スラムダンク | ナノ

 43

お化け屋敷を出た後は、近くにあったカフェでひと休み。
ひと休みって言ってもまだお化け屋敷しか入ってないし、普段動きまくっているであろうみんなの体力はまだまだ心配ないんだけど……他の乗り物が混みすぎてて乗れないっていうのが現状なので、仕方なく。
テーマパーク内にもこんなおしゃれな場所があるんだ、と感心しつつ、空いている席を探した。

とにかく人の数がすごい。
某有名台詞の『人がゴミのようだ』なんて言ってみたくなる。
ちょうど席を立った家族がいたので、ノブが駆けつけてその席をGETしてくれた。

「じゃあ、俺、まとめて買ってきますよ!」

「6人分も持てないよね、私も一緒に行くよ」

「いやいや、亜子さんは待っててください!……とはいえ、6人分も持てないのは確かッスね。オイ、流川!行くぞ!」

「……なんでオレ」

「一年坊主は下っ端なんだよ、つべこべいわずに行くぞ!」

「……へいへい」


やれやれ、といった感じで立ち上がる流川。
珍しく素直で、ちょっとビックリした。
一年だから仕方ねえな、とか思ってるのかな。

「んじゃ、希望は?」

ノブがみんなの注文を聞いて、流川に覚えろよ、なんて言いながらカウンターへと行ってしまった。
流川は相変わらずの飄々とした顔だし、きっとちゃんと聞いてなかったに違いない。
とはいえ、藤真さんも望くんも神くんも、みんなコーヒーだったから私もそれに便乗して。
みんなの注文が一緒なので、間違えようはないだろう。


レジも大分並んでいるようで、二人で何かを話している……と言っても一方的にノブが話しかけて、流川は頷いたりするくらい。
そんな姿を見るのは結構新鮮で、ライバルなのにこんなところで一緒にいるっていうことが微笑ましく思えたり。

「そういや、俺の兄さんが亜子ちゃんに会いたがってたよ」

「兄さん?神って兄貴いるんだ?」

「そうなんですよ、藤真さん達みたいに似てるわけじゃないですけどね」

「へぇ〜……でも、なんでまた私に?」

「体育館の話とかしてたら、管理人っていう仕事に興味が湧いたみたいでさ」

「管理人?仕事って言っても、給料とか出るわけじゃないよ??」

「それも、ちゃんと話したんだけどね……」

そう言いながら、苦笑気味の神くん。
私が管理人をやっているのは、あの場所を守りたかったからであって。
きちんとした仕事っていうわけじゃないから、働きたい人には意味ないと思う。

神くんもそれをわかっていて、お兄さんに言ってくれたみたいだが、それでも『興味がある』の一言だったそうだ。

「まあ、体育館の管理人とかは普通じゃ出来ない事だもんな」

ほんっと、よくやるよなー、と、頭の後ろに手を回し、椅子にもたれかかる望くん。
職種的には事務作業っていうことになるのかな。
それでも普通に事務って言ったら会社のオフィスとか、そんな感じだろうな。
確かに、普通じゃ出来ない事かもしれない。

「お兄さんがそう言っているなら、私はいつでも大丈夫だよ」

「うん、ありがとう。帰ったらそう伝えてみるよ」

神くんのお兄さんってどんな人だろう。
これも原作に出てきたわけじゃないから、想像がつかないや。
本人は似てないって言っているし……それでも、神くんの家系はみんな素敵な人っていう勝手なイメージがある。
いざ、会ってみてのお楽しみだな。


そんな話をしていると、ノブと流川が飲み物を三つずつ抱えて戻ってきた。
お金を渡そうとすると、流川に『亜子先輩はいらねー』と、差し出した手を戻されてしまった。

「なんだよ、亜子にだけオゴリ?私だって女なのに?」

望くんが不満の声を漏らすと、藤真さんの口元が緩む。
その気持ち、わかりますよ藤真さん。

「女とか男とか関係ねえ。亜子先輩だから俺が奢る」

「はー、いつも世話んなってるお返しとか?へえへえ、さいですか」

「なかなか先輩思いだなー、流川は」

「あ、ありがと流川!」

「……ウス」

望くんと藤真さんの言葉に流川が微妙な顔をしていたから、本当にその理由なのかはわからないけれど。
本当にそう思ってくれてたんなら、可愛い後輩だなあ、と思う。
お世話しているなんて、私よりも寧ろ彩ちゃんだと思うんだけど、彩ちゃんはこの場にはいないしね。
たまの手伝いでもそう思ってくれてたんなら、嬉しい限りだよ。



「この後はどうします?」

「んー、そうだなあ……折角来たんだから、メインのジェットコースターくらいは乗っておきたいよねえ」

遊園地に遊びに来て、お化け屋敷しか入らないとか……ないよね。
でも、流石にあの長蛇の列に並ぶのは厳しいなあ。

「それなら夜のほうがいいんじゃないか?夜だったら、帰る奴らとかいるだろうから、列も緩和するんじゃねーの」

「あ、なるほど。藤真さん、ナイスアイデア。そしたら……ここ、行ってみる?」

「どこ?神くん、ちょっとそれ見せて」

鞄からマップを出すのがちょっと面倒だったので、神くんの持っていたマップをしばし拝借。

「遊覧船……のんびりしてていいかもね。流川、ここでいい?」

「俺はどこでも」

「じゃー、決まりだね!」

予想通りの反応をくれた流川。
皆もそこでいいということなので、カフェを出てから遊覧船の場所へと向かった。

そこでも結構な列は出来ていたけれど、一度に船に乗れる人数が多いので、待ち時間はそれほど苦じゃなかった。



その後も、比較的空いてそうな乗り物をみつけては並び、乗って、というのを繰り返しているうちに、段々と辺りが暗くなってきて。
夕方から夜になるのはあっという間だった。

人混みは昼間よりもだいぶ減ったけれど、今度は暗くて歩くのが大変。
6人で行動しているものだから、ウッカリしてるとはぐれてしまいそうになる。
私以外はみんな男の人だし、歩く速度は早い。
多分、気を使っていつもよりはゆっくり歩いてくれているんだろうけど。

みんなの後ろについて、離されないように歩いていると。


「ん?」


流川が突然方向転換をし、私の腕を引っ張った。

「る、流川?どこに行くの?」

流川が無言なため、みんなは気付かずにそのまま進んでしまっている。
このままでははぐれてしまう、と焦りつつも、流川に腕を引かれているので顔だけしか向けることが出来ない。

「とりあえず、こっち」

「こっちって……それじゃあわかんないんだけど……」

「いいから」

それ以上何も言わない流川に、仕方なく黙ってついていくことにした。
引かれていた腕は途中で手に変えられ、お化け屋敷の時みたいに手を繋いでいる状態。

さっきと違って藤真さんがいない上、二人きりだし……なんか、静かだし。
それに夜っていうこともあってか、変な緊張感が湧き出てきた。

手に汗を掻いてしまいそうだ。

そんな事を心配していたら、流川の足がピタリと止まって。


辿り着いたのは観覧車の前だった。

観覧車の一対ひとつが綺麗なグラデーションの光を帯びている。
夜の観覧車って、どうしてこうも綺麗なんだろう。

上を向きながら、少しの間その綺麗さに見とれていると、ポケットの携帯電話が震えだした。

「も、もしもし」

『もしもしじゃねーよ、今どこにいんだよ!』

電話の相手は望くんで。
私と流川がいない事に気付いて、電話をかけてくれたのだ。

「あー、えと……「亜子先輩と観覧車乗って、また合流する」

私が答えあぐねていると、流川は携帯を奪い取って。
一言言い放ち、その後すぐにブツッと切ってしまった。

「行くぞ」

「いい……の、かな」

「構いやしねー」

「ははは……流川らしい。まあ、いいか」

望くんのブチ切れている顔が想像できたけれど、最初に流川と二人で行く約束してたんだし、二人で観覧車っていうのもいいかな、と思って。
一緒に来ている友達に、逆にこんなことされたら私だって怒るかもしれない。
でも、最初から一緒の約束なんてしてなかったしね。
ちゃんと合流するって言ってたし、それだったら乗ってからでもいいだろう。

「でもさ、観覧車も結構並んでるよ?これ待ってたら閉園近くになっちゃうんじゃない?」

「予約してある」

「予約?」

「予約」

観覧車に予約なんて出来るの?
そう問いかける前に、流川が進みだす。
手は繋がれたままなので、当然私も一緒に。

係員のところまで到着すると、流川は何かの紙を見せていた。

「ご予約の方ですね、有難うございます。少々お待ちくださいね」

笑顔を見せながら、係員が誘導する。

「本当に予約なんて出来たんだ……」

「ネットで、限定だったんだけど……偶然取れたんで」

ネットで限定って。
流川、インターネットとかやらなそうなイメージあるのにな。
偶然にしても、相当運がいいんじゃないかな。

でも、その幸運のおかげで並ばずに観覧車に乗れるんだもんね、流川の幸運に感謝!

「お待たせしました、どうぞ」

「ん」

「ありがと」

係員が扉を開き、先に流川が乗って。
その後に手を引いてくれて、私も中へと乗り込んだ。

外見だけじゃなく、中にもイルミネーションが施されていたりして、幻想的。
まるでカップルみたいな雰囲気に、意図せず顔に熱が集まっている。

流川をチラリと見てみると、別段何も変わらずに外を眺めている。

自分だけこんなドキドキさせられて、悔しい。

悔しいけれど、きっと私にはこんな風に流川をドキドキさせることなんて出来ないだろう。
元々のカッコよさも関係してると思うのね。
流川はカッコイイから何しても決まるけど、私は……うん、考えるのはよそう。



ゆっくりと動く観覧車も、段々と高くなってきて。
外を歩いている人が小さくなって。

遠くを見渡せば、綺麗な夜景が見えた。

「すごい、ここの夜景ってこんなに綺麗なんだね」

そう呟いても、流川の反応は無い。
だから、『ね、流川』と、彼の方を向いてみると。

流川が無言でこっちを見ていたので、心臓がひときわ大きく跳ね上がった。
それがなんだか気まずくて、再び夜景へと視線を戻す。


今日、一緒に来たのが私で……本当に良かったのかな。
流川って、恋愛ごとには興味なさそうだし、だから近い位置にいる私を誘ってくれたんだろうけど。
亜子先輩は特別、って言ってくれたし、その言葉も嘘じゃないとは思う。

でもやっぱり、こういうところは好きな子と来るべきだったんじゃないのかなあ。

……ああー、なんで私ってこうやって色々考えちゃうんだろう。
別にいいじゃん、そんなの!

流川が私を連れてきてくれたんだから、それでいいじゃん!

恋に悩む乙女か、私は!!

「流川、連れてきてくれてありがとう!」

自分の考えていることを振り切るように、流川に向かってお礼を言うと。

「どーいたしまして」

今度は、あの柔らかい笑みを向けて、ちゃんと応えてくれた。


その笑った顔が、流川の後ろの景色と妙にマッチしてて、思わず携帯を取り出す。

「…………何」

「いや、なんか凄く似合うなあと思って」

「……写真、キライなんすけど」

「まあ、一枚くらいはいいじゃん」

「ヤダ」

「そう言わずに、こっち向いてよ」

「………………ヤダ」

「……仕方ない、横向きでもいっか」

本人の意見を無視して、横を向いてしまった流川を写真に撮る。
横向きとはいえ、撮らせてくれただけで嬉しいよ。
しかも、撮る瞬間はちゃんと目だけはこっち向けてくれたし。

後で、みんなの写真も撮らせてもらおう。
こうやって、みんなとの思い出が一枚ずつ増えていくといいな。
家に帰ったら早速パソコンに取り込んでプリントアウトしよう。

フォトアルバムを作るのもいいかも。

そうしたら、きっと、みんなとの思い出を忘れることもない。


今日のこの時間も、きっと、いつまでも大切な思い出になるよね。


観覧車はゆっくりと私達を揺らし、長い一周を終えた。
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