スラムダンク | ナノ

 61

「…………それは……どういう事かな?」

「笑わないんだ?」

「っ、」

健司くんからの指摘で、私の体はビクリと跳ねる。
そうか、こういう時、こういう事を言われたら普通の人は何言っちゃってんの、と笑うわけで。

真面目に聞き返すという行動は、それを信じている人。
または、その当事者──。

「んー、その反応。やっぱ俺と同じかぁ」

俯きがちになっていた顔を上げると、暢気にチキンを食べ続けながらふーん、なんて言ってる二人の顔。

「え?お、同じ?」

「答えヅライとこはスルーでいいんだけど。亜子さ、両親いなかったりしない?」

「両親……いない、けど」

「うーん、俺は平気だけど、雷とか雨とか苦手だったりする?」

「…………えぇと」

や、もうさ。
これ……決定だよね?
神さん、あなたの推測は当たりましたよ。

「要するに、望くんも私と同じなんだね?」

「そー。亜子も、あの雷の日か?」

「そう。あの雷の日」

「お前の理解人は?」

神さんの時は協力者、っていう言い方をしていたけど、そりゃ人によって違うわな。
望くんは理解人って表現するんだね。

「安西先生だよ。望くんは?」

「俺は……」

「俺だよ」

望くんに聞いた質問は、健司くんによって答えが返された。

「……そっか、だから健司くんも知ってる話なのか」

「ああ。ビックリしたよ、自分の知らない間に双子の弟が出来てるんだからさ。しかも本当にそっくりだし、最初は俺が別の世界に迷い込んだかと思ったわ」

「あ、それ安西先生も同じこと言ってた」

「ははっ、健司と安西先生の思考回路が同じとか笑える」

「いや、誰だってそうなるっつーの」

この話、こんなに普通に出来る話だっけ?
有り得ない出来事のはずでしょ。
いくらなんでもフランクすぎない?
いや、二人が普通だから私も普通に話せちゃってるけど。

「あの、」

「「ん?」」

「何で、この話をしようと思ったの?」

「あー……まあ、うーん。ぶっちゃけ仲間が欲しかったっつーのは……あるかな」

「望も最初はかなり取り乱してたかんなー。お前の存在を知ってから、タイミングを伺っていたのは事実だよな」

「存在を知ってから、って……親睦試合の時から!?その時から私の事、同じかもって思ってたの?」

「かも、だけどな」

「でもあの頃は牽制されてたじゃん。花形さんや高野さんには『藤真の妹には気をつけろ』とか言われてたし」

「そりゃ、健司との約束だったし」

「約束?弱み握られてたんじゃなくて?」

「よく覚えてんなぁ。その時は俺も亜子の事知らなかったし、ミーハーな女と一緒だったら面倒だと思ってたからさ、望を受け入れる代わりに女避けやってもらってたんだ」

「望くん、そんな交換条件持ち掛けられてたの……」

伯父さんと私の関係とは大違いだ。

「最初はな。今じゃ普通に受け入れてくれてっけど。でも世話になってるし、なんとなく女避けは続けてんだわ。健司のバスケ生活に影響があるのも嫌だしな」

「…………望くんて、健司くんファン?」

「ば、ちげーよ!!俺ぁスラムダンク全般が好きなだけだ!」

「またまたー、俺のファンなんだろ?」

「アホか!アホ健司!」

顔を赤くしながら喚いてる望くんを、健司くんがニヤニヤしながら指でつついている。

そっかぁ。
この二人、本当の兄弟じゃなかったのか。
双子っていう言葉がしっくりくる程似ているから、実は違うっていう方が違和感がある。
神さんと望くんも私達と同じかも、なんて話をしたけれど……それでも実際に見ていると、兄弟じゃないとは思えなかった。
違います兄弟じゃありません、って言われたら嘘でしょ?って言いたくなるくらいだ。

スラムダンクの話もしたのかな?
自分が漫画の登場人物だって聞いて、健司くんは何を思ったのかな。

望くんは、自分がこの世界に馴染めているかとか、元の世界に帰る日がくるんじゃないか、とか、心配していることはないのかな。

健司くんに相談したりしているのだろうか。

いいなぁ、協力者が兄弟で。
いいなぁ、兄弟がいて。

望くんも、神さんも、兄弟と、家族がいる。
私にも伯父さんと伯母さんがいるけれど、何でひとり、なんだろ。

……そう思うことは贅沢かな。

「寂しそうなカオしてんじゃねーよ」

「った!」

思考が暗くなりかけていたら、突然健司くんがデコピンをしてきた。

「俺も望も、お前と楽しい思いを共有したかったから、今日誘ったんだぜ?」

「亜子には兄弟がいなくて寂しいっつーんなら、今日だけでも俺達が兄貴になってやるぞ」

「ぶはっ」

二人ともキリッとした顔で言うものだから、思わず吹き出す。

「「お兄様と呼んでもいいぞ」」

「いえ、そういうのはいいんで」

「「ぶはっ」」

あまりにもキラキラオーラを振り撒くものだから、スンッとした顔で返してやれば今度は藤真兄弟が吹き出した。
本物の双子じゃなくても息ピッタリじゃん。

あー、いいなあ。
本当にこんな素敵なお兄ちゃん達が居たら幸せなんだろうな。
兄妹になったら喧嘩とかするだろうけど、毎日楽しそう。

「いいなあ、藤真家」

ボソリと呟けば、二人は一瞬目を見開いて。
それからニヤニヤとした顔付きになる。
これは多分、ろくでもないことを考えている顔だ。

「じゃ、藤真家に嫁に来れば?」

「どっちを選んでも歓迎するぜ?」

「そういう類いの事を言うと思いました。二人とも平気な顔してからかうんだから、全く人が悪い」

「ははっ、まあ考えとけよ」

「健司くんはまだからかう気ですか」

「気が変わったら言えよ」

「望くんもですかそうですか」

「おっし、敬語使ったな!携帯はどこだ携帯〜」

「ええー!?これカウントされるの!?」

「…………」

「…………」

「…………」

「「「…………ぶっ、」」」

誰からともなく笑い出し、三人で思い切り声を出して笑う。

ほんと、いいなあ。
この雰囲気。

神さんと元の世界の話をした時はシリアスな感じになってしまったけれど、こうやって自然に話が出来るなんて思っていなかった。
この世界の人に話せば、まず信じては貰えないだろう。
かと言って、同じ世界から来た人と話すにも、もっと真面目な感じになったんじゃないかな。

望くんと健司くんだから、二人だったから、こうやって話が出来たわけで。
っていうか、スラムダンクの登場人物……、プレイヤーに打ち明けようとも思ってなかったし、望くんが居なければ、きっと健司くんともこうして隣に座ることなんてなかったんじゃないかな。

「確かに、私には家族がいない。元の世界でも一人っ子だったし、両親は交通事故で死んじゃった。……でも、この世界に来れて、安西先生が伯父さんになってくれて……日常でも大好きな人達と一緒にいられる時間がたくさんあって、こうやって他校にもたくさん友達が出来て……」


「……私、幸せだね。ずっと、この世界に居たいな」


そうだよ、寂しいなんて贅沢な悩みだよね。
伯父さん、伯母さんは良くしてくれているし、何より元の世界で憧れていた皆と一緒に話したり、遊んだり、バスケをやったりしているんだよ。

これって、凄く幸せな事だよね。

俯いていると、隣と前と、二つの手が伸びてきて。
私の頭をわしゃくしゃと撫でる。

「なー、亜子は悩んでたりするか?」

手は頭に乗ったままで、望くんが問いかけた。

「……悩んでる、っていうか……不安かな」

「元の世界に戻るかもって?」

「うん。でも、区切りはつけるって決めてあるから」

「そっか」

それまで黙っていた健司くんの手が、再びわしゃわしゃ動いた。

「まー、お前らの不安な気持ちは俺にはわからねぇけどさ。そんでも、この世界に来て幸せなんだろ?二人とも」

「……俺は別に、もう不安じゃねえけど」

「いいから聞けよ。流石に神様も幸福と不幸の往復切符なんて用意してないんじゃねえかなーと思うわけよ。だから大丈夫なんじゃね?」

「「…………」」

「健司が神様とか」

「健司くんが神様とか」

「「言うと思わなかった」」

望くんと言葉をハモらせると、今度は健司くんの手が私と望くんの頬に伸びてきて。
そして、きゅう、と引っ張る。

「オイオイ、俺を差し置いて随分と仲良しなこって」

「いててて!やめろよ!」

「ひいいいおたすけ……!」

望くんは即座に振り払ったけれど、その振り払った後に私の手を拘束するものだから、私は健司くんを振り払うことが出来なくて。

その慌てっぷりに、また二人が笑った。
prev / next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -