スラムダンク | ナノ

 44

流川とデート……もとい、デートもどきをしてから一週間が過ぎた。
皆も居たし、あれは最早デートとは言えないもんな。

そろそろ文化祭ムードになってきた湘北高校の生徒は、なんだかみんな浮き足立っているようだ。
私のクラスでは仮装喫茶の計画が着々と進んでいる。
実行委員は免れたものの、当日仮装しつつも校内を練り歩いて呼び込みする係、というなんとも恥さらしな役目を仰せつかってしまったのだ。
こんなことなら実行委員をやっていたほうがまだマシだったかもしれない。
そうは言っても体育館のことがあるからやっぱり実行委員なんて無理だったわけで。

なんの仮装かはまだ決まってないのだがリョータという名前の大馬鹿者のせいで、『女子はメイド服でいいんじゃね?』なんていう流れになっている。
本気でカンベンしてほしい。
何が悲しくて校内でメイド服……。

自分のメイド服姿を想像してしまいそうになった頭をふるふると振ったと同時に、ポケットにしまっておいた携帯が鳴った。


神くんからのメールだった。

内容は、明日の放課後空いているだろうか、というもの。
神くんのお兄さんが明日都合がいいそうで、できれば私と話がしてみたいそうだ。

明日は体育館の管理があるけれども……実際お兄さんとは体育館の件での話だろうし、問題はないだろう。
体育館でよければ、と無難な返事をしておこう。

「オッス、亜子。何こそこそやってんだよ」

「うわっ!寿先輩!突然人の頭に乗らないでくださいよ!そしてこそこそなんてしてないですー」

「お前の頭は丁度いい位置にあるんだって」

「そりゃあ先輩にとってはチビでしょうけど……って、あ。返事かな」

メール送信して1分も立たないうちに、再び携帯が鳴り出す。

「誰?」

「誰だっていーじゃないですか」

「亜子の癖に生意気じゃねえ?」

「いだだだだ!生意気で結構ですから!!体重かけないでー!!」

のしかかってる寿先輩の腕をぐぐっと持ち上げると、「おっ」なんて楽しそうな声を発している。
男の人の力に適うわけないんだから、もうちょっと手加減してほしいと思う。
そしてメールの相手がバレたらまた面倒な事になりかねないな。
早々に話題を切り替えたほうが良さそうな気がする。
神くんには申し訳ないけれども返事は寿先輩と別れてからさせてもらおう。

「そういえば先輩」

「あー?」

「アレどうするんです、アレ」

「あん?アレってなんだ」

「図書室で言ってたアレですよ」

「図書室……?あー、デー「声が大きい!!」

デート、と大きな声で言おうとしていた寿先輩の口を、思わずベチン!!と叩いてしまった。
でも、正直私は別に悪くないと思う。
責任転嫁?なんとでも言うがいいさ!
デートなんて大声で言われた日には、寿先輩ファンが怖いじゃない。

「…………」

「なんですか、なんで叩かれてニヤニヤしてんですか」

てっきり『てめぇ……先輩の口を叩くなんていい度胸してんじゃねえか……』くらい言われると思ってたのに。
それに反して先輩は何故かニヤニヤしている。

「亜子……お前、デートって言うのが恥ずかしいんか?」

「なっ!?そんなことっ……!」

思ってないですよ!
そう続けたかったのに、デートって改めて意識してしまうと顔が熱くなる。

「ほーかほーか、まったく可愛い後輩だよお前はよ」

終始ニヤニヤしながら私の頭をぽんぽんと撫でる寿先輩。
くそう、手が大きくてあったかいから気持ちいいんだよ……!

「子供扱いしないでくださいよ!それで!どうするんですか!」

「あー、そうだなー。中間終わって話すかって言っておきながらなんも考えてなかったもんなー」

「先輩は行きたいところとかないんですか?」

「行きたいところねえ……んー……そういや、お前のクラス文化祭では仮装喫茶やるんだって?」

「突然話変わりましたね……そうですよ、ウチは仮装喫茶です」

「ふーん」

ちょっと考えるようなそぶりをした後、よし、と一言。

「文化祭一緒に回るか!」

「え」

「え、って何だよ、え、って」

今の『え』には二つの意味があるんだけれども。
まず、一緒に回ってるところを寿先輩のファンに見られでもしたら、っていうのがひとつ。
二つめは、一緒に回るのが私でいいのかなっていうこと。
クラスやバスケ部の仲間とかじゃなくていいんだろうか。
とりあえず素直に聞いてみることにした。

「私でいいんですか?一緒に回るの。クラスの友達とか、部活仲間とか……」

「文化祭を男同士で回って楽しいと思うか?」

「楽しいんじゃないですか?」

「…………まあ、普通に楽しいとは思うけどよ」

「?じゃあ何が不満なんですか?」

「不満なんて誰も言ってねーだろ……っつか、お前は俺と回るのがそんなにも嫌なわけ?」

「え!?」

なんだかおかしな方向へ話が進んでる?
そう思った瞬間、私は自分の目の前で両手をぶんぶんと交差させた。

「滅相もない、嫌なわけないじゃないですか!」

「嫌じゃないならそれでいーじゃねーか、決まりな!んじゃ、オレそろそろ行くわ」

またもや頭をぽん、と叩きつつ、寿先輩は自分の教室の方面へと戻って行ってしまった。
デートの話が文化祭の話へ……。

ってことは、デート=文化祭ということでいいのだろうか。
個人的には楽しそうだからいいけれども。
あとは寿先輩ファンに気をつけ……るのも、今更な話か。
これだけバスケ部に近い位置に居て、気をつけるも何もないよね。




……あれ、何か忘れてるような……っとと、そうだそうだ!
神くんに返事をしなきゃいけないんだった。

自分のクラスへと足を向けつつ、携帯に手を伸ばす。

神くんからのメールを見て、一瞬書かれていることが本当かどうかを疑ってしまった。

だって。

『明日、本当は俺も行きたかったんだけど……ちょっと予定があって。兄さん一人で行くけど大丈夫かな?』

初対面の人と一対一とか。
そりゃあ人見知りするほうではないと思うけど。
知ってる人物ならまだしも、神くんにお兄さんが居るということ自体私にとってはイレギュラーなわけで。

……なんか、緊張する。

でも藤真家の望くん同様に神くんのお兄さんは気になるし、ちょっと悩むけど……ここは普通にOKの返事をしておこう。


文章を打ち終えてメール送信画面に切り替わった瞬間。


何故だか、妙な胸騒ぎを覚えた。
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