スラムダンク | ナノ

 5

試合終了の礼を交わした後、喉が渇いていたのでペットボトルを取りに移動した。

「……負けちゃったか」

思わずボソリと呟いてしまったが、負けたことよりも楽しかったっていう思いのほうが強くて、顔はニヤニヤが止まらない。

「負けた割には嬉しそうじゃねーか」

「ぬおっ、三井さん!」

ニヤニヤをバッチリ見られてしまい、かなり恥ずかしい。
っていうか、なんでこっちに来るんだ!

「今日はオレも楽しかったぜ、まさかお前がここまでやるなんて思ってなかったからよ」

「私も、すっごい楽しかったです!みんなとプレイするの、夢だったので……!」

「なんだ、蜂谷、オレたちのこと知ってたの?」

三井さんの後ろから、リョータが近づいてきた。
よくよく見てみれば、みんなこっちに寄ってくる。
なんでだ、みんなして……こっち来んな……!

「一応ね、有名だと思うし」

「有名!!ですよね、さすが天才……!!」

「……どあほう」

「さては流川!!オレが有名だからって妬んでんな、はっはっは、参ったか!」

「みんな、だよ。みんな」

有名という言葉に桜木君が反応し、それに対して流川くんのツッコミ。
さらに言い返す桜木君に対し、木暮さんのツッコミ。

ああ、このやりとりが目の前で見れる日が来るなんて……!
幸せだわ、ほんと幸せ!!

「まあ、安西先生から聞いてるのかもしれないしな、今日は突然誘ってすまなかった。だが、部員にもいい刺激が与えられたようだ。礼を言おう」

ゴリ、とても年相応に見えない……いや、それは今は関係ないとして。
言われたことは凄く嬉しかったので、素直に『どういたしまして』と返しておいた。

「でも、みんなさすがですよね!スピードもパワーもあるし、なにより力強いダンク!あれ、感動しちゃった……!ダンクした後って、どんな気持ちなんだろう」

試合中にダンクをかましたのは、流川くんと桜木くんの二人。
もちろん、即座に反応を示したのは桜木くんで、有頂天になっていた。
この男はおだてればおだてる程付け上がるから、面白い。

「ダンクは出来なくても、お前だって凄かったじゃんよ」

ニヤリと笑い、リョータが言う。

「ちっこくたって出来ることはあるもんね!」

「何……!てめー!!」

「ぎゃあ!!イタ!痛い!!ギブギブ!!」

「コラ、やめないか宮城!!」

嫌味を交えて言うと、リョータに頭を拘束された。
でも、顔は笑っていたけど。
それを止めてくれたのは、やはり小暮さん。

「……へへっ」

「あんだよ、気味わりーな」

「そういうリョータだって笑ってる」

「うっせ!」

意味もなく、笑いがこみ上げてきて。
それをリョータに指摘されたが、お互い様。

心臓の早鐘は試合が終わっても収まらなくて。

このままじゃ、ドキドキしすぎてどうにかなっちゃいそうなくらい。

「これから二週間は確実にここに来ることになってるからよ、また一緒にやろうぜ?」

「え、いいんですか?」

「たりめーだろ、なあ、赤木?」

三井さんの有難いお言葉に、ゴリも頷いてくれた。
余所者の私なんかを入れてくれるなんて、心が広いなぁ……!

「ありがとうございます、楽しみにしてます!」

「ああ。こちらこそ、よろしく頼む!じゃあ、今日はここまで!片付けをしてから解散だ!」

「「「「チュース!!」」」」


全員で片付けが行われ、それからみんなはちらほらと帰りだした。
そんな中、私は未だに胸が高鳴っていて。

広いコートにただ一人、じぃっとゴールを見上げていた。

まさか、夢の中で夢が叶うなんて思ってもみなかったけど、今日はほんとに、すっごく楽しかった。

今まで頑張ってきたご褒美が、せめてもの形で降ってきたっていう感じかな?
またいつもどおりの日常が始まると思うと、それは寂しいけれど。
今日を思い出して、頑張れる気がするよ。


だから、もう少しだけ。

この余韻に浸っておきたいんだ。









「……何してる」

「え?」

てっきり全員帰ったかと思っていたのに、その声に思わず肩が跳ねた。
ボーっとしているような私の後ろから声をかけてきたのは、流川くんだった。

「何、してると聞いてる」

「いや、コートを眺めていただけ。今日の感動が忘れられそうになくってさ」

「……ふぅん」

「……」

「……」

……えーと。

会話が続かないな。
流川くんは帰らないのかな?

「あの、帰らないの?」

「……ちょっと、」

「?」

素直に問いかけてみたのだが、彼は自分の持っているボールをケースから取り出し、ゴールに近づいていった。
そして、私に手招きをする。

なんだろうと思って近づいてみると、ボールを渡されて。

「んん?」

「後ろ、向け」

「え?後ろ?」 

「いいから」

何をしようとしているのか、全くわかんなくて。
とりあえず、彼の言うことに従ってみた。


すると。

「わ!?うわ、うわあ!!何!?」

流川くんは無言で私の腰を持ち上げた。

「ダンク……」

「え!?」

突然の出来事に驚いたけれど、前をしっかり見てみるとゴールがすごく近い。
これなら、私にもダンクが出来る距離だ。

も、もしかして……。

「ここからダンクしてみろ、って事?」

そう聞いてみると、コクンと頷く流川くん。

「……おりゃっ!!」

こんなダンクの仕方なんて聞いたことないな……と思いつつ、可愛げのない掛け声と共に思いっきりゴールにボールを叩き込んだ。
それと同時に、流川くんの手が離れて。

ガコンッ、という音と共に、ボールは落下した。

「……!!」

……ダンクを決めるって、やっぱり凄い気持ちいいかもしれない……!!

着地して後ろを振り向くと、相変わらず無表情の流川くん。

「えと、あの、」 

「ダンク、こんな感じ」

「へ?」

「『どんな気持ちだろう』って言ってたから」

あ、さっき私が言った言葉……。

「もしかして、気にしててくれたの?」

そう聞くと、再びコクンと首が動いた。
そして。

「……体育館のお礼っつーことで。そんじゃ」

「あ、ありがとう!!」

体育館を使わせてくれてありがとう、っていう事だろうか。
そんなの、こっちが礼を言いたいくらいだ。
思い切り叫ぶと、流川くんは後ろ手に手を振ってくれた。

なんだよ、なんでこんなに嬉しいことしてくれちゃうんだ……!

もう、最高だよ、湘北バスケ部!




流川くんも帰って、しばらく体育館に一人でボーっとしていた。

雨は、いつの間にか上がっていた。

通り雨だったらしく、そんなに長いこと降っていなかったようだ。
雨が上がったのも気づかないくらい集中していたみたいで……ほんとに、この日のことは一生忘れられないと思う。



それからの私は、何をやっても手につかなくて。

仕方がないので家に帰るのを諦め、管理人室で一夜を過ごすことに決めた。

……起きたら、きっといつもの現実。



さようなら、楽しかった一日。
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