってくれた。
なんだよ、なんでこんなに嬉しいことしてくれちゃうんだ……!
もう、最高だよ、湘北バスケ部!
流川くんも帰って、しばらく体育館に一人でボーっとしていた。
雨は、いつの間にか上がっていた。
通り雨だったらしく、そんなに長いこと降っていなかったようだ。
雨が上がったのも気づかないくらい集中していたみたいで……ほんとに、この日のことは一生忘れられないと思う。
それからの私は、何をやっても手につかなくて。
仕方がないので家に帰るのを諦め、管理人室で一夜を過ごすことに決めた。
……起きたら、きっといつもの現実。
さようなら、楽しかった一日。
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