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寿先輩の奢りで喉を潤した後、花道の様子を見に行こうということになり。
差し入れしてあげようと思って自販機でポカリを買い、花道のクラスへ向かった。
「よーっす桜木!調子はどうだね!」
「花道頑張ってるー?」
汗だくになりながらたこ焼きを焼いている花道。
入ってきた瞬間のギロリとした目つきの危なさったらもう。
きっとさっきまでノブと神くんが居たんだろうなあ、と予想するとそれは見事に大当たりだった。
「あの野ザルめ、今度会ったらタダじゃおかん……!!」
「何だよ清田になんかされたのか」
「なんかされたっつーか、散々バカにしていきやがった!」
「ああ……あんた達ほんと犬猿の仲だもんねえ」
喧嘩するほど仲がいいって言いたくなったけど、それを言うと花道はきっと更に怒るだろうから言わないでおこう。
「それにしてもお前、たこ焼き焼いてる姿似合うなァ」
「ぬっ!なんだミッチー、褒めても何も出んぞ!」
「褒めたんだからたこ焼き一パックくれよ」
「やらんぞ!亜子さんには喜んで!!」
「え、たこ焼きくれるの?」
「ハイ!亜子さんにオレの焼いたたこ焼きを食べてもらえるなんてオレは幸せ者ッス!!」
どうぞ!!と、花道から渡されたたこ焼きは8個入り。
ぶっちゃけさっきクレープ食べたし、そんなにお腹空いてない……でも美味しそうだし、何より花道が焼いてくれたたこ焼き……!
「ありがと花道!寿先輩とわけっこして食べさせてもらうね!」
「ナニ!?……亜子さぁん……!」
「ぶはははざまーみろ桜木!ケチケチしたこと言ってっからそういう目に合うんだ!」
「くっ……ミッチーめ……!」
「あ、お礼にこれあげるよ花道、ポカリでも飲んで落ち着きなさい」
「亜子さん……!!この桜木、一生大事に取っておきます……!!」
「いや、一生といわず飲んでよ」
「バカはほっとけ亜子、桜木くんはお忙しいみたいだしィ、次行くぞ次!」
「おーおー、とっとと行け!亜子さんは楽しんでくださいね!」
私が楽しむってことは一緒に回ってる寿先輩も同時に楽しむってことなんだけどね、それわかって言ってんのかな。
絶対わかってないよね。
再度花道にお礼を言って、花道の教室を出ようとしたときに桜木軍団とすれ違いになった。
桜木軍団は呼び込みで校内をうろついていたみたいで、ついでなのでもう一度花道のところに戻ってたこ焼き屋の看板のところでみんなの写真を撮らせてもらった。
真ん中は当然花道。
たこ焼きのピックを持っている姿が様になっている。
花道のクラスの人にお願いし、桜木軍団と共に私と寿先輩も一緒の写真もちゃっかりと。
思い出が一枚ずつ着々と増えて嬉しい限りだ。
今度こそ花道のクラスを後にし、日常会話を楽しみながらうろついていると。
「あの、2年4組の蜂谷亜子さんだよね?」
「ん?」
高価そうなカメラを持った眼鏡の男子生徒に声をかけられた。
「俺、写真部二年の添島って者です。実は文化祭で企画をやってるんだけど……蜂谷さんの写真も頼まれてるんだ。一枚いいかな?」
企画の内容を詳しく聞いてみると、依頼者から500円の依頼料をもらい、ターゲットの写真を撮ってその人にプレゼントしてあげるというもの。
200円は写真代として写真部が頂戴しているが、残りの300円はモデル料として被写体に渡しているそうだ。
もちろんプライベート保護のため、依頼者の個人情報流出はナシ。
撮られる側としたら誰の依頼かわからないから気持ち悪いかもしれないけど、モデル料がもらえるということで割りとOKをもらってるらしい。
密かにこの文化祭で人気を集めている企画なんだとか。
「企画があるのは知ってたけど……私の写真が欲しい人なんているの?」
「いるよ。だからこうして依頼しに来たのに」
「モデル料もらえるんなら撮らせてやりゃあいいんじゃねえの」
「楽しそうに言ってますけど三井先輩、あなたの写真も多数の依頼を受けてるんです」
「げ」
なんと三井先輩の写真の依頼は20近くきているそうで。
改めてモテることが判明してビックリだ。
写真なんてこの文化祭の人数の多さに紛れて隠し撮りしちゃえばいいじゃんとか思ったり。
でもこの企画だと真っ向から撮らせてもらえるから、ちゃんとした写真が手に入るわけで。
そんでもって写真部がその人の名前を入れてブロマイド的な感じにしてくれるみたいで。
それが人気の理由のひとつなんだって。
「20近くって……結構なお小遣い稼ぎになりますね」
「……だよなぁ。まあ、俺は別にいいけど……」
「え、先輩この話受けるんですか?」
「亜子はやらないのか?っていうか写真部、亜子の依頼はどんだけ来てんだ?」
「蜂谷さんも三井先輩までとはいかないけど、結構きてますよ。15、6くらいだったかな……ええと……そうですね、15でした」
「15ォ!?」
思わず叫んでしまったのは予想以上の人数に驚いたからだ。
だって私の依頼なんてもの好きもいるもんだ、とか思ってたのにまさかそれが15人もいるなんて!
でも15か……15×300で4500……ええ、モデル料4500円ももらえるの!?
「や、やろう……かな……」
「ほんとに!助かるよー、ああ、ちなみにメイド服でのリクエストを受けてるから……申し訳ないんだけど、確かクラスの出し物でメイド服着てたんだよね?もう一回着替えてきてもらうわけにはいかないかなあ」
「えええ、またあのカッコすんの!?」
「依頼者のリクエストには出来るだけお応えしたいんだ」
お応えしたいんだ、って、お応えするのはアンタじゃなくて私でしょうが!!
と思ったけど。
でも4500円ももらえちゃうんならまあ、いいかなあ……!
なんて意思の弱い私!
でもやっぱり金額が大きいし、それに文化祭ってなんか気持ちが寛容的になっちゃう。
それにしても高校の文化祭で個人的にそんな大金が動いてもいいのか。
あー、流川とかもっと凄いことになってそうな気がするなあ……。
「わかった、着替えてくるよ……」
「じゃあ蜂谷さんが着替えてくるのを待ってる間、先に三井先輩の写真を撮らせてもらってもいいですか?」
「オウ、仕方ねえから撮らせてやんよ。ここで撮んのか?」
仕方ねえからと言いつつも寿先輩は嬉しそうだった。
大金が手に入るのが嬉しいのか、はたまたモテるのが嬉しいのか、どっちかはわからないが。
「いえ、ちゃんとした仕様にするので写真部の部室をセッティングしてあります。そこまで一緒に来てもらえると有難いです」
「写真部……ああ、あそこね。りょーかい。亜子、とりあえず俺は先に行ってるけどいいか?」
「はい!私も着替えたらすぐ行きますんで!」
「おお、じゃあまた後でな」
「わかりましたー!添島くんもまた後で!」
「ありがとう蜂谷さん、待ってるねー」
二人と別れて、私は自分の教室へと戻ってきた。
「あれ?何亜子、どうしたの?」
「ああ、なんかまた着替えて欲しいって頼まれて」
「え、もしかして写真部の依頼来た?」
「うお、何で知ってるの……!」
「実はねー、さっき廊下で写真部に亜子の写真を依頼してる人をみかけちゃったんだよね」
プライバシーの保護はどうした。
廊下で受付してるとか、プライバシーも何もあったもんじゃないだろ……依頼者はそれでいいのか。
「誰だか聞きたい?」
クラスの友人はニヤニヤとした顔で私を見ている。
そりゃあ聞きたいけど、でも本人達はプライバシー保護のためにもこうしてお金を払っているわけだしなあ。
でも……。
「聞きたいよ、そりゃあ」
「あのねー……」
友人は口が軽すぎるんではなかろうか。
そう思いながらも耳打ちされた人の名前を聞いて、一気に着替える気力がなくなった。
「それ見間違いじゃなくて?」
「見間違うわけないじゃん、あの人身長デカいし暑苦しい感じだし」
「はあー……どうせ私の写真を欲しいっていう人なんてそんなこったろうと思ったけどねえ」
聞いた名前は青田先輩の名前だった。
依頼者を予想したときに真っ先に出てきたのはこの人。
ホラ、以前隠し撮りをしていたくらいだから、なんとなく依頼してそうだなって思って。
でもまさかウチのクラスの前で堂々と依頼したとかな!
ヤメロほんとに!
その時私は教室にいなくて良かった、と心底思う。
……ああ、だから青田先輩は写真部に依頼したのかな。
私の姿がなかったから。
こうなったらもううぬぼれではない。
ていうか晴子ちゃんだけ見てればいいじゃん青田は!
「もう依頼受けちゃったし、素直に着替えてくる……」
「あはは、ご愁傷様。いってらっしゃい」
楽しそうな友人に送り出され、再びメイド服に着替えて。
リョータにも何でいるんだ的な視線を送られたが、忙しそうで話をする暇はなさそうだったからまた後で。
さて、写真部の部室はどこだったかな。
記憶を辿って学校内を歩く。
今頃寿先輩は撮り終った頃かなー、なんて思っていると、前から見知った顔が歩いてくるではないか。
「牧さん!」
「ん……?おお、蜂谷さんか!一瞬わからなかったぞ」
「そりゃあこんな格好してたらわからないですよねえ。運動とは無関係な格好ですから!」
牧さんと会うのは合同交流試合ぶりで、普段の格好の私を知るはずもない。
「よく似合ってるよ、可愛いじゃないか」
「うわ!牧さんに褒められると普通に恥ずかしいです」
「本当のことを言ったまでだ、恥ずかしいことないだろ」
それが余計に恥ずかしいってことに気づいてください牧さん。
いや、でもこの人紳士っぽいから素で言ってくれてるんだろうなあ。
嬉しいことには変わりないから、素直にありがとうございますとお礼を言っておいた。
「そういや神くんやノブと合流できましたか?」
「いや、これから探そうと思ってたところだったんだ。俺は今来たばっかりでね……蜂谷さんは勤務中か?」
勤務中ってアナタ。
社会人じゃないんですから。
「いえ、もう自分の出番は終わったんです。牧さんが今来たばかりならせっかくだから案内して差し上げたいんですけど、これから用事があるので残念です」
「気にしないでくれ、俺は俺で楽しませてもらうから。ただ、蜂谷さんの働いているところが見れないのは残念だったがな」
「リョータはまだやっているので、良かったらからかいに行ってあげてください!」
「ほう、それは良いことを聞いたな。神と清田と合流したら行ってみるよ、ありがとう」
「はい!では、そろそろ失礼します!」
「ああ、またな」
再び神くんとノブがリョータのところに行ったらリョータの血管ブチ切れそうだなー……。
許せ、リョータ。
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