スラムダンク | ナノ

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「寿先輩すみません!お待たせしました!」

「あー、いやいや。お疲れさん」

ようやく交代人員を確保し、寿先輩の元へと駆けつけた。
案の定そこには少々グッタリ気味の寿先輩が。
オマケにその近辺の世話をしっぱなしのリョータが。

私を待ってる間に他校軍団に捕まってしまったらしく、望くんや信長に喧嘩を売られたり藤真さんと神くんと言い合いしたり。
そんな寿先輩を横目で見つつも抜け出すことの出来ない自分がもどかしかった。
一応仕事っちゃ仕事だから仕方なかったんだけど。

「何、もう着替えちゃったの?」

残念そうに神くん。

「うん、私の役目は終了したからね!あれで校内回るのはもうカンベンだし」

「勿体ねーな。今度翔陽でもあのカッコで部活見学に来いよ」

「いやいやご冗談を!行くわけないじゃないです……ないでしょ!」

「……オマエのタメ口、ムリヤリ感が拭えなさ過ぎる」

「うるさい望ちゃん!」

そう簡単に藤真さんに対しての敬語が抜けるわけなかろうが!
かといって敬語使うと写メ拡散の刑でしょ……それだけは絶対に免れたいし。

「よし、じゃあそろそろ行くか」

「そうですねー、では皆さんまたいつの日か!」

「え、何?亜子と三井サン一緒に回るの?」

「そーだよリョータ、前から約束してたんだ!うらやましい?」

「えっ、羨ましいってなんでオレが……いや、ある意味羨ましいけど……」

「なんだ宮城、言いたいことあんならハッキリ言いやがれ」

「いーえ、べつに!つか邪魔だから早くどっか行ってくださいよ」

「オイコラてめー!」

なんでオレが、の後の台詞はボソボソ喋っていたのでよく聞き取れなかった。
けどまあ、寿先輩の反応からして寿先輩の悪口かなんかだろうと勝手に解釈しておく。

「亜子さん行っちゃうんすかー!?」

「うん!ノブと神くん、藤真兄妹もゆっくりしてってねー」

「ちぇ、亜子さん行っちゃうんならオレらも移動しましょうよ神さん。たこ焼き!赤毛猿のとこ行きましょ!」

「そうだね……結構居座ったしそろそろ移動しようか。じゃあ亜子ちゃんお疲れ様、後はゆっくり楽しんでね」

「お……私らも移動しようぜ兄貴」

望くんも気を抜くと自分で俺とか言っちゃうんだね。
バレたらバレたで普通に面白そうだけどなー。
ノブの『亜子さん行っちゃうんなら』発言にはちょっと萌えた!

「宮城の面白いモンも見れたし、とりあえず満足したかな。オッケー他行くか」

「おーおー、そうだそうだ!さっさとどっか行きやがれー!」

次々と席を立つみんなに向かって罵声を浴びせるリョータ。
確かに大変そうだったもんな……憎まれ口を叩きたくなる気持ちもわからないでもない。


未だ頑張っているリョータを尻目に、みんなで教室を出た後『今度こそまたね』と他校軍団と別れた。
寿先輩とのデート開始である。

「寿先輩はどこか行きたいとことかあったりします?ていうか既にどっか行きました?」

「俺はさっきガッコ来たばっかなんだよ」

「え、クラスの手伝いとかなかったんですか?」

「昨日だけな」

「クレープ作ったりとか?」

「オリャ不器用だからんなもん出来ねえよ」

「えー、先輩の作るクレープ、密かに食べてみたいとか思ってたのになー……」

「はっはっは、残念だったな。でもまあ、俺が作るわけじゃないがもらってきてやるよ。オマエ甘いの好きか?」

「甘いの大好きです、バナナがいいです。」

「そこまで指定付きかよ」

寿先輩から苦笑気味にツッコミを受けた後『ちょっと待ってろ』と言いつつ先輩は自分のクラスへと入っていった。
話しながら歩いていた場所がちょうど近くだったので私はそのまま廊下で待つ。
5分もしないうちに寿先輩は右手にクレープを持ちつつ戻ってきてくれた。

「ホラ」

「わ!ありがとうございます!」

「クラスメイトの特権で並ばず作ってもらえたぜ」

「おお、有難やー!」

受け取った手がほんの少しだけ触れて、本当のデートみたいな錯角に陥る。
変な意識するとダメだ、平常心平常心!

「あれー、三井がクレープ持ってったと思ったら何その子!カノジョ?」

「おわっ!なんだよこっち来んなよ!」

「やー、いいじゃんいいじゃん。隠さずとも!いいねえ若いってのは」

「カノジョじゃねえし!」

「へえ、そうなの?……あ、よくバスケ部の手伝いしてる子かー」

声を掛けてきたのは寿先輩のクラスメイトであろう男子。
どうやら私の事を知っていたようで、目が合った際に会釈だけしておいた。

カノジョとか……違うけどそう言われると恥ずかしいんですけど……!

「ここに居たらうっさいのしか来ねえな、行くぞ!」

「あららもう行っちゃうの三井!楽しんでこいよー!」

「うっせー余計なお世話だ」

「し、失礼しまーす」

寿先輩のクラスから少し離れたところで、照れくさそうに話しかけてくる先輩。

「なんか、悪かったな」

「何がですか?」

「や、その……カノジョとか間違われて」

「別に気にしてないですよー!それよりも先輩もクレープ食べます?」

「それよりもって、おま……ま、いっか。おう、一口もらうわ」

小さく息を吐きつつも、呆れた表情の先輩。
何か悪いこと言ったかな?
あー、と大きく口を開ける先輩にクレープを差し出す。
よくよく考えてみればこれもデートっぽい……とか思った時にはもう遅かった。
もぐもぐとクレープをほおばる先輩をチラ見してみるが、何も気にした様子はない。

「うん、我がクラスながらウマイ」

「で、ですね!このクレープ美味しいです!」

多少の動揺をバレないようにしないと。
寿先輩はこういうの気にしない人なのかな、そうだったら大変有難い。


「あ、そうそう。赤木先輩が演劇やるらしいじゃないですか。それ見たいんですよね」

「あー?あれか、ロミオをジュリエットだろ……あいつ修道僧の役やるんだと!実はオレもそれ見たいんだよな。でもなー……赤木のヤツ、絶対来んなって言ってたかんなー」

「大丈夫ですよ、隅っこのほうでコソッと見てたらバレませんよ!」

「それもそうだな、よし!赤木のクラスに行くか!」

「はい!」

そうと決まったらすばやく行動!
赤木先輩のクラスは寿先輩のクラスと近いので、Uターンする形で戻ることになった。
それにしても教室で演劇とか狭くないのかな。
体育館でやった方が広々と出来るのに。
あ、でも体育館では大掛かりなホラーハウスやってんだっけ。
ホラーハウスかあ。
遊園地でのお化け屋敷の思い出が蘇るなあ……。

「亜子、あそこ赤木がいる」

「どれどれ……おお……!赤木先輩発見!」

「すげーなあのカッコ、本格的だな」

「ですねー……なんか普通に似合ってますね、修道僧」

私と寿先輩は人混みの隙間から赤木先輩について語り合っている。
傍から見たら怪しい二人組だけどそこは気にしたら負けだ。
それにしても。
赤木先輩……ほんとにビックリするくらいよく似合ってる。

「木暮は……と」

「え、あれ……もしかして木暮先輩ですかね?」

「どこだ……って、おお!?主役か!?もしかして!」

指差した先にはロミオ役っぽい立ち回りをしている木暮先輩の姿が。
眼鏡取ったら何気にイケメンなお方だもんね、主役やっててもおかしくないよね!

「どーりで……木暮にお前は何やるんだって聞いても教えてくれなかったわけだ」

「主役って言うのが恥ずかしかったんでしょうかね……お二方の勇姿を写真に収めておきましょう」

「よし、上手く撮れよ」

「任せてください!」

二人してニヤリと笑いあう。
彩ちゃんあたりが見てたら『まー、なんて悪い顔なんでしょ!』等と言うに違いない。

赤木先輩と木暮先輩の熱演姿を無事携帯カメラへと収め、満足したので次に移動することにした。


「じゃあ次は先輩の行きたいところで!」

「行きたいところねえ……」

「何もないんですか?」

「何もないっつーか……」

何かを言いたげな様子で私をじっと見つめる寿先輩。
目が合った瞬間それを逸らせずにいるので、変に緊張が走る。

「オマエとならどこでも楽しめそうだなって思ってたって言ったらどうする?」

「え!?どうするって、何が……」

「冗談だけど」

「じょ、冗談!?」

「冗談ってほど冗談でもねーけど」

何なの一体寿先輩は何が言いたいの!
いつもみたいにバカにしてんの?
一瞬でもドキッとした自分がバカみたいじゃないの!

「もー、何なんですか先輩!」

「要するにどこでもいいっちゅう話だわなー」

「結局何も考えてないんじゃないですか……」

ガックリと項垂れていると、いつもの如く先輩の手が私の頭に乗る。

「まあそう言うなって。ちょっとプリントみしてみ、今考えっから」

「はいどうぞ」

言われたとおりにプリントを差し出す。
寿先輩はへー、とかほー、とか言いながらそれを眺めていた。
デートとか言いながら行きたいとこ考えてなかったとか、ちょっとショックだぞ。
私とならどこでも楽しめるっていうのが冗談じゃないのならばそれは嬉しい事なんだけど。

「流川のクラスは行ったか?」

「あー……呼び込みしてる時にちょっと覗いてみたんですけど。あそこは問題外だと思いますよ」

「問題外?」

ジェットコースターって何やるんだろうって、ちょっとワクワクしながら覗き見してみたんだけど……教室にレールみたいなのを敷いて、その上に人が入れるような箱を置き、後ろから猛ダッシュで人が押しながら走ってるのに乗るっていう。
ジェットコースターって言えるのそれ?って思いながら通り過ぎたのを覚えている。
しかも肝心の流川はどこにも見当たらなかったし。
きっとどっかでサボってるか昼寝してるかだろう。
それを話すと、寿先輩は苦笑していた。

「じゃー桜木んとこは?」

「あ、まだ行ってない……けど、今行くとノブVS花道になってるんじゃないですかね」

「ああ……そういや海南の二人は桜木のとこ行くっつってたもんな……じゃあコレだ、体育館のホラーハウス行こうぜ」

「え」

「ここ」

え、という呟きは場所に対してではないにも関わらず、プリント上のホラーハウスの場所を指差す先輩。
ホラーハウス……遊園地のお化け屋敷とかよりはまだマシかなあ。
でも怖いのはやっぱり好きじゃないんだよね……。

「他のとこにしましょうよ」

「オマエ……さては怖いんだな?」

「いやいや、何をおっしゃいます!怖いわけが「じゃあ行こーぜ」

「すみません怖いです」

「ぶっ……!っはは、バカだろオマエ」

「バカで結構です、怖いものは怖いんです他のとこにしましょうよ」

「わーった、とりあえず付いて来い」

バカと言われようが何だろうが、ホラーハウスを免れるのに越したことはない。
どこへ連れて行こうとしてるのはわからないが、とりあえず前を歩き始めた寿先輩の後を大人しくついていく事にした。
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