スラムダンク | ナノ

 42

マップを見ながら、最初にどこに行くかを決めた。
言葉で言うのは簡単だけど、これがまた大変だった。

特に、流川とノブと望くんの口論がね。
流川はそんなに喋ってたわけじゃないんだけど、ノブが吹っかけるからそれに反応せざるを得なくて。
それに対して望くんが更にちょっかいを出すという。

藤真さんと神くんは3人を放置でどこにしようか真面目に考えていたけど、結局巻き込まれてしまったり。

最終的に私がココに行きたい、と言えば、すんなりと決定し、現在ジェットコースターの目の前。

……なんだけど。

「う、わー……やっぱり休日のテーマパークってヤバイ混んでるな……」

「これ、何時間の列?」

藤真さんと望くんの言うとおり、物凄い列が作り上げられているのだ。
待ち時間の看板を見ると。

「さ、三時間待ちだって……」

思わず声が笑ってしまった。
三時間って。
待ってたら日が暮れてしまう。

「まあ、こういうのは予想ズミだったし」

呟く流川を見れば、他行こう、というようにジェットコースターに背を向けている。

「じゃあさ、比較的空いてそうなお化け屋敷とかどう?ここの、怖すぎてあんまり人が入らないんだってさ」

「え、神さんマジっすか?どんだけクオリティ高いんだよ!って、亜子さんって怖いの駄目だったりします?」

「んー……駄目、ではないけど。得意でもないよ」

「駄目じゃないんなら大丈夫だろ、とりあえず行ってみようか」

駄目じゃないけど得意でもないって言ったのに!
こないだ忍び込んだ夜の学校は凄く怖くて嫌だったけれど、今度は作り物だからまだマシかなっていう意味で。
みんながそんな事を知るはずもないんだけどさ。
爽やかな笑顔の藤真さんにそう言われちゃったら断れないじゃんか。


仕方無しにお化け屋敷の前までやってくると、神くんの言ったとおりにその周辺だけは人がまばらだった。

「どうする?このまま入る?」

望くんがみんなに問いかけたその時、出口から数名の女の子が出てきて。

「ヤッバイ怖かったね!」

「私、マジ泣きした……」

「いやー、あれは泣くって!アタシも泣いた!!」

大声で感想を述べているものだから、会話が丸聞こえ。
どうやら、本気で相当怖いらしい。

あんな感想を聞いてると、段々と入りたくなくなってくる。

「うおー、本当に怖いんだ!楽しみだなー!」

「ちょっとワクワクするよね」

ノブの楽しみな気持ちはわからないでもないけど、神くんのワクワクは使いどころ間違ってるんじゃないかと思う。

「んじゃ、2人か3人に分かれようか」

「え、みんなで行かないんですか?」

「いや、ホラ、ここ4人までって書いてあるし」

「うわ……本当だ……」

藤真さんからマップの案内を見せられて、ガックリと肩を落とす私。
どうせなら6人全員で行きたかったよ。

「女の子2人だし、3人ずつに分かれよーぜ!」

「ぶはっ」

「ん?亜子さん、どーしたんスか?俺何か変なこと言いました?」

「い、いや、ごめん、なんでもないんだ」

女の子2人っていう台詞にウッカリ吹いてしまったわ。
だって、女の子ってさ。
一人は……ねえ?
すっごい睨まれている気がするから怖くて顔なんて見れないけど。
きっと『余計なこと言うんじゃねーぞ』オーラが放たれているに違いない。

「俺、亜子先輩と行く」

「なにぃ、流川、勝手に決めんじゃねえ!」

「最初に亜子先輩と出かける約束してたの俺だし。それ以外なら入らん」

「入らん、って……ははは。まあ、いいんじゃないかな、ノブ」

「神さん〜!優しすぎますよ!!」

確かに、入らんって。
でもそうやって言ってくれるのは嬉しいな。
それに、流川だったらお化けとか出てきてもあたしを置いて逃げたりはしないだろうし。
絶対本人には言わないけど、ノブとか逃げ足早そうだよね。

神くんは流川の不機嫌オーラを少しでも解消しようとしてくれているみたい。
本当に優しい人だと思う。

「じゃあ、流川と私とあと誰で行く?」

みんなにそう問いかけると、一瞬視界に映った望くんがニヤリと笑った気がした。

「えー、流川、私と一緒に入ろうよ!」




………………誰!!

誰なの、こんな甘えた声を出すのは!

言いながらも流川の腕へとくっつく望くん。
本当に女の子だったら積極的すぎるだろ……!

腕に絡みつかれた流川の不機嫌オーラは増す一方。

「亜子とは同じ学校なんだからいつでも会えるんだし、いいじゃん!ね?」

可愛らしく上目遣いをする望くん。
あれ、本当に男なの?
女の私よりもその仕草が似合うってどうなの。
羨ましい限りだよ。

「…………マナイタ」

「なっ、誰がまな板だゴラァ!!…………流川くんてば、ひどーい。」

「「「ブハ!!」」」

本日二度目。
盛大に吹き出しました。
ちなみに、私の他にも藤真さんとノブが。

藤真さんは事情を全て把握できているから、私と同じ意味で吹いたんだろう。
ノブはきっと、『女の子になんてことを!』の意味だと思う。
神くんは顔は笑っているけど、苦笑い、ってやつだ。

そして望くん。後から取り繕ったって、言ってしまった言葉は取り返しがつかないって知ってるかい?

「オマエ、その方がしっくりくる」

「は?」

「言葉遣いとか、交流試合の時はそんな感じだったから。…………とりあえず離せ」

「おわ!!」

ぶん、と腕を振って、望くんは流川に振り払われてしまった。

今の流川の台詞はさあ、本物の女の子だったら『私のことちゃんと見てくれているのね!』なんて雰囲気になって恋に落ちるパターンだと思うんですよ。
現に、男のくせに顔赤いもん。望くん。

「望、顔赤いぞ」

「う、うるせえバカ兄貴!あんな真顔で言われたら恥ずいに決まってんだろが!」

「藤真さんの妹さんって結構照れ屋なんスねー」

「バカ言うな、猿!」

「猿って!そりゃないっすよ!!」

「まあまあ、とりあえずさ、折角だから中入ろうよ。流川と亜子ちゃんと残りの一人はジャンケンとかでいいんじゃない?」

流石は神くん。
とても同い年とは思えない落ち着きを持っているよね。

そんな神くんがまとめてくれたおかげで、流川と私と一緒に入るのはジャンケンに勝った藤真さんに決まった。








「うわ、中は相当暗いんだね……」

「まあ、お化け屋敷だからな。当然っちゃ当然だろ」

「ですよねー……」

先に入ったのは私達の方で、薄暗い道をゆっくりと歩く。
両隣に長身の二人が居てくれるおかげで怖さは半減……とまではいかないが、そこまで怖い思いをしなくて済む。

「そこ、段差あるッス」

「うお!」

一歩前を歩いていた流川の声と同時に、私はその段差に躓いて。
前につんのめったその体を受け止めてくれたのは、注意を促してくれた流川だった。

「うわ、ごめん!突撃しちゃった」

「イヤ、別に…………」

お腹の辺りに右手をどすっと突いてしまったような気がして、すぐに謝ったのだが。
流川はフイ、と顔を逸らしてしまった。
そして、微妙に頭が揺れている。

「……流川、なんで笑うの?」

「…………うお、って。色気ねえなと思って」

「ははは、確かに!そこは普通の女の子だったら『キャ』とかだよな」

「なにぃ……そんなところで笑われていたのか……!」

くそう、なんて呟くと、亜子先輩に色気なんて求めてねーッス、なんて聞こえてくるではないか。
チキショー、飄々としやがって。
流川も藤真さんも酷い。

「とりあえず、あぶなっかしいから」

ん、と、差し出されたのは流川の左手。

「え?なにこれ、繋いでくれるの?」

そう問いかけると、コクンと頷いて。

「じゃあ、こっちも」

「え、いいんですか?」

「もちろん」

藤真さんからは右手が差し出され。
その一瞬、流川が藤真さんを鋭い目つきで見ていた……ような気がしたけれど、すぐに元に戻った。
暗くて顔が良く見えなかったから、気のせいかもしれないんだけどね。

「ちょっと恥ずかしいけど……遠慮なく」

二人の手と自分の手を、同時に繋がせていただくと、途端に伝わる暖かい温度。

ゴツゴツとした大きな手に、心臓の鼓動が早くなっている気がする。
こんなカッコイイ人たちに手なんか繋いでもらったらドキドキするに決まってるじゃん、ねえ?

……あ、なんかこれ、花道と水戸くん思い出すな。
そう思ったら顔がどんどんにやけてきた。
いや、にやけているのは手を差し出された時からなんだけど、更にニヤニヤと。

手を繋ぐのって、仲良しって感じがしていいよね。
ドキドキは相変わらずだけど、こういうの、ほのぼのとしてて好きだ。

二人が手を繋いでくれたおかげで、途中でお化けが出てきてもやっぱりそんなに怖いとは思えず、逆に笑いがこみあげてきてしまった。



ただ、後ろからは凄い悲鳴が連続で聞こえてきたけれど。

ノブと望くんが一緒だったら、大変だったかも。

……神くん、お疲れ様。
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