スラムダンク | ナノ

 38

テストが終わったその日の放課後から再開された部活では、みんなやる気満々。
自主練してた人もいるんだろうけど、それでもまともに動いていたわけではないだろうから、なまった体を叩きなおす必要がある。

とりあえずの今日は走り込み中心に行われ、最後にちょっとしたゲーム形式でおわった。
部活中、花道がリョータと一緒に赤点がどーのこーのって騒いでいたけど、今回は試合の出場禁止とかかかってないし……別に気にすることもないよね。
薄情?
いいんだ、彼らにはこの件に関しては少し薄情にでもしてやらないと真面目に勉強なんかしないし。
特に花道。

試合のかかったテストだったら必死で面倒も見るよ。
だって、私だって花道に試合出てもらえなくなるのは困るしね。


着替えも片付けも終わって、帰ろうとしたときに流川に呼び止められた。

「亜子先輩」

「ん?どうしたの?流川」

「テスト、終わった」

「うん、終わったねー!お疲れ様!今日の部活もお疲れ様!」

「……ニブイ」

「は?」

「テスト前にした約束のこと、話に来たんだけど」

「約束?ああ!八景島の!って、忘れてたわけじゃないよ、今の流れでそのままその話になるとは思ってなかったからさ!」

慌てて言い訳をすると流川は目を真ん丸くさせて、それからフッと力を抜いたように笑った。
お誘いを受けたときと同じような笑い方に、一瞬ドキッとする。

「慌てすぎ。まー、忘れてても俺が覚えてるからいーけど」

「だから忘れてたわけじゃ……」

「来週の日曜日、部活午前中だけらしいんで」

何で最後まで言葉を言わせてくれないかなあ。
流川らしいっちゃ流川らしいけど。

で、午前中だけらしいんで、ということはその日の午後に行こうってことかな?

「部活終わってからでいいの?しかも日曜だと凄い混んでる気がするよ」

日曜に遊園地に行くとか、若干自殺行為のような気がするんだよね。
だって、八景島ランドって人気のテーマパークだしさ、ぎゅうぎゅうの中歩いて乗り物も少ししか乗れないとか悲しい結果になりそうだよ。

「別に俺は乗り物とか興味ねー…………ああ、亜子先輩は乗りたい、か」

「え?いや、乗り物は好きだけど、別に乗れなくてもそんなには気にしないというか……」

自分が遊ぶことは考えてなかったからさ。
流川からお誘いを受けてからも、何に乗ろうかなーなんて考えてなかったわけで。
……よくよく考えると可愛げのない女なのかしら、私は。

相手の人がリョータとか花道とかだったら、多分ノリノリで『あれ乗ろうぜ!これも乗ろうぜ!』っていう流れになりそうなもんだけど、相手は流川だしなあ。
乗り物乗るよりも木陰でお昼寝っていうほうが似合ってる気がする。

「なら、やっぱその日で」

「うん、わかった。とりあえず詳しいことは前日に決めようか。今決めてもまた気分で変わるかもしれないしねー」

「それでいいデス」

「ん。じゃあ、また明日!」

「ウス」

話の区切りがついたので、家に帰ろうとした時ふと思い出した。

「あっ」

「?」

さっきの『亜子先輩は乗りたい、か』っていう台詞、もしかしてもしかしなくても私のことを気遣ってくれたんだよね。
流川がそんな気遣いをするとか、珍しくない?

私の漏らした声に反応した流川が、なんだよ、っていう顔でこっちを見ている。
その流川に対し、さっきは有難う!っていうと、頭にクエスチョンマークを浮かべていたけど。
くるりと背中を向けて、そのまま手を上げて答えてくれた。
何のことか分かってんのかな?
分かってなくても御礼を言いたかっただけだから別にいいけど……面と向かって答えないなんて、やっぱり流川らしいや。
そんなクールな対応が似合うのも、流川だからこそだよね。

なんでこの世界のみんなは一つひとつがいちいちカッコイイかなあ。
みんな、大好きすぎるよ本当に。

だからね、時々自分はこのままこの世界にいられるんだろうかって……怖くなっちゃうんだよね。
なんとなく、今は大丈夫だって確信してるんだけど。

それでも、そんなの一瞬の出来事で、いつ、どうなるかわからないから。
みんなにしてあげられることも、私が自分で楽しいと思えることも、全部後悔のないようにやっておきたいんだ。
ここにいつまでもいられたらそれに越したことはないんだけどさ。






帰り道に色々考えていたら気分が暗くなってきてしまったので、それを浮上させるために携帯を手にした。
もともと連絡しようかなって思ってた人が居たので、申し訳ないけど利用させていただこう。


プルルルル……


着信音が2、3回響いた後、電話の向こうの相手はもしもしも言わずに『あんだよ、久しぶりだな』と喋りだした。

「相変わらずの言葉遣いだねー、望ちゃん」

『ちゃん、言うな!久しぶりの電話かと思ったら、なんだ?馬鹿にするために電話してきたのか?』

「違う違う、馬鹿になんてしないよー」

『お前な、明らかに馬鹿にした言い方じゃねえか!』

「いやいやいや、そんなことないって」

『ったく……じゃあ、なんの用事だよ?』

電話の相手は翔陽の藤真望くん。
流川とのデートの日にちが決まったから、それに合わせて服を買いにいかねばならない。
先日アヤちゃんには断られてしまったから、アヤちゃんの助言どおり彼に電話をしてみようと思ってたのだ。

「あのさー、相談なんだけどね、今度流川とデートすることになって」

『デートォ!?流川って、あの流川!?』

「そう、あの流川」

『お、オマエ流川のこと好きだったのか……!』

「え!?ち、違う違う!」

激しく誤解されつつも流川がどういう思いで、どういう経緯で私を誘ってくれたのかをきちんと説明すると、望くんは納得してくれたようだった。

『はぁ、なるほどねえ。で、俺に買い物に付き合えと?』

「そう、その通りです!」

『お前はバカか。俺に相談したってしょーがねーだろ、男なんだから!』

まあ、普通はそう返ってくるよね。
そんなのは分かってたことだけど、望くんだったらって思ったから電話したのに。
簡単には引き下がれないぞ。

「でも女装できるじゃん」

『馬鹿たれ!したくてやってるわけじゃねえ!!オマエは俺が健司によってこうなったっつーことを覚えてないのか!』

「覚えてないわけないでしょー、それでも望くんが女の子の服もセンス良さそうだと思ったから言ってんのに!」

『いやいや、明らかにおかしい答えだろ、それ!……まあ、確かに俺のセンスがいいっつーのは認めるが?』

「ほら、やっぱり。じゃあ付き合ってよ」

『んー……付き合ってやってもいいけどさー、いつ行くんだよ?』

「流川と遊ぶのが来週の日曜だからねー、その前にどっかあいてない?」

しぶしぶ了解してくれた望くんだったが、その後話を進めるにつれて、お互いあいている時間が一切あわないことがわかった。

『残念だったな、来週の日曜だったら俺もあいてんだけど。それじゃ当日だもんな……っと、そうだ、買い物に行ったときに写メ送ってくれたらそれで判断してやるよ』

「おっ、それナイスアイデアだよ望くん!有難う、助かるー!」

『はっは、オマエのセンスのなさが楽しみだ!』

「ちょっと!人がせっかくお礼言ってんのに!」

『冗談だ、バーカ。じゃあ、またなー』

「あっ、うん!また!」

馬鹿っていうなって返そうとしたのに、相手のペースで電話を切られてしまった。

望くんは私のこと馬鹿馬鹿言いすぎなんだよね。
望くんだけじゃなくて、寿先輩にも言えたことだけどさ。
寿先輩なんて、私より頭が悪いくせにさ!

結局買い物は一人で行く羽目になっちゃったけど、とりあえず写メでアドバイスくれるみたいだからよかった。
望くんって男の子だって分かってても、最初女の子だと思ってたこともあってか凄く喋りやすいんだよね。
これが兄の藤真さんの方だったらきっと緊張しちゃって喋れやしないや。

洋服は、今週の部活が早めに終わった日にでも買いに行くことにしよう。
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