スラムダンク | ナノ

 54

文化祭が終わって一週間とちょっと。
バスケ部の部活動も元通り始まり、体育館の管理も神さんにお願いしていた分を自分の管理へと戻した。

文化祭っていうのは大きな学校行事の一つだから、終わって少し気が抜けていたのかもしれない。
廊下でボヘッとしていたところに写真部の添島くんから声をかけられたものだから、慌てて顔面修正したという。

「あはは、蜂谷さんお疲れの様子だねー」

「お疲れっていうか、何か気が抜けちゃってさあ。添島くんは元気そうだね」

「うん、僕は寧ろ文化祭が終わってからのほうが仕事が多かったかな。ホラ、依頼者からの写真を加工して現像して……結構な作業が残っていたからさ」

「ああ、そうか。写真は撮るだけじゃないもんね」

「そういうこと。で、はいこれ。これは蜂谷さんの分ね」

「わあ、ありがとう!!早速見てもいい?」

「もちろん」

添島くんの許可をもらい、手渡された封筒から写真を取り出した。
一枚目はメイド服で椅子に座り、その周りは煌びやかに加工されつつ私の名前入りの写真が。
やっぱり携帯カメラと違って、凄く綺麗に写ってる。
我ながらまるで本物のモデルに見えるな、とか思ってみたり。

「凄いね、写真部ってこんなに綺麗な写真撮っちゃうものなんだ」

加工ももちろん凄いけど、素直に写真の腕がいいんだなって思う。
そう伝えると、添島くんは照れたように笑ってた。

「僕、将来写真関係の仕事に就きたいんだ。だからそう言ってもらえて嬉しいよ。蜂谷さんの写真は依頼者にも大好評だったし」

「へえ!依頼者にも…………そうなんだ……」

依頼者という言葉を聞いた瞬間に青田の顔が浮かんだのはもう仕方のないことだろう。
もう二度と青田先輩とは呼んでやらん。
嫌いっていうわけじゃないけど、苦手だ青田。

そして二枚目の写真は、オマケで撮ってくれた寿先輩との写真。
こっちも良く撮れてる。
写真だけで見るとカップルに見えるのはこれまた仕方のないことだ。
寿先輩も同じものを見るかと思うと、恥ずかしいけど素直に嬉しかった。

「それでさあ、蜂谷さんって翔陽に知り合い居たりする?」

「翔陽?うん、いるけど何で?」

「や、実は翔陽の藤真さんって人の写真の依頼を受けて。本人に了承もらって撮ったはいいけど、他校の人の写真をどうやって本人に渡すかまで考えてなかったんだよね」

あはは、なんて気の抜けた笑い方をしている添島くん。
添島くんってしっかりしているように見えて意外と抜けてるのかな。

「で、他の依頼者とかモデルやってもらった人に尋ねてみたんだけど、他校に知り合いはいないっていう人ばかりでさ。もしよかったら翔陽の知り合いに藤真さんに渡してもらえるように……蜂谷さんからお願いしてもらえないかな」

「その藤真さんっていうのが知り合いだから、全然構わないよ。藤真さんとは会う機会もあるし」

「え、そうなの!」

「うん、バスケ部の人だから関係あるっちゃ関係ある」

「そっか、蜂谷さんって体育館経営してるんだっけ」

「知ってるんだ?」

「まあ、噂程度にはね。あ、じゃあもしかして海南にも知り合いいる?」

海南。
これまた……今度は誰だい。

「牧さんか神くんか清田って子ならわかるけど」

「おお……!神って人だよ」

「わかった、神くんにも渡してあげるよ」

「更に陵南……」

「仙道彰だな!まとめて任せておくんなまし!」

「話が早い!蜂谷さんありがとう、助かるよ……そうだ、何かお礼させてくれないかな」

「お礼なんてそんな……あ、でもそうだなあ。強いて言うなら、その藤真さんと神くんと彰くんの写真、私も欲しい」

蜂谷さんもファンなの?と聞かれて、うん、と頷いた。
友達だけどいちファンとして三人のブロマイド的写真は欲しいよ。

「バスケ部のみんなのファンだよ私は」

「それなら三井さんと流川くんの写真もオマケでつけておくよ」

「マジで!添島くん、話がわかる人だなあ」

「いやいやそれほどでも」

悪そうな顔をしている私達。
周囲から見たらどんな会話をしてるんだろうと思うよね。
それにしても、藤真さんと神くんと彰くんの他に寿先輩と流川の写真も手に入るとかこりゃ想定外の喜びだ。
本人達には内緒にして自分で観賞用に楽しむんだー!

「じゃあ、ちょっと準備してくるからまた放課後渡しに来てもいいかな?」

「いいよー、放課後自分のクラスで待ってればいい?それとも写真部に撮りに行ったほうがいい?」

「蜂谷さんのクラスで待っててくれれば持って行くよ。まあ、写真部まで来てくれたほうが早いっちゃ早いけど」

「それなら写真部に取りに行くよ」

「そう?重ね重ねありがとう。じゃあ、また放課後に!」

「うん、またね!」

ちょうど今日は伯母さんが体育館の管理をしてくれる日だし、折角なら翔陽の部活見学にでも行っちゃおうかな。
制服だと目立つかなあ……ま、いっか。







放課後になって彩ちゃんには今日は帰るね、と伝えた。
写真部の部室へ写真を撮りに行き、藤真さんと神くんと彰くん、それからお礼の品々を頂いて。
藤真さんも神くんも彰くんも寿先輩も、本気でモデルになれるぞこのクオリティ……!
流川はね、なんていうか……『すげぇ不本意ですオレ』っていうのが表情からひしひしと伝わってくるんだよね。
添島くんはどうやって流川の了承を得たんだろうか。
真面目に撮らせてもらえば流川だってモデル級なのにな、勿体無い。





写真をカバンに詰め込み、翔陽までの自転車の旅が始まる。
とはいえ、流石に翔陽まで自転車で行くのは遠いので、自転車の旅は最寄の駅まで。
それから電車に乗り、更に翔陽までの道程が歩きだ。

10分くらい歩き続けて、翔陽高校の門が見えてきた。
下校している生徒もちらほら、私はその中を逆走している。
逆走といっても走っているわけではないが。
他校の制服が珍しいようで、すれ違う生徒が私に向かって視線をよこす。
やっぱり一旦帰ってから来るべきだったかなあ、と思っても後の祭りだ。





翔陽高校に到着すると同時に、私は望くんへと電話をかけた。

『おー、亜子。どうした?』

「あ、望くん?今翔陽に来てるんだけどさ」

『ハァ!?何で!』

「何でって……湘北の写真部に頼まれて」

『写真……ああ、文化祭の時のか。今翔陽のどこにいんの』

「まだ校門のところで立ち往生してる」

『待ってろ、今行くから』

そう言ってプツッと切れた電話。
元々来てもらおうと思って電話をしたので、向こうから来てくれるとは有難い。
写真部の名前を出したらわかってもらえるかな、って思ったのは間違いじゃなかった。

それから5分も経たないうちに望くんは校門に現れた。
望くんのまともな男子制服姿を見たのが初めてだったので、ウッカリときめいた。
こうしてみると完全な男の子だよなあー……女装してれば普通に女の子にも見えるのに。

「おお、本当にいやがる」

「だから来たって言ったじゃん」

「や、それでも半信半疑でここまで来た」

「何ソレ、酷いな!」

「まさか本当にいるとは思わなかったんだって。で、写真持ってきたって?」

「あ、うん。藤真さんの……そういえば望くんは写真依頼されなかったの?」

藤真さんとほぼ同じ顔なんだし、他校の藤真さんの依頼があったっていうことは一緒にいた望くんにも当然依頼が来てることだろうと思ってたんだけど、添島くんにもらった写真には入ってなかった。

「あー、俺は断った。なんか知らねえヤツが自分の写真持ってるとか気持ち悪ィし。兄貴はあんま気にしないみたいだけど、俺は駄目だねそういうの」

「あー、なるほど。だから望くんの写真はないのか」

「そーいうこと。体育館行くんだろ?着いて来いよ」

「うん、ありがと!」


先を歩く望くんの後ろを付いていくと、周辺女子からヒソヒソと声が聞こえる。
わざと私にも聞こえるような声で言っているため、筒抜けだ。

『何あの他校の子』『なんで藤真くんと一緒にいるわけ』とか。
そんな妬みやっかみの声である。
微妙に気まずさを感じたが、望くんがボソリと気にすんな、と言ってくれたので聞こえないフリをすることにした。
そりゃそうだよね、きっとこの翔陽高校では藤真さんも望くんもアイドル的存在なんだろう。
そんな彼らに近寄る他校生が居たら嫌だわな。
どうせ今後関わりのない人達だろうし、無視だ無視。





「着いたぜ」

「おお、これが翔陽の体育館……!」

体育館に到着し、扉から中の様子を覗く。
バスケ部とバレー部が使用中みたいで、元気な声が飛び交っていた。

「もうすぐ休憩になる頃だろ、そしたら呼んでやるよ」

「うん、助かりますー!ところで望くんは部活やってないの?勝手にバスケ部の手伝いしてんのかなーとも思ってたんだけど」

「俺?俺はねー、普段バンドやってんの」


バ ン ド ?


「マジで!?」

「うおっ、声デケー」

思わず出た声の大きさは、自分でもビックリする程だった。
慌てて口を塞ぐ。

「ていうか超意外なんですけど。バンドってあのバンド?軽音の?」

「そーだよ、意外で悪かったな。つっても遊びでやってるから活動は割と自由な感じなんだよ。今日はナシ」

「じゃあこないだの交流会は藤真さんに頼まれなかったら参加してなかったの?」

「まあ、そうだな」

「そうなんだ……そしたらもしかしたら出会えてなかったのかもしれなかったんだね」

「まあ、そうだな」

くっ、興味なさそうな返事を返しやがって。
これだから望くんは……!
少しくらい感慨深げにしてくれたっていいじゃないか。

それにしても本当に意外である。
私と同じようにバスケ部の手伝いをしていると思ってたのは確かに単なる思い込みだけど、まさかバンドとは。
遊びとはいえ、結構人気なんだぜ、とか言ってくるあたりきっと上手いんだろう。
いつか実際に望くんの歌を聴かせていただきたいものである。


ピィー、とホイッスルの音が鳴り響いて、どうやら休憩の時間になったようだ。
休憩になったと同時に望くんは靴を脱いで藤真さんの元へと行ってしまった。
部外者の私は扉の外で待機。

望くんから声をかけられた藤真さんが私に気づくと、軽く手を上げてくれた。
その周辺に居た花形さんや高野さんも気づいてくれて、手を振ってくれたのでぺこりとお辞儀で返す。
湘北じゃなくて翔陽の体育館にいる自分がなんとなく不思議に思えてきた。

翔陽に通ってたらこんな感じなんだなあ……雰囲気が湘北と違うのは当たり前だけど。
体育館で活動している翔陽バスケ部の皆を見て、意味もなく感動を覚えた。
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