スラムダンク | ナノ

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あれからメールをしても、当日までのお楽しみ、という返事しか返って来ず。
メールでそう言われてしまうと電話を掛ける勇気はちょっと出なくて、結局何をするのか聞けず仕舞い。
あっという間に冬休みへと突入してしまった。

冬休みはほとんどは部活のお手伝いに行こうと思っているけれど、遊ぶ予定も何件か入っていて、彩ちゃんからは初詣は一緒に行こう!というお誘いも頂いた。
部活は12月の30日から1月3日までがお休みになるけれど、多分皆どこかで体を動かすだろうなぁと思っているので、体育館は元日以外は開けておく予定。





そして言われた通り、出掛ける準備をして自宅待機をしている今日。
12月24日、クリスマスイブ。

伯父さん夫婦との話し合いで、24日と25日は体育館はお休みにしようと決まっていたので、午前中は湘北の部活のお手伝いに。

部活の後にパーティーでもやらんか、と有難いお誘いを頂いたのだが、途中で抜けるのも気まずいし……ということで断ったら、その場に居た皆の目がかっ開いていた。
クリスマスイブにお断りするとか、まあ、そういう事情があるんじゃないかと思うよね。
違うから、友達だから。
先約が無ければ参加してたから。

リョータはアヤちゃんも来ないし亜子まで……!なんて嘆いていたけれど、アヤちゃんも親戚とのパーティーだから心配すんな。


約束の時間は17時だったし、帰ってお昼を食べ、正直時間を持て余してしまった。
テレビでも見ようかと点けたけれど、特にいい番組がやってるわけでもない。
16時30分頃には着替えと化粧を済ませ、一応出掛ける準備は完了している。

時間が近付くにつれて、なんだかドキドキしてきた。
流川とのデートもどきの日も、寿先輩と文化祭回った時もドキドキしていたけれど、健司くんは他校っていうこともあるからドキドキの分類?が違う気がする。

緊張も……してるんだろうな、クリスマスイブとか特別な日に男の人と約束なんて初めてだから。

用意した鞄の中には、念のために買っておいたプレゼントが入っている。
前に親睦試合の時にリストバンドを貰ったので、それに関連してスポーツタオルなんかいいかな、って。
健司くんと、望くんの分も。
望くんはスポーツタオルはあんまり必要ないかな、とも思ったけれど、双子だし色違いのお揃いで買ってしまった。

クリスマスに会うんだもん、プレゼントはあった方がいいよね。
深い意味はなく、友達同士でも交換するもんね。
向こうが用意してなくたって、自己満足で渡せればいいや。


時計の針は16時50分を指していて、そろそろ約束の時間になる。
5分前行動は大事よね。
そう思いながら家を出て、体育館へ向かうと一台の自転車が停まっているのが見えた。

「おっ」

「早かったね」

「いや。ちょうど今着いたとこ。管理人室行く手間が省けたわ」

そう言いながら笑う健司くんは、当たり前だけど私服姿で。
前に皆と遊んだ時もそうだったけど、やっぱりセンスいいよなあ。
それでいて顔も良いんだから、ずるい。

自分もそれなりに可愛い格好を選んだつもりだけど、健司くんの隣に並ぶとこの格好で良かったのか不安になる。

「じゃ、早速だけど後ろ乗って。ちと時間掛かるかもだけど、勘弁な」

「時間掛かるかもって、どこ行くの?」

「だからお楽しみだって」

楽しそうな顔で笑いながら、健司くんは自転車の後ろに乗るように促す。

「ホント、なーんも教えてくれないんだから……」

ぶちぶち言いながらも、自転車に乗る。
健司くんの後ろに乗せてもらうのはこれで二回目だ。
最初も少し緊張していたけれど、私服マジックもあるせいか、こないだよりもっと緊張する。


しばらく他愛のない日常話を交わしながら、自転車は結構なスピードで走っていく。
そうして到着した場所は、…………地下に続く階段?

階段の手前には何台かの自転車が停まっていて、健司くんは空いているスペースに自分のそれを停めた。
それから携帯を少しだけ弄り、ポケットに仕舞う。

「ん、足元ちょっと暗いから気を付けて」

「あ、ありがとう」

差し伸べられた手を取り、階段の下に下りていく。
健司くんが行き止まりにある扉を開けると。


パ、パパパパーン!!


「何!?」

「ようこそ、藤真兄弟のクリスマスパーティーへ」

「えぇ……!?」

大きな音はクラッカーの音で、それを鳴らしたのは望くん。
したり顔の健司くんが、嬉しそうな声色で言った。
まるでイタズラが成功したかのようなその顔に、毒気が抜ける。

「健司、何も言ってなかったんだろ?くはは、お前相当ビックリした顔してる」

「え、何、藤真兄弟のクリスマスパーティー?毎年二人でやってんの?」

私から出てきた言葉はとんちんかんなもので、藤真兄弟は顔を見合わせて、また笑った。

「わ、笑うなよ〜」

「いや、悪い悪い。あまりにもサプライズ成功しすぎて」

「ここまで驚いてくれたら本望だよな。つーか毎年二人でやってるワケねーだろ、年頃の兄弟がそんなん気持ちワリィ」

「望くん言い方酷いわぁ……じゃあ何で?」

「お前やっぱり鈍いよな」

「健司くんも酷いわぁ……」

「ま、とりあえずあっち座ろうぜ」

再び健司くんに手を引かれ、案内されたテーブルには、パーティーらしくケーキとチキン、それからお皿と逆さまに置かれたグラスが乗っている。

「わあ……凄い」

「俺達がお前とパーティーしたかったから、今回は俺達だけなの。分かった?」

えぇ……なにそれめっちゃ嬉しいんだけど。
思ったままに気持ちを伝えると、望くんはそりゃ良かったよ、とそっぽを向いた。
照れているようだ。


このお店は、湘北の駅と翔陽の駅と半分くらい、どちらかというと湘北寄り?のところにあるお店で、花形さんのお姉さんのお店らしい。
望くんがバンドメンバーと集まる時に良く利用しているらしく、花形さんのお姉さんとは割と仲良しなんだそうだ。

今日は貸し切り……っていうか自分達で好きにやっていい状態。
花形さんのお姉さんは彼氏と会うためお店を休みにしたので、鍵は望くんが預かっている。
小さなバーって感じで、地下にあるから騒いでも問題なし……バンドメンバーで集まるなら騒ぐこともあるだろうから、うってつけの場所だな。

望くんも一緒だということでドキドキは緩和した。
たが、多少緩和しただけでまだドキドキしていることに変わりはない。
だって望くんも私服だし、二人ともイケメンなんだよ。
イケメン兄弟とクリスマスパーティーってどんな贅沢……!
翔陽の藤真兄弟ファンにバレたらぶち殺されそう。

「んじゃ、腹も減ってるし早速乾杯すっか。亜子は何飲む?メニューはこれな、酒はダメだぞ」

「わ、わかってるよ!えーと……烏龍茶にしようかな」

「ん。健司も同じだな?」

「ああ、よろしく」

流石兄弟、聞く前に注文が分かってらっしゃる。
望くんは颯爽とカウンターの裏に入り、三人分のドリンクを用意する。

「望くん、こなれてるね」

「バンドメンバーで来てるときにたまに手伝いしてるらしいぞ。だから安くしてもらったりしてるし、今日は好きな飲み物自由に飲んで良いっていうお許し貰ってるって」

「え、そうなの?それは有難い」

「おー、感謝しろ」

「花形さんのお姉さん、ありがとうございます!」

「おい!俺だろが!」

「あはは、冗談だよ。望くんありがとうね」

「ったく……んじゃ、グラス持って」

望くんから渡されたグラスを持ち、三人で乾杯する。
ちなみに席は望くんが一人で、私は健司くんの隣だ。

乾杯の後は、チキンとケーキ。

「これ二人で買ってきてくれたの?」

「「おう」」

チキンを食べながらの返事だったので、ちょっとモゴモゴしながら二人の声が被ったのが面白い。
二人であれやこれやと言いながら買いに行く姿、見たかったなあ。

「ありがとう、嬉しい」

心からの言葉と笑顔を向けると、二人はピタリと固まった。

「? どうしたの」

「いや……喜んで貰えたなら、計画した甲斐があったな、と。なぁ、望」

「そうそう。そーいう事そーいう事」

「ふぅん?」

何か様子がおかしいけど……まあいいか。
私もチキンを頂こう。

それにしても、こういう雰囲気のあるお店っていいなあ。
薄暗い灯りはロウソクがモチーフで、小さなシャンデリアと、グラスがたくさん入った棚。
テーブルと椅子も一昔前のハイカラな感じ。
一言で纏めると、とても素敵。

「今日な、お前に聞きたいことっつーか、話したいことっつーか……あるんだけど……」

店内をキョロキョロ見回していると、歯切れ悪く言葉を発した望くん。
見たこともないような表情をしていて、思わず食べかけのチキンをお皿に置いた。

「亜子、そんな畏まらなくて大丈夫だからさ。食いながら話聞こうぜ」

「健司くんも知ってる話なの?」

「うん」

「ふーん?じゃあ、うん。わかった」

そう言って再びチキンに手を伸ばす。

と、

「亜子さ、ここと違う世界があるって言ったら信じる?」

その言葉に、持ち上げたばかりのチキンを落とした。
ガチャン、と鳴ったお皿の音は、妙に静かなこの空間に良く響いた。
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