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神龍之介さんとの出会いも無事完了し、心の支えがひとつ増えたことに安堵した。
アドレスも夜には忘れずに神くんから聞き出し、次の日曜日から龍之介さんの管理人生活が始まる。
そして今度こそ文化祭ムード一直線なのである。
文化祭が行われるのは11月後半。
今からだと後一ヶ月ちょっと。
現在私達のクラスで決定しているのが、仮装喫茶をやる事はもちろんのこと、女子はメイド服着用。
それに対抗して男子は燕尾服。
メイドVS執事なイメージになりつつある。
別に対抗するわけじゃないけど、メイドといったら執事だろうっていう感じですんなりと決まってしまった。
どうにかメイドは脱却できないかなーと思いつつも、今のところ何も打開策が浮かばずにいる。
呼び込みをするのであればせめて着ぐるみとか……ていうか仮装喫茶なんだからそれぞれ好きな仮装でいいと思うんだけど。
文化祭が終わるまではメイド案を出したリョータを恨み続けてやる。
後はメニューなんかもちらほら決定している。
教室での火気は厳禁なので火を使わないメニューにしぼられたから、話し合いが多少は詰まったりもしたけれど。
なんとかいい感じにまとまりつつある。
「亜子お待たせ!先生からお金預かってきたよ!」
「彩ちゃんおかえりー!」
文化祭までに何時間か特別な授業時間が設けられていて、その時間は文化祭のために好きに使っていい時間となっている。
幸いなことに当クラスには裁縫の得意な女子が何人かいたので、メイド服や燕尾服はその子達が作ってくれることになった。
必要なのは男女10人分くらい。
呼び込み、接客、受付などが衣装が必要なだけでそれ以外の厨房担当の子達が着る分は用意されない。
見えないところで着てても仕方ないし、動き辛いだけだし。
そう考えると大体10人分ずつあれば十分だろうという結論になった。
私は買出し係りの一人で、今日は必要な紙コップや紙皿の下見に行くのだ。
偶然にも彩ちゃんと一緒になれたのが嬉しかった。
ちなみに、服飾関係の買い物は既に他の子が済ませてくれているのでメイド服&燕尾服製作には衣装班が取り掛かっている。
他の男子は看板作りや、テーブルクロスの買出しなどの作業が分担して行われている。
「場所は調べてくれてあるのよね?」
「うん、バッチリ!メモってきたから大丈夫だよ」
「OK!じゃあ早速行って来ましょうか」
「だね!」
彩ちゃんと教室を後にし、いざ学校外へ!という時に後ろから名前を叫ばれた。
「亜子さんじゃないッスかー!どこ行くんですかー!」
「うわ、花道……でかい声で名前叫ばれると恥ずかしいんだけど……」
「あの単純頭には言っても無駄でしょうね」
苦笑いを返す彩ちゃんをよそに、ずんずん近づいてくる花道。
と、更に後ろから水戸くん。
「すみません亜子さん、コイツしつけておきますから」
「なーんでテメーが謝るんだよ!よーへー!!」
「あはは……相変わらず賑やかでいいねえ」
「そーでしょうとも!この天才桜木、元気が取り得ですから!!」
元気だけが、じゃないのか。
誰もがきっとそう思ったことであろう……だが、中途半端な優しさなのか、誰もツッコミを入れることはなかった。
「で、お二人はこれからどこに行くんですか?もしやサボリ!?」
「ばっか花道!アタシらがサボるわけないでしょ。買出しよ、買出し!」
「偶然ッスね、オレらも買出しに行くんですよ」
花道を押しのけつつ、前に出る水戸くん。
後ろで花道がごちゃごちゃ言っているけど、さすがの水戸くんは気にしてる様子もない。
「水戸くんと花道のクラスは何をやるの?」
「たこ焼き屋なんですよ。たこ焼きを入れるパックとか、割り箸とかを買いに行く予定で」
「あーっ、オレが全部説明しようとしてたのにー!」
「へえ、じゃあもしかしたら私達と同じ店かもしれないね?」
「おおっ……!そうなんですか!?亜子さん達は何を買うんですか?」
水戸くんに説明されてしまって嘆きつつ、頭を抱えていた花道は『同じ店』と言った途端に復活した。
単純すぎて可愛いヤツ!
「紙コップとか紙皿とかの下見よね。ね、亜子」
「うん。このお店に行くんだよー」
メモを見せながらそう言うと、確かに同じ店っぽい、と頷く水戸くん。
同じ店なら一緒に行きましょう、という話になり、四人で目的地へ向かうこととなった。
それにしても、花道はともかく水戸くんなんてサボリそうなもんだけど。
団体事に関しても結構協力的なのかな?
それとも花道が参加してるからかな。
なんだかんだで桜木軍団はみんな花道のこと大好きだもんね。
他の三人……大楠くん、高宮くん、野間くんは看板製作に参加しているらしい。
あの三人が一生懸命たこの絵を描いてると思うと和む。
当日は看板の前で桜木軍団の写真を撮らせてもらおうかな。
写真……そうだ、こういう文化祭の準備風景もきっといい思い出になるよね。
当日より準備の方が楽しいって言ったりもするし。
こっそり写真撮らせてもらっちゃえ。
そう思って携帯をポケットから取り出し、自然を装って少しみんなより遅れて歩くようにする。
よし、シャッターチャンス!
「なーにしてんスか、亜子さん」
「うわ!ブレた!!」
カメラボタンを押したその瞬間。
携帯を持つ手をガシッと掴んできたのは水戸くんだった。
「あっ、何よ?隠し撮り〜?」
「オイコラ洋平!てめーその手を離せ!!」
おかげで彩ちゃんにも花道にも写真を撮ろうとしてたのがバレてしまい。
「あとちょっとだったのに……なんで気づくかな〜、水戸くん」
少々ふてくされ顔でそう言うと、水戸くんはクックッと笑っている。
「だって、なんか挙動不審な動きしてたし。彩子さんと花道は少し前にいたから気づかなくても、オレの視界には入ってましたよ」
なんか、間抜けなヤツだと思われてそうな気がする。
……こうなったら堂々と撮らせてもらうしかない!
「気づかれてしまったからには仕方ない……!あのね、みんなとの思い出がもっとほしいので、隠し撮りさせてください!」
「言っちゃったら隠し撮りとは言わないのでは……」
「ぶぶっ!!亜子ってば花道につっこまれてやんの!!」
「うっ、うるさいな!なんでもいいから写真撮らせてよー!!」
「ぬおっ、亜子さんがキレた!」
相変わらず笑っている水戸くんと彩ちゃん、焦っている花道に向かって携帯を構える。
こうなったらおかまいなしにシャッター切って保存してやるんだから。
笑いながらもピースしてくる彩ちゃんに『いいよー、可愛いねー』なんてどこぞのカメラマンみたいに言っていると、それだけで段々楽しくなってきちゃって。
無駄に撮りすぎたので何枚かは保存してないのは黙っておこう。
データを見せるわけじゃないからバレることもあるまい。
「亜子さん、今度はオレが!オレに任せてください!」
「アラ、花道は亜子と一緒に写らなくていいの?」
「いいいいいい一緒にだなんてそそそそそんな……!」
どこまでも純情な男、花道。
一緒に写真に写るくらいどうってことないと思うんだけどね。
彩ちゃんとはクラスも一緒だし、写真はいつでも撮れるからせっかくなので花道と水戸くんに囲まれて写りたい。
そういうわけで、花道をスルーして彩ちゃんに携帯をパスする。
「可愛く撮ってねー!」
「おおおおオレはどうすれば……!」
「素直に写っときゃいいだろ花道」
「いくよー、はい!」
焦ってる花道を放置し、シャッターを切る彩ちゃん。
よし、これで花道と水戸くんとの思い出メモリーGET!
「これで大丈夫?」
「うん、ありがとー!彩ちゃんも教室戻ったら一緒に撮ろうね!」
「オッケー。目的の店はもうすぐそこみたいね、さっさと行くわよー!」
「花道も水戸くんも、付き合ってくれてありがとね!」
「イイエ!お安いゴヨウです……!」
「これくらいならいつでも」
余裕の水戸くんに対し、未だに動揺気味の花道。
いつまでもその純情さを見失わないで欲しいよ、おねーさんは切に願う……!
そうして遊びながらも目的地へ到着した私達は、それぞれの必要物を探しに分裂。
10分もすると、花道達は無事に購入が済んだみたいだ。
私達は下見のつもりだったが、既にお金を受け取ってあることもあり。
思った以上に安く済みそうだったのでこちらも購入を済ませてしまった。
量が多いから運ぶのは後日にしようという事になり、再び四人仲良くお店を後にした。
運ぶ日にはクラスの男子に頼もうと思ったのだけれども、花道と水戸くんが付き合ってくれると約束してくれたのでお言葉に甘えようと思う。
……自分達のクラスは放置でいいのかな?
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