スラムダンク | ナノ

 53

「お待たせしました、失礼します〜」

コンコン、と2回程ノックをして。
それから写真部部室のドアを開けた。

「蜂谷さん!待ってたよー」

「遅かったじゃねえか亜子」

「途中で牧さんに会って。ちょっとだけ話してたんです、ごめんなさい」

「へえ、牧か……他校のヤツらみんな暇人だな」

「そうですね、私もそう思います。で、寿先輩はもう終わったんですか?」

「おう、オリャもう終わってるぜ」

「そういうことだから、蜂谷さん。早速ここに座ってもらえる?」

添島くんに指定された場所には椅子が置いてあり、言われたとおりそこに座る。

「角度的にはこの辺がいいかな……うん、蜂谷さん笑顔でお願いします!」

笑顔って言われても……添島くん、キミの後ろに寿先輩がいるってことをお忘れでないかね。
寿先輩は自分が終わったからって、私が被写体になっているのを面白そうに見ている。
要するに、とてもやり辛いのである。

「添島くん、寿先輩を外に追い出してからでもいいかなあ」

「うん?ああ、気が散る?」

「うん、モノスゴク」

「なんだとてめこら亜子!俺のどこに気が散る要素があるっつーんだ」

「その顔ですよ」

「かっ……失礼な!」

顔と言ってもニヤついているその顔だ。
寿先輩の根本的な顔を否定しているわけではないが、誤解されたようだ。
この際出てってくれるなら別にそれでも構わない!

「まあまあ、そういうわけですから三井先輩。依頼を円滑に行うためにも、ここはひとつお願いしますよ」

「あー?オイ写真部。そんな口利いていいと思ってんのか?」

「それじゃさっきのモデル料、返却していただけますか?営業妨害ってことで」

「…………チッ、早く終わらせろよ!」

添島くんが笑顔で寿先輩に言うと、寿先輩はブスッとしながら部屋の外に出てくれた。
寿先輩を一発で黙らせるなんて……この人一体何者……!

「じゃあ、気を取り直してもう一回」

「はーい」

「よし、そのまま……うん、おっけー!もう何枚か撮らせてね」

寿先輩が出て行ってくれたおかげで、撮影はスムーズに終わった。
そりゃもちろん私は素人なわけですから、自然な笑顔が出せたかって言われたらそれは全く自信がないけど。

撮影終了後には寿先輩を中へ招きいれ、オマケだといって添島くんは私たち二人の写真を撮ってくれた。
自分の携帯で撮るのもいいけど、こうやってちゃんとした形式で撮ってもらえるのはまた嬉しいもんだね!

「じゃあ写真が出来たらまた届けに行くね」

「あ?モデルにももらえんのか?」

「一応そういう風にしてるんですよ。モデル料を含めて依頼者からもらってますけど、自分のどんな写真が人に渡ったかっていうのを気にする人が多いんで」

「なるほど……それは確かに気になるかもしれないなあ」

「そうか?」

「寿先輩は気にならないんですか?」

「別に気にならねえなあ」

「あはは、そういう人も中にはいますよ、やっぱり。人それぞれだからいいと思います。まあ決まりごとなんで、ちゃんと届けには行かせてもらいますね」

私たちの対照的な会話が面白かったのか、添島くんは笑いながらモデル料を渡してくれた。
しかし、モデルの方が料金多くもらえるなんて写真部はサービスがいいね。
でも臨時収入が入ったのは気分的に凄く嬉しい!
社会人がボーナスもらって嬉しいっていうのはこういう気持ちなのかな。





写真部の部室を出てからは見てないところを中心に回って。
結構な時間が過ぎた頃、ふと思い出したことがある。

「あ、そうだ。私リョータとも写真撮ろうと思ってたんだ」

「ん、そんなら亜子ンとこに戻るか?……と言いたいところだけど、もうそろそろ文化祭も終わりな時間に近づいてきたな」

「え、もうそんな時間ですか!?」

楽しい時間っていうのは過ぎるのが早い。
寿先輩の言葉に自分の携帯で時間を確認すると、大分いい時間帯になっていた。

「そしたら片付けのためにそろそろ帰らないと駄目かなあ……」

「俺も片付けくらいはちゃんと出るつもりだし、お互い自分のクラスに戻るとすっか」

「そうですね。今日は寿先輩と一緒に回れて楽しかったです!ありがとうございます!」

「俺も楽しかったし、お礼なんて言うなよ。それに忘れてっかもしんねーけど、これデートなんだぜ?」

「あ、忘れてた」

「てめ……!」

「った!冗談ですよ、冗談!」

「そんな冗談イラネーんだよ」

本気で忘れてたわけではない。
そんなの照れ隠しに決まっているだろう。
それなのに寿先輩にはデコピンをくらってしまった。

「はいはいすみませんでしたー!」

「ったく、お前は可愛いんだか可愛くねえんだかわかんねえな」

「どうせ可愛くないですー」

これは冗談の仕返しなんだろうと思っていたから、可愛げの無い態度で返したのに。

「バーカ」

そんな優しそうな顔でバーカと言われても、言い返す気になれないじゃないですか。
ほんとに寿先輩はずるい。

「ばかで結構です、じゃあ私行きますね!」

「おう、そんじゃあな」

照れ隠しにムリヤリ別れを告げ、寿先輩とは反対方向に歩き出す。
少し歩いて振り返ってみれば、寿先輩の姿はちょうど角を曲がって見えなくなってしまったところで。
何だか寂しい気分になったので、早足で教室へと急いだ。




ホントに楽しかったな、文化祭。
寿先輩の新たな一面が見れたっていうか……普段とそんなに変わらなかったりもするけど、寿先輩の彼女だったら毎回こんな風にデートするのかなって思ったら、自分で勝手に顔が赤くなった。

エエイ、だめだ!
雑念は駄目だ!!

寿先輩といい流川といい、ほかのみんなといい、どうしてこうバスケ部にはいい男が多いんだ!
これじゃあ私、本当にいつか誰かを好きになってしまいそうだよ。



そうなったら誰に助けを求めればいいの。




頭の中がぐるぐるしたまま、自分のクラスへと帰宅。
どうやら店仕舞いムードのようで、一部では既に片付けが始まっていた。

「亜子!楽しかったか?」

「あ、リョータただいまー。うん、楽しかったよ!」

「そっか、良かったな。あの後また清田とか来たんだぜー、今度は牧さんまで一緒に」

「あら……それはお疲れ様だね」

至極疲れたような表情のリョータを見て、思わず苦笑した。
ごめん、リョータ。
それ私の所為である。

「そうそう、リョータまだ着替えないよね?一緒に写真撮ろうと思って!」

そういって携帯を見せると、リョータは一瞬苦い顔をした。

「この姿のままで撮るのか?」

「そうだよ、思い出だもんいいじゃん」

「う……まあ、仕方ねえな。一枚だけだぞ一枚だけ!」

「うん、さすがリョータ!」

リョータが了承してくれたので、近くにいた男子にシャッターをお願いした。
その時彩ちゃんも教室に帰ってきたので、一枚だけのはずが今度は三人で。

彩ちゃんと撮れたんだからリョータに文句はないだろう。

そしてクラスの何人かとそれぞれ写真を撮り、片付け風景なんかも撮ったりして。
文化祭終了のチャイムが鳴り響き、校内放送が始まる。





『ただいまを持ちまして、湘北高校文化祭を終了とさせていただきます。ご来場いただきました皆様方、誠にありがとうございました。生徒の皆さんは────』



「あーあ、終わっちゃったね文化祭」

「うん……なんか、あっという間だった」

片付けをしながら彩ちゃんと話す。
文化祭の準備中が一番楽しいとは良く言ったもので、確かに準備している時間は楽しかった。
もちろん当日である昨日今日だって楽しかったけれど、準備っていうのは文化祭が待ち遠しく、ワクワクしながら行うものだから特別感があって。
だから余計に楽しいんだと思う。

「また来年も亜子と同じクラスだったらいいなあ」

「あー、それ私もそう思う。今年は彩ちゃんと同じ時間とかなれなかったけど、準備が一緒に出来たのは楽しかったし嬉しかったし。来年は一緒に回ったりもしたいなあ」

そう言うと、彩ちゃんはニマッとして私の肩をつついた。

「そーんな事言っちゃってぇ。三井サンと一緒で楽しかったんじゃないのォ?」

「ちょ!そりゃ確かに楽しかったけど!彩ちゃんとだって一緒に回りたかったもん」

「はいはい、有難く受け取っておきますゥ!でも来年は亜子にカレシが出来てそうな気がするわー」

「いやいや、きっと無理だよそんなの」

「なんでよ、亜子モテるしさあ……アンタ好きな人とか居ないわけ?三井サンとかいい線いってるんじゃないの?」

「いないよー。私はみんな満遍なく好きだもん。寿先輩とは約束してたから、それだけだし」

「でたよこの平和主義者が」

「だって本当のことだし。恋愛に関しての好きな人なんてまだ要らないよ」

「ふーん……なんか、報われないわねえ」

「報われない?」

「ううん、こっちの話。まあ今日は見逃してあげるけど、ちゃんと好きな人が出来たらアタシに教えてよね?親友なんだから!」

親友……!
彩ちゃんから親友って言ってもらえるなんて思わなくて、嬉しさのあまり思わず抱きついた。

「彩ちゃん……!!大好き!!」

「アタシも大好きだよ亜子〜!こりゃ当分アンタのカレシはアタシでいいかもね!」

「あ、それいい!彩ちゃんが彼氏で決定!」

満遍なく好きの中にはもちろん彩ちゃんだって入ってるんだよ。
そりゃ恋愛対象に入るかって言われたら入りはしないけど、彩ちゃんだって大好きな人達の一人だ。

私のほうこそ来年は彩ちゃんに彼氏ができないかどうか心配だよ。
とは言え、来年の今頃はこんな暢気に生活を送っていられなくなるかもしれないね。
来年になったら原作の流れに戻るだろうし、そしたら今まで以上にバスケに関することが増えそうだ。
恋愛なんて考える暇もないんじゃないかな、きっと。


それでも、どうか来年も同じように楽しい文化祭が過ごせますように。

独り言のように頭の中で呟きながら、最後の片づけを進めた。
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