スラムダンク | ナノ

 47

「いいわね、可愛らしいじゃないの」

ニコニコと笑顔で褒め称えてくれる伯母さん。
その前には、メイド服着用の……私。
なんでこんな状況になっているかというと、伯父さんが文化祭でのクラスの出し物の話をバラしてしまったからである。

文化祭に行く体力はないが仮装した姿を見たいという伯母さんのために、今日完成したばかりのメイド服姿をお披露目している、というわけだ。
サイズが合ってるかどうかの確認もしておいてと衣装班にも言われていたので、その機会を利用させてもらった。
教室で試着しようとも思ったが、まだ羞恥心が捨てきれない私にはとても出来なかったんだもの……!

「これなら繁盛間違いないわね、当日は無理しないように頑張るのよ」

「ありがとうございます、適度に頑張ります!」

「それじゃあ亜子ちゃんの晴れ姿も見れた事だし、私はこれでおいとまさせてもらうわ」

「はい!今日もありがとうございました、いつも助かってます」

ぺこりとお辞儀をすると、優しい笑みをひとつ残し、伯母さんは管理人室を後にした。

さて。
後の確認事項は……と。
洗面所の鏡の前でくるりと一回転をしてみる。

……うん、動き辛くもない。
サイズもぴったりだということがわかったし、動きに支障もないし、伯母さんにお披露目も終わったことだし。
いつまでもこんな格好をしているわけにもいかないので早々に着替えてしまおう。
当日本当にこの格好すんのかなあ……イヤだなー……などと思いつつ、畳んで置いてある私服に手をかけたその時だった。


「蜂谷ちゃーん、いるー?」

ガチャリと開かれたドア。
勢い良く入ってきたのはツンツンヘアーの仙道彰。

しまった、伯母さんが出てってから鍵をかけ忘れていた!!
……なんて、そんなことはどうでも良くて。

「ちょ、そのカッコ……どうしたの!?」

「うわああああああああああああああ!!」

彰くんが口を開くと同時に思わず叫ぶ。
だって、よりにもよって彰くんにこんな姿を見られるなんて……!!

「彰くんこそ何!何でこの時間にこんなところにいるの!!学校は!?部活は!?」

咄嗟に手にした私服でメイド姿を隠しつつ、部屋の隅へと逃げ込む。

「学校は終わってるよ、蜂谷ちゃんだって学校終わってここにいるんでしょ。部活は〜……うん、まあ、今日は自主練習かな」

言いながら、ドアを閉めて近寄ってくる彰くん。

「ちょ、なんでドア……!こっちこないでよ!」

「えー、だってそんな可愛い姿、間近で見たいじゃん」

「今着替えようと思ってたところなんだから!だからもうちょっと待って!ていうか来るなってば!」

「来るなって言われると近寄りたくなるのがオトコの心理ってもんだよ。着替えちゃうなら尚更でしょ」

「やだー!やだー!!こんな恥ずかしい姿見られたくないー!!」

「まあ、そう言わずに……ね?オレにその可愛い姿、ちゃんと見せてよ」

じりじりと距離を詰める彰くん。
そのつもりはないんだろうけど、言ってる台詞がなんかエロいんだよ……!!
恥ずかしいのに余計に恥ずかしさが増すじゃないか!!
ってかオトコの心理ってなんだ、オンナの私にそんなもんわかるわけがなかろう!

彰くんが私の腕を掴みかけたその時。

「亜子、いるかー?」

再びガチャリと開かれたドア。
彰くんに次いで入ってきたのは爽やかフェイスの藤真健司。

鍵かかってなくて良かった……!天の助け……!!

「ふっ、藤真さん!!助けて……!!」

なんともいいタイミングで登場してくれた藤真さんに半泣き状態で助けを求めると、突然のことに状況が飲み込めない藤真さんは大きく目を見開いていた。

「え、何?仙道……?そういうプレイなの……?」


そういうプレイって何!!


「誤解だああああああああああ!!藤真さんのバカアアアアアア!!」

「そうそう、そうです。お取り込み中だからどっか行ってくださいよ藤真さん」

「……とりあえずお前らどっちもムカツクなー」

本気で言ってるのかボケてるのか、勘違いしている藤真さんに暴言を吐く私と、にこやかに藤真さんを追い出そうとする彰くんと。
これまたにこやかに私と彰くんにムカついたご様子の藤真さん。

「なんかよくわかんねーけど、とりあえず仙道は少し離れたら?」

「あっ、ちょっと。割り込み禁止!」

ムカツクと言いつつも、藤真さんは私と彰くんの間に割り込んでくれた。
やっぱり天の助け!

「あっ、ありがとうございます!藤真さんが来てくれなかったら今頃私、彰くんに襲われてました!」

「ちょっとぉ!それはないんじゃないの蜂谷ちゃん!その可愛い姿を近くで見たいって言ってただけじゃん!」

「仙道……その発言も危ないとは思わないのか……まあいい。で、亜子はなんでそんなカッコしてんだ?」

「危ないって!藤真さんだって蜂谷ちゃんのこの可愛い姿、もっとちゃんと見たいと思うでしょう?」

「見たくないとは一言も言ってねーだろ、お前ちょっと黙っとけよ」

彰くんに釘をさしつつ、藤真さんは私の答えを待っているようで、じぃっと見つめてくる。
メイド趣味があるとか思われたらたまったもんじゃない。
変な誤解はきっちり綺麗に取り除いておきたいので、先ほどの伯母さんとのやりとりを全て説明した。



「はあ、なるほど……それで着替えるタイミングもなく、仙道が来てしまったと」

「それでオレがじっくり堪能する暇もなく、藤真さんが来てしまったと」

「うるせーなてめーは!一言多いんだよ!」

「だって本当のことですもん。なんで藤真さんがこの時間にこんな場所に居るんですか」

おい。
私が彰くんに質問したことと全く同じこと聞いてるんだけど。

「今日は部活休みだからな、ここで体動かそうと思って来たんだよ。亜子がいたら一緒に付き合ってもらおうと思ってな」

「誰かさんみたいに部活サボって自主練習とかではないんですね、あたりまえだけど」

『あたりまえだけど』の部分を強調すると、彰くんが小さなうめき声をあげた。
部活がないから自主練習するのと、部活をサボって自主練習するのは大きな違いがあると思うもん。

「言っておくけど、オレだって蜂谷ちゃんと一緒にバスケしようと思って来たんだぜー!?」

「あーあ、今頃越野くんがカンカンになってるだろうなー」

「魚住も血管ブチ切れそうになってんだろうな」

「「まあ、毎度のことだけど」」

「ちょっとちょっと、二人共いつのまにそんなシンクロするほど仲良くなってんの!」

これは誰だってシンクロすると思う。
彰くんが部活をサボるのは今に始まったことじゃないし。
それを言ったら越野くんも魚住さんも、今更怒るでもないか……呆れているのは間違いなさそうだが。

「さ、アホはほっといてバスケしようぜ」

「そうですねー!じゃあ着替えて体育館行きますんで、先に行っておいてください。飲み物準備したほうがいいですか?」

「あー……そうだな、あると助かる」

「わかりました、それも準備していきますね」

「オレの存在薄れてるー?ねえねえオレの存在薄れ「オラ、いくぞ仙道。仕方ないから亜子が来るまでお前と遊んでやる」

「良かったね彰くん!遊んでくれるって!」

「明らかにバカにされてる……」

ぶつぶつ言いながらの彰くんを、藤真さんがズルズルとひっぱっていく。
藤真さんが来てくれてほんと助かった、危ないオヤジの目してたもん……迫ってきたときの彰くん。
本当に襲われるなんて微塵も思ってなかったけど、危険は感じたよ。


二人が出て行ったのを確認し、即座に着替えをすませる。
三人分のドリンクも準備し、体育館へと向かうと既に準備体操を終えてボールを使い始めている二人。

体育館の隅にドリンクを置き、準備体操を始めると藤真さんが近づいてきた。

「湘北の文化祭っていつなわけ?」

「月末の土日ですよ。前日を丸々一日準備に使って、その次の日が校内参加のみで日曜日が一般参加も出来るんで、良かったら遊びに来てくださいね!」

「遊びにいけばさっきのカッコが再び拝めるの?」

いつのまにか彰くんも近くに来ていて、自然と会話に加わる。

「……やっぱ遊びにこなくていいです」

彰くんに言われて気づいたが、遊びに来てくださいなんて言える立場じゃなかった。
あの格好をみんなに晒すくらいならば絶対に遊びに来ないで欲しい。

「っていうか、来んな」

「来んなってなんだよヒデーな」

「ったっ」

心で留めておくはずがそのまま口に出ていたようで。
それを聞いた藤真さんによってデコピンされてしまった。
地味に痛い。

「来るなって言われても聞いちゃったもんね。月末の日曜日かー……もいっちゃんに部活無いようにお願いしとこ」

「散々サボってるお前の話を田岡先生が聞いてくれるのか?」

「どーにかなるんじゃないスかね?」

「ノーテンキな男だな、相変わらず」

「お褒めの言葉をどーも」

「じゃあ私は田岡先生に無理にでも部活休みにしないでくださいって言っておこ」

「え!蜂谷ちゃんってもいっちゃんと交流あんの!?」

「そこは秘密〜」

「俺は部活休みかどうかは俺が決められるから問題ないな。望と一緒に行くから何かサービスしろよ」

「えー……来ないでくださいよ、ほんとに」

田岡先生と交流なんてあるわけがない。
彰くんが来ないようにハッタリで言っただけで。
しかし翔陽はやっかいだな、藤真さんの鶴の一声だもんな……後で望くんに来ないようにメールしとくしか方法は考えつかない。

本来ならば、色んな人たちに来てもらいたいし、みんなでわいわいお祭り騒ぎやったほうが楽しいのはわかってる。
でも何度も言うけどこの格好をお披露目するわけにはいかないんだよおおおお!!!

そんな日には羞恥で鼻血出るわ。



文化祭の話もほどほどに、バスケやってる間に忘れてくれればいいなあ、なんて思いつつ。
体育館の閉館時間まで三人で体を動かし続けたのだった。
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