スラムダンク | ナノ

 49

現在、怒涛の文化祭真っ最中。

一日目だった昨日は流れるように時間が過ぎ去っていった。
というのも当クラスの仮装喫茶が大繁盛し、他のクラスを見て回るどころではなかったからなのである。
ちなみに、皮肉にも青田先輩からもらったヘッドドレスは全体を通して好評を頂いている。

昨日であんなに忙しいってことは……本日の一般公開はどうなることやら。

今から多少の不安を覚えてはいるものの、寿先輩と見て回る時間だけはきちんと確保してある。
だって時間ありませんなんて言ったら怒られそうだし。
約束は約束だからそこはキチッとしておかないと!自分自身もせっかくの寿先輩と一緒に回れる機会をフイにしたくはないと思ってるし。


そんな二日目である今日は午前中から12時まで店の呼び込みで練り歩き、午後は寿先輩と一緒に回る予定になっている。




「じゃあ今日も一日頑張りましょう!」

文化祭実行委員の一声で各自持ち場へと散らばった。
呼び込み用の看板はどこに置いたっけな。

「亜子、これ探してんだろー?」

「あ!リョータ!ありがとありがと」

「しかしやっぱ……うん、女子はメイドにして正解だったな」

「確かに繁盛してるけどさ……これ、相当恥ずかしいんだからね?なんならその燕尾服で一緒に呼び込みする?」

「残念でした、オレには接客という大事な仕事があるんですー」

「一人くらい抜けたって構わないんじゃん?」

「バッカ、昨日の繁盛具合を見てんなこと言えるか!」

「ははっ、冗談ですぅー!でも文化祭終わるまでリョータのこと恨んでるっていうことはお忘れなく!」

「おまっ、まだ言ってんの……ハァ。ま、今日も気をつけて行って来いよ」

「あいあい、了解!んじゃ行って来ます!」

リョータの激励(?)を受け、看板を片手に教室を出る。
メイドにして正解って言うけど、男子の燕尾服もなかなかのもんだよ。
リョータだってチビの癖に似合ってたし、カッコよかったし。
最初は接客から逃げようとしてたけど言い出しっぺの仮装ナシを見逃すわけにもいかず、ムリヤリ接客担当にさせたのはこの私である。
ざまーみろだ。
最後に写真撮るの忘れないようにしよ。







チャイムが鳴った。
文化祭二日目開催の合図だ。


チャイムと同時に大勢の一般客が校門から流れ込んでくるので、まずはそこで呼び込み開始!

「ポップコーン販売でーす、試食どうぞ!」

「ホラーハウス大好評!いかがですかー!」

「2年1組仮装喫茶やってまーす、是非遊びにきてくださーい」

考えることは皆同じようで、色んなクラスからも看板やらチラシやら持った人たちがそれぞれに声を張り上げて呼び込みをする。
負けじと声を出したその瞬間、こっちを見てニヤリと笑う人物を発見した。

「いたいたー!亜子、来てやったぞ!」

「お、早速頑張ってんじゃん」

「げっ……藤真兄弟……!なんで……」

藤真さんが部活休みにするって言ってたからそれを阻止してもらうために望くんにメールしたら『わかった』って返事くれたハズ。
それなのに何故いるんだコイツら……!!しかも開始と共にやって来るなんてどんだけ暇人なんだ!

「へえ、メイド姿なかなか似合うじゃん」

「だから言ったろ、見ておくべきだって」

上から下までじろじろと見てくる望くんと、横で頷く藤真さん。

「ちょっ……ちょ、ねえねえ!望くん!わかったってメールで言ってくれたじゃん!あれは嘘だったの!?」

「嘘じゃねえよ」

ケロリと言い放ったその綺麗な顔にビンタしてやりたい。
が、そんなことしたら倍返しが待っているので出来ない。

「『わかった』とは言ったけど『行かない』とは言ってねえもん」

「なにその詐欺!ありえない……!」

「まーまー、そう喧嘩すんなよ二人共」

「誰のせいだと思ってんのよ……っとと、思ってんですか藤真さん……!!」

「お。それいいな」

「は?」

「敬語ナシなの新鮮でいい。今後それでいこうか」

「無理です」


カシャ

…………おい。

ほんとに何してくれてんだ藤真健司。

いわずと知れたシャッターの音で、目の前の藤真さんに写真を撮られてしまったのである。
しかも突然のことだったので物凄い仏頂面。

「今度敬語使ったら翔陽のみんなにこればら撒くわ」

「うわー……健司性格わっる……」

「…………善処します」

「はい、敬語一回めー」

携帯をいじりはじめる藤真さん。
こんなんで翔陽のみんなにこの姿が出回ったらたまったもんじゃない。

「うわわわわ!!善処する!するからやめて!!」

マジ鬼だこの人!
半泣き状態で縋り付くと、藤真さんは不敵な笑みを浮かべながらも携帯をパチンと閉じた。

「わかればいい。で、仮装喫茶はどこでやってんの?」

「え?行くのか健司。亜子のメイド姿ならここで見れたからいいじゃん」

「望、亜子にはクラスメイトというものがいる」

「ああ、そりゃ……まあ……いるだろうな」

「そのクラスメイトには宮城リョータがいる。男子は燕尾服だそうだ」

「ぶぶっ!!アイツが燕尾服とか……!!マジかよ、面白そうじゃん!!見に行こうぜ!!」

藤真兄弟はまるでネタを探しに行くかのように私からクラスの場所を聞き出し、我が2年1組へと向かっていった。
リョータの困惑&ブチキレ姿が目に浮かぶ……が、何にせよターゲットが移ってくれたことは有難く思う。
別れ際に『また後でな』なんて言われたような気もするが、脳内メモリから消去しておけば問題あるまい。
それにしても、藤真さんに敬語使わないとか……どんな無理難題ふっかけてくんの……。
でも敬語使うとメイド姿を翔陽のみんなにバラ撒かれるし、が、頑張ろう……。

そして望くんの嘘つき!


とりあえずこんなことでめげている場合ではない。
他に知り合いにでも出会ってしまったら面倒なことになりかねないので、さっさと場所移動するに限る。
ほら、彰くんとか彰くんとか仙道彰とか。
見つからないうちに校内へ戻らなきゃ。


上履きに履き替えてまずは一階を歩く。
通りすがりの人に『仮装喫茶遊びにきてください』と声をかけつつ、他のクラスの様子もチラ見しつつ。

二階に上がろうと階段へ足をかけたその時、上からポップコーンが降ってきた。

「うわ、すんません!!大丈夫っすか!」

ポップコーンを降らせたであろう人物が必死で謝りながら駆け下りてくる。

「…………げっ」

「ああああああああ!!!亜子さんじゃん!ラッキー!!神さん!ほら亜子さん!!」

またもや出会ってしまった。
今度は海南の凸凹コンビに。
上から聞こえてくるのがなんか聞き覚えのある声だと思ったんだよなー。
そっかー。
まじかー。

「亜子ちゃん……話には聞いてたけど、その格好可愛いね。似合ってるよ」

「ほんと、マジ似合ってるな……馬子にも衣装とか言ってやろうと思ってたのに言えねーじゃねえか」

「へえ、よくそんな言葉知ってたね信長」

「神さーん、そこまでバカじゃないッスよオレ!」

嫌な顔の私を気にもせずに話を進めていく二人。
彰くんに出会うならともかく、なんでこの二人まで……
ていうかそんな話を神くんにしたのはどこのどいつだ。

「二人共今日部活は?」

「部活なら休みだよ。監督が湘北の文化祭を見に行ってこいって」

「高頭先生自ら!?じゃあもしかして海南バスケ部のみんなで来てるの!?」

「大体来てんじゃねえ?牧さんは午後来るようなこと言ってたけど。監督も来るようなことぼやいてたぜ」

「どんだけ湘北の文化祭が需要あんのよ海南にとって」

「さあ……監督は息抜きのつもりなんじゃないかな。牧さんは赤木さんの演劇を楽しみにしてるとか言ってたけど」

「あ、そうそう!演劇するんッスよね!あのゴリラがどう演劇するのか見ものだぜ……かっかっか!」

赤木先輩演劇するんだ。
小道具とか大道具とか、そんな役割じゃなかったんだ。
それはそれで私も見てみたい……!寿先輩に後で相談してみようかな。

「来ちゃったもんは何を言っても仕方ないよね……ちなみに翔陽の藤真兄妹も来てるよ。多分彰くんも来てると思う」

「なんか集合してるって感じだね」

「で、亜子さんのクラスどこなの?」

「私のクラスは階段上がって奥のとこ。リョータが燕尾服で接客してるから、是非からかいに行ってやって!」

「へえ……宮城がねえ……うん、面白そう。行こうか信長」

「そッスね!!めいいっぱいからかってやりましょ!あ、そうそう!赤毛猿はどこにいんの?」

「花道のとこはねー、えっと……階段下りて左側のほうに歩いていけばあるよ。たこ焼き屋さんだからもしかしたら花道が焼いてるかもね!」

「はっは!アイツが焼いたたこ焼きとかそれこそからかい甲斐がありそうだ!!神さん、後でそっちも行きましょうよ!!」

「うん、わかった」

ニッコリと微笑む神くんと、子供みたいにはしゃいでいるノブ。
文化祭なんて言わばお祭りだから自然な姿で楽しんでもらえるのはこちらとしても嬉しい。
そしてターゲットがまたしてもリョータに移ったのは私にとってご満悦である。

「っとと、その前に。亜子さんちょっとこっち来て」

「ん?なになに?」

「その看板もうちょいあげて」

「こう?」



カシャッ



…………藤真健司に引き続き、何してくれてんだ清田信長。


「次、神さんとのツーショットね!その次オレとのツーショットね!」

「おいおいおい待て待て。撮るな!撮るなって!撮影禁止!」

「えー!なんでだよ!せっかくのメイド姿、記念に撮ったっていーじゃん」

「やだよこんなの自ら望んでやってるわけじゃないもん」

「オレとは一緒に撮りたくない?」

「うっ……じ、神くん、そういう意味じゃなくて」

「じゃあいいよね、はい、信長」

ひるんだ隙に神くんに肩を寄せられ、チャンスとばかりにシャッターを押すノブ。
ずるいよ、イヤだって言えないような質問の仕方をするなんてさー!!
断れるわけないじゃんかー!!

「じゃ、次オレと!」

「はいはい、もういいよなんでもいいよ、さっさと撮ってくれ」

ムリヤリな笑顔を作り、神くんの構える携帯カメラに向かってピース。

「ないとは思うけど、誰にも転送しないでよ」

「そんなことしないから大丈夫だよ」

神くんとノブを信じてないわけじゃないけど、つい先ほど条件付ではあるものの『バラ撒く』って言った人に出会ったもので。
不安は拭えない。

「心配すんな、後でオレらが見て思い出を楽しむだけだから」

「二人がそういうなら信じるけど」

「じゃ、邪魔しちゃ悪いからそろそろ行くよ。頑張ってね」

「そんじゃーな!後で見かけたらまた声かけるわ!」

「はいはーい、二人共ありがと!またねー!」



神くん、信長と別れてしばらく歩いているといつの間にかいい感じの時間になっていた。
11時半か……ちょっと休憩してから交代してもらったら丁度いいかな。
昨日からずっと頑張ってるんだもん、これから自由時間とはいえ少しくらい休憩したって構わないよね。


いつもの御用達の自販機でお茶を買おうとお金を入れる。
ジュースだと喉かわいちゃうからね、お茶が飲みたい気分なのだ。
ボタンを押して自販機からお茶を取り出そうと屈んだ。

「パンツ見えてるよ蜂谷ちゃん」

「っ!!」

お茶を取り出す前にそんな声を掛けられてしまったので、咄嗟に地べたにしゃがみ込んだうえに逃げ遅れた手が取り出し口に挟まって痛い。

「ダメじゃん、そんな短いスカート穿いてるんだから気をつけないと。オレにとっては目の保養になっていいけど」

「バカ仙道!てめーデリカシーねえな!」

「やっぱり来たか仙道彰……!と思ったら越野くんまで……」

ということは越野くんにもパンツ見られたってことか。
越野くんをチラ見すると、赤い顔でパッと目を逸らされた。
ガーン……。

「ご、ごめん蜂谷さん。仙道が言わなかったら気づかなかったんだけど」

「いや、いいのよ。汚いものを見せて悪かったのよ……」

「ホラ落ち込んじゃったじゃんか!仙道どうにかしろよ!」

「ごめんごめん、汚くないから大丈夫だって!ね!」

「だあっ!慰めになってねえよ!!」

何をどうフォローされたってパンツ見られたことに変わりはないんだからもうよしてくれ。
余計惨めになるだろう。
しかし越野くんも居るってことは、陵南も部活休みになったのか。
四校そろって休みとか……いや、湘北は文化祭だから例外だけども、他の三校は一体どうなってんだ。
翔陽の藤真さんは仕方ないとして。
高頭先生も田岡先生もしっかりきっちりしてくれよ……!
アレか、高校四年制度になったからって気が抜けてんのか!
私がそれぞれの高校回って喝を入れてやろうか!
無理だけど!

「はー……なんかもう疲れた」

「今休憩中なんでしょ?良かったらオレらと一緒にお茶しない?」

「なにそれなんてナンパ」

「み、見ちゃったお詫びに何か奢るよ」

「越野くんそれはもういいよ!寧ろ忘れてよ!」

「ご、ごめん!」

「越野は純情だからねー」

あはは、なんて笑う彰くんを買ったお茶で殴ってもいいだろうか。
アンタは越野くんを見習え!

「まあ……有難い話だけどこれ飲み終わったら教室戻る予定だから……あ、リョータの姿は見た?」

「え、宮城も何か仮装してんの?」

「燕尾服着て接客やってるよ」

「へぇ……どうする越野」

「面白そうだし、見に行くか」

「やっぱりみんな面白そうだと思うんだねー。ちなみに藤真兄妹と神くんとノブも行ったはず。まだいるかどうかはわかんないけど」

「あ、やっぱ藤真さんも来てるんだ。海南の二人もか」

「そう、みんな部活休みみたい」

「なんか……大変そうだな」

「越野くんわかってくれるー?」

「ああ。無理せず頑張れよ」

「うん、無理せず頑張るよ。でももうちょっとで交代だから大丈夫!お気遣いありがとね!」

ペットボトルのお茶を一気に飲み干し、彰くんと越野くんの二人を仮装喫茶までご案内。
これホストの世界で言うと同伴出勤っていうんだっけ。
そんなどうでもいいことを考えつつ、到着した我がクラスには。

「あっ!亜子さん!!おかえりー!」

「おう、ようやく戻ってきたか」

「オイ宮城、これもう一個」

「うん、なかなかイケるね……」

「亜子!!おまえこれどうにかしてく……げえ!!仙道と越野まで来た!!」

道理でウチのクラスの周りに見物人が多いわけだわ。
戻ってきた私を出迎えてくれる信長と藤真さん。
追加注文をする望くん。
味を吟味しているであろう神くん。
そして私の後ろには彰くんと越野くん。

ただでさえ仮装喫茶が人気っていうのに、こんなカッコイイ集団がいたらそりゃあ皆気にもするわな。

慌てるリョータに憐れみの視線を送る。
すると、接客していた他の女子にぐいっと腕をひっぱられた。

「ごめん亜子ちゃん、あとちょっとだけ手伝ってくんない!?」

「ええ!!でも私もう交代の時間……」

「あとちょっとだけでいいからああ!!手が空いてる人探すから!それまでお願い!!ね!」

「えええ……!!」

記憶が正しければ、あと10分程で寿先輩が迎えに来るはず。
嫌な予感しかしない……けど、圧倒されて断ることも出来ない……。




時間通りに迎えにきてくれた寿先輩は、想像通りのリアクションで。

「おーい、亜子。迎えに……なんでてめーら勢揃いしてんだ……!」

頬には冷や汗が伝っているように見えなくもなかった。
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