スラムダンク | ナノ

 40

なつきちゃんと手を繋ぎ、店内を見回して。
まずはなつきちゃんの服を選びに行こうという事になり、子供服の方に向かった。

「なつきちゃんはどんな色が好きなの?」

「えーっとね、なつきはピンクすき!でもおれんじとかもすきなの」

「ふむふむ。ピンクとオレンジね……ああ、こんな感じのどうかな?」

一番最初に目に飛び込んできたのが、ピンクのちょっとしたフリル付きの可愛いTシャツ。
肩に小さいリボンがついててなつきちゃんに似合いそうだ。

肩幅に合わせてみると、サイズはピッタリ。
なつきちゃんも心なしか嬉しそうな顔をしている。

「うん、これかわいいねー!」

「ねー!」

オウム返しをしながら、ニッコニコのなつきちゃん。
よほど気に入ったのだろうか、服を受け取りぎゅっと握り締めた。

とはいえ、まだ一枚しか見てないんだけどいいんだろうか。
私自身いつも自分の服を選ぶときにはほとんどインスピレーションで最初にこれ!って思ったやつを買ってしまうから、そんな感じでいつものノリになってしまった気がする。
それで帰って他に合わせる服がないとか気づいてさ、ちょっとガッカリしたりもするんだよね。

だからいらない服が溜まっちゃったりするんだけど。

でもなつきちゃんが持っている服は何にでも合わせやすそうだし、何より彼女が気に入ったのならそれでいいかな、って思った。

「あのね、ピンクもおれんじもすきだけどね、あおいのもすきなんだよ。」

突然話し出したなつきちゃん。
ピンクとオレンジと青って正反対だけど……ああ、そうか、もしかして。

「青がお兄ちゃんのユニフォームの色だから、かな?」

「そー!あおも、にーにーもすきなの!」

えへへ、と笑うなつきちゃんは本当に可愛らしかった。
本気で妹に欲しい。
越野くんと結婚したら、なつきちゃんは私のことも好きになってくれるかな……って、これじゃあ寿先輩が伯父さんの甥っ子になりたいっていうのと同じで、よこしまな理由になってしまう。
一人で勝手に考えてごめんよ、越野くん。

「でも、今日はおねえちゃんがえらんでくれたから、これにするの!」

「わー、もう、嬉しいこと言ってくれちゃって!そう言ってくれると私も嬉しいよー」

「じゃあつぎはおねえちゃんのふくね!」

「え、なつきちゃんのはもういいの?」

「うん、なつきのはこれだけでいいの」

「そっか、じゃあお姉ちゃんの、一緒に選んでくれる?」

「うん!」

終始ニコニコのなつきちゃんは、再び私の手をぎゅっと握り、今度は高校生向けのコーナーへ。


さて。
デートらしい服か……

あんまり気合入れたのにしても、ねえ。
空回りしそうで恥ずかしい。
無難なのがいいけど、どうしたものか。

「おねえちゃん、これはー?」

そう言ってなつきちゃんが取り出してきたのは、胸元がぱっくり開いたワンピース。

ちょっ、それはねえぜなつきちゃん……!!

「あ、あはは……えっとねー、これも凄く可愛いとは思うんだけどねー、お姉ちゃんにはまだ早いかな?」

「そうなの?」

「うん、ちょっとね」

「そっかー」

彩ちゃんだったら似合うと思うんだ、こういうの。
でも私はスタイルがいいわけじゃないし……ごめん、なつきちゃん。

ハンガーを掻き分けながら色々見ていると、その後ろの方に飾ってあったマネキンの着ている洋服が視界に入った。
さっきと同じくワンピースなんだけど、胸元はちゃんと開いていないやつで。
重ね着風のコーディネートチェックワンピース。
大柄のバイアスチェックとゴールドボタンがなんとも可愛らしい、というか私好み。
色はブラック、パープルで、生地的にも着やすそう。

これ一枚に、ブーツを履いたりすればなんとかそれらしく見えるかな……とと、そうだ、一応望くんの意見を聞いておこうか。

「なつきちゃん、これなんかどうかな?似合う?」

「おおー、おねえちゃんかわいい!」

なつきちゃんに相談しながらも望くん宛に写メを送った。

そして、3分も経たないうちに返事が。

「早っ」

「メール?」

「うん、そう、お姉ちゃんの友達にも聞いてみようと思ってねー。……なになに、『お前にしては上出来だ』だってさ!」

お前にしてはって、酷くない?
望くんの前で私服って着たことなかったよねえ、確か。
望くんに私のセンスの何が分かるっていうんだ!!

でもまあ、これで望くんのお墨付きなわけだし、私もこの服に決定でいいかな。
望くんに『じゃあ、これ買います!』と返事をする。
そしてすぐさま『おう』とだけ返事が来て、携帯を閉じてポケットに仕舞った。


「じゃあ、レジに行こうか」

「うん!」

二人とも買う服が決まったので、レジでお会計をしに行く。
と、その時、なつきちゃんが『あ』と声を発し、足をピタリと止めた。

「?どうしたの、なつきちゃん」

「なつき、お金もってない……」

「ああー……」

越野くんから貰い忘れたのか。
なつきちゃんが持っている服の値段は、2000円。
うーん、高校生の私にはちょっと痛いけど……まあ、いっか。

「なつきちゃん、お姉ちゃんが一緒に買ってあげる」

「え、でも……」

「いいのいいの、お姉ちゃんがなつきちゃんにプレゼントしたいの!」

「ほんとに?」

「うん、ほんと!」

「ありがとう、おねえちゃん!!」

こういうとき、下手に気を使われると逆に困るんだけど、なつきちゃんが素直に喜んでくれる子で良かったと思う。
二人分の洋服を持ってお会計を済まし、ひとつの袋をなつきちゃんに渡すと、再び嬉しそうにぎゅっと抱きしめた。

「それじゃあ、お兄ちゃんに連絡してみるね」

「うん!」

電話をかけてみると、ワンコールですぐ電話に出てくれた越野くん。
早すぎてちょっとビックリした。
すぐ近くのファーストフード店で時間を潰してたみたいで、ここに来てくれることになった。



「お待たせ、もうちょっと時間かかると思ってたけど、割と早かったな」

「あ、お帰りー?」

「おかえりー!」

「お帰り、って。はは。なつき、お姉ちゃんに選んでもらえて良かったなー?」

「うん、買ってもらっちゃった!これ!」

「買って?え?…………あ!!」

なつきちゃんの頭を撫でていた越野くんの手が止まり、みるみるうちに顔が青くなっていく。

「蜂谷さん、ごめん!俺なつきに金持たせてなかった!いくらだった??」

「ああ、いいのいいの!私がなつきちゃんに買ってあげたかったんだ」

慌てて財布を出そうとする越野くんを止めようとするが、彼はそんなわけにはいかない、と引く様子がない。
確かに男の人の立場を考えたら、女の人にお金を出させるっていうのはどうかと思うよね。
でも、越野くんにはマジックの借りもあるし、…………って。

「そうだ、マジック!!」 

「は?」

「マジックだよ、マジック!あの時返し忘れちゃったんだよね!今日越野くんに会えるってわかってたら持ってきたのにー!!」

たかがマジック一本でも、借りたものはちゃんと返すのが私の主義だから。
何故今日マジックを持ち歩かなかったのか、悔やまれる……!

すると。

「……ぶ、ははは!会えるってわかってたらそれはもうエスパーだろ!有り得ないって、それ!」

なんて、目の前で大爆笑をしている越野くん。

「そ、そんなに笑うようなこと言った?」

「笑うっつーか、すげえ天然発言だなって思った。って、いやいや、話が摩り替わった気がするんだけど!なつきの洋服代!ちゃんと返させてくれって!」

あわよくばそのまま話を摩り替えてしまっても良かったんだけど……流石越野くんだ、伊達に彰くんの世話係をやってないな。
キレのある人だ。

「あ、ああ……うーん。そしたらさ、こういうのはどう?」

一回買ってあげた物の代金を返されるっていうのはやっぱり微妙な気分だし、でもそれだと越野くんの気が済まないようなので。
私からひとつの提案をさせてもらった。

「やっぱりマジックはちゃんと返したいし、もし良かったら今度一緒にご飯でも行かない?で、その時に奢ってもらうっていうのはどうでしょうか」

そう言うと、越野くんはぽかんとした表情になった。
流石に図々しかったかなあ。
奢ってくれ、だなんて。
でもそれが一番の妥協案かなって思ったんだよね。
また越野くんに会える口実も出来たことだしさ。
せっかくアドレスと番号も聞けたんだし、どうせなら陵南の面々とももっと親睦を深めたいんだよ。

「……わかった、蜂谷さんがそれでいいなら、そうさせてもらうよ」

半ば諦めたように、ふぅ、と息を吐いて。
そう言った越野くんは、ニコリと微笑んでくれた。

了承してくれたのが凄く嬉しかったので、素直にお礼を言うと、今度は照れたようにそっぽを向きつつ、べつにいーって!つーか、こちらこそだ!なんて言う彼。
そっぽを向いて言うあたりツンデレ要素が入ってるなー、なんて思ったことは口にはしないけど。

「それじゃあ、私はこれで。なつきちゃんも、また一緒にお買い物しようね!」

「うん、おねえちゃんまたねー!」

「本当にありがとな、蜂谷さん。またな!」

仲良く手を繋いで、越野くんとなつきちゃんは自転車の私を見送ってくれた。


自転車のカゴの中には本日の収穫物であるワンピース。

流川とのデートって、どんな風になるんだろう。
そう考えながら自転車を漕いでいる自分は、いつも以上にドキドキしている気がした。
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