スラムダンク | ナノ

 41

時間というものはあっという間に過ぎ去ってしまうものである。
というのも、今日は流川と約束したデート当日。

デートなんて、自分で勝手に言っているだけだから実際にはただ二人で出かけるっていうだけなんだけど。
それでも流川と二人だけで出かけるなんて初めてだから、やっぱり緊張の二文字が私から離れてくれないわけで。

本当は部活に行こうかな、とも思ったんだけど……余計に緊張が高まりそうで、やめておいた。

別に流川と私の間に何があるわけでもないし、何でこんなに緊張するんだー!
いや、たとえこれが流川じゃなくても同じように緊張すると思うんだよ。
それってやっぱりあれかな、元々憧れてたっていう気持ちがあるからなのかな。
よくよく考えてみれば、普通に人生を過ごしていたらこんなことなかったわけだし。

嬉しい気持ちを抑えきれないっていうのもある。

……ああー、私ってこんなに乙女だったかなあ。


いつまでもこうやってうじうじモヤモヤしてても仕方が無い。
約束の時間よりはちょっと早いけど、目的地に向かってしまおう。

時間つぶしがてら散歩とかしていれば、気が紛れるはず。
こういうのって大概行くまでは凄い緊張するんだけど、行ってしまえばどうにかなるもんだしね。

よし、そうと決まればさっさと行こう。


先日購入した服を着て、ちょっとだけ化粧をして。
鞄と、お財布、タオル、ティッシュ、家の鍵……そうそう、携帯もね。
忘れ物はないか確認して、家を出た。



流川との待ち合わせは八景島ランドの正門で。
途中から一緒に行っても良かったんだけど、たまには現地集合っていうのもいいかなーと思ってそうしたんだっけ。
その方がデートらしいって思っちゃったけど、口にはしなかった。
鼻で笑われたら恥ずかしすぎるしね。



今日の天気はカラカラに晴れとまではいかないけれど、そこそこ日差しが見え隠れするくらいの晴れ模様。
晴れ時々曇り、っていうとこかな。
待ち合わせの時間までは十分に余裕があったので、八景島ランドのひと駅前で降りてそこからゆっくりと歩いた。

時間を潰しならが歩くこと30分。
次第に見えてきた八景島ランドから、賑わいの様子が伺える。
それもそうだ、日曜日の昼間に静かなテーマパークなんてあるわけがない。


入り口に近づき、チケット売り場を探す。
……いやいや、今日はチケットはいらないんだった。

交流戦の優勝商品で流川が誘ってくれたんだった。
これでチケット買ってしまったら単なる馬鹿だ、馬鹿。

自嘲気味にフッ、と息を溢し、正門に目を向けると。





…………な、なんでいるんだ……!




「おー、亜子!こっちこっち!」


そして、何故私の名前を呼ぶ……!!


シカトするわけにもいかないので、私は名前を呼ばれた人物の元へと小走りに近寄った。

「の、望くん!藤真さん!なんでいるんですか!?」

「久しぶりだなー、元気だったか?」

「あ、はい、元気です!……じゃなくて!藤真さん、部活は?」

「翔陽は午前中で終わり」

「そうなんですか……湘北と同じだったんですね。……いやいや、ですから何でここに……!」

質問をさらりと流してしまう藤真さん。
欲しい答えがなかなか返ってこないって、ちょっとイラッとする……!
そう思いつつ望くんをチラ見すると、彼はニヤリと笑っていた。

「せっかくだから、俺らもこないだの優勝商品で遊びに来たんだよ。二枚あったし、兄貴と一緒に来ようと思ってなー。どうせなら人数多いほうが楽しいだろ?だからお前と流川が遊びに行くって言ってた今日にしたわけ」

人数多い方がって、じゃあ最初から私達と一緒に遊ぼうと思ってたってこと?
メールで相談してた時もそんな事一言も言わなかったし……どんなサプライズよ。

「あれ、もしかして俺らお邪魔だったとか?亜子は流川と二人の方がイイ?」

「えっ、いや、そんな事は決して!」

決して、というのはお邪魔だった、っていう言葉に対してね。
流川と二人が嫌っていうわけでもないし、そこを否定すると誘ってくれた流川に対して失礼だと思ったから。

ていうか今、サラッと耳を流れていった藤真さんの言葉にさ。

「藤真さん、いま、名前……」

「ああ、亜子って?いいじゃん、俺ら友達だし。それに望が亜子って呼ぶから移っちゃったんだよな」

「ああ、なるほど」

交流試合のときは確かに苗字だったから、思わずドキッとしちゃったじゃないか。

「あとな、他にも呼んであるんだぜ」

「他?」

「おう、そろそろ来るはずだと思うが……あ、ちなみにそいつらの前では俺は女で通すから、てめぇヘマすんなよ」

「ええ、マジ「こんっちはー!!」

ちょっと、誰よ私の台詞を遮るのは!!
そう思って勢い良く振り向くと、そこに居たのは海南凸凹コンビ。

凸凹っていうほど凸凹してないけど、気持ち的なノリだ、ノリ!

「亜子ちゃん、藤真さん達も、お久しぶりです」

「かーっかっか!俺に会えなくて寂しかっただろう!」

礼儀正しい神くんに対し、相変わらずのノブ。

「神くんとノブも望く……ちゃんに誘われたの?」

くん、って言いそうになった瞬間、望くんにギロリと睨まれた。
怖いって、その顔。

「ん、そうだよ、こないだの優勝商品でみんなで遊びに行かないか、ってね」

「俺は神さんのお供な!」

お供か。
そうだよね、優勝したチームにいたのは神くんだもんね。
それを言うなら私は流川のお供だし、藤真さんは望くんのお供になるな。

そんな事はどうでもいいか。

それにしても、望くんって何気に交流広いんだな。
いつの間に神くんやノブと連絡取り合ったんだ、全く。

「ちなみに、湘北の赤木とウチの伊藤はチケットを譲ってしまったらしいから、無理っつーことで」

「へえ、そうなんだ……」

二人とも親孝行にでもあてたのかな。
優しいし、キッチリしてるっぽいしなあ。



「亜子……先輩……」


低くて機嫌の悪そうな声に振り向くと、思ったとおりに機嫌の悪そうな流川が立っていた。


「流川!部活お疲れ様!」

「ウス。……じゃなくて、これは一体……」

言いながら私の服の裾をきゅ、と掴む。
子供みたいで可愛いなコイツ!

「今日、流川と亜子が遊ぶって聞いてさー、私達もご一緒させてもらおうと思ったんだよね!」

言葉遣いに一瞬誰だこの人と思ったけれど。
女らしく振舞った望くんの言葉に、流川の口がへの字になった。

「俺らも、折角だから一緒に参加させてもらおうと思って」

「流川に独り占めはさせねーからなー!」

「俺も清田に同感」

ニコニコと笑う神くん、言っていることが意味不明のノブ、同じく藤真さん。
言葉は穏やかだけど、なんかこう……微妙にライバル心が芽生えているのは気のせい……かな?

バスケではライバル同士でも、折角遊びに来たんだし、仲良くしてくれると有難いんだけど。

「………………チッ」

「る、流川?」

「亜子先輩がいいなら、俺は別に」

最初の舌打ちが気になるところだけど。
まあー、流川の気持ちもわからなくはないけどね。
突然こんなにも人数が増えたらビビるよね、ホント。

「じゃあ、もう揃っちゃったことだし、みんなで遊びましょう」

これはこれで楽しそうだし、喧嘩さえしてくれなければ別にいいか。
特にノブが流川に喧嘩吹っ掛けそうだし、そこのところだけ注意しておこう。
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