▼ 2
「うっわ、これ落ちた……?」
あまりにも凄い音と、激しい揺れに、思わず飛び起きた。
いくら静かな気分に浸っていたくても、この状況ではさすがにそんなこと言ってられない。
館内は小さく補助灯を点けていたのだが、今のショックで停電してしまったらしい。
……今日はちょっと災難な日かもしれない。
重い腰を上げ、ボールを転がし、手探りで非常灯の場所まで歩く。
そして、その近くに設置してある懐中電灯を手に取った。
「うあー!!すげぇ雨!!」
「マジやべーぞ、これ!!」
「びしょびしょじゃんかー!!うへぇ!!」
突然、体育館の入口の方から聞こえてきた声。
どうやら男の人らしく、2、3人くらいといったところだろうか。
騒がしいな……雨宿りにでも来たのかな?
やれやれ、と思いつつ、その集団に近づいていくことにした。
「おーい、誰かいませんかー?」
「誰もいないのに鍵が開いているわきゃねーよな、誰かいるだろ?」
「ふんぬー!!誰かー!!」
「そんなに大声で叫ばなくても、聞こえてますってば」
「「「どわぁっ!!」」」
あまりの大声にちょっとイラっときて、持っていた懐中電灯で自分の顔を下から照らし、驚かせてやった。
はっは、見事成功。
「ちょっ、マジびびったじゃねーか!!」
「何モンだ、テメー!」
……それにしても、さっきから聞いていれば……口、悪いな、この人たち。
そう思ったその時、停電が回復したようで、電気がパッと点いた。
といっても元々主電源は点けていなかったから、やっぱり薄暗いけれど。
「おっ、点いた点いた!突然の停電とか、勘弁してくれ全く!」
「っていうか、お前、ここの関係者?」
その薄暗い中でも、彼らの顔はよく見えた。
そして、私は絶句してしまったんだ。
彼らに問いかけられてるのは頭では理解できてる。
でも、驚きすぎて、声が出ない。
金魚みたいに、口をパクパクさせているだけ。
「おーい、聞いてんのか?」
「ダメじゃん?パクパクしてるぜ?」
「それにしては俺達、指差されてんぞ」
その人の言うとおり、失礼なことに私は無意識のうちに彼らを指さしていた。
そしてようやく紡ぎ出せたと思った言葉が、これ。
「あ、あ、あ……赤い坊主……!」
そう言った瞬間、他の二人の視線が赤い坊主に集まる。
「ぶっ……」
「ぶわーははは!赤い坊主って、オメーのことだろ、桜木!!」
「おっ、おおお!?何故だ!!オレのことを知っているのかね!?さすが天才桜木……!」
「ばっか、お前の赤い頭に呆然としてるだけだっつの!あ、悪ぃな、こいつこんなんだけど、怖くねーからよ」
夢?
これは、夢なの?
私、体育館のど真ん中でいつのまにか眠っちゃったんだろうか。
目の前に、憧れていた漫画の登場人物がいるなんて……!
桜木花道、三井寿、宮城リョータ
どこからどう見ても、この三人以外の何者でもない。
「なあ、マジで聞いてねーのか?」
三井寿に肩をポン、と叩かれ、ハッとした。
「あ、いや、その!聞いてます!聞いてますとも!」
あまりの挙動不審っぷりに、三人は一瞬キョトンとして。
「「「ぶっ……!!」」」
そして、同時に吹き出した。
ああー。
これ、絶対夢だ。
憧れが強すぎて、とうとう夢にまで出てきちゃったんだ。
うん、夢か……そうだ、夢だよ……夢なら、楽しまなくちゃ損だよね?
「あの、どうしてここに?」
私の思考回路は単純に作られているらしく、夢だと思ったら口が勝手に開いていた。
「ああ、オレらのガッコーの体育館、改装工事が始まって。そんで、今日から二週間、ここで練習するっていう話になってんだけど……キミ、ここの関係者じゃないの?何も聞かされてない?」
三人に向かって問いかけると、宮城リョータが返事をくれた。
そうか、そんな話の流れになっているのか。
ならば、口裏を合わせておくに越したことはない。
どうせ、夢だしね。
「ああ、聞いてます!湘北高校のバスケ部ですよね?」
「そうです、このオレこそが、湘北高校バスケ部天才桜木「おめーは黙ってろ、話が進まねーからよ」
「ぬっ!ミッチーめ!!」
桜木花道が私の前にずいっと出てきて、それを三井寿が抑えた。
ここは、一応自己紹介しておくべきだろうか?
「あの、私、ここの管理人の蜂谷亜子って言います。何かあったら遠慮なく聞いてください」
「蜂谷亜子……?ってことは、アンタが安西先生の姪っ子さん?」
「へ?」
「オヤジの姪っ子が管理人やってるって聞いてるんですよ!」
三井寿に続いて、桜木花道が付け足してくれた。
……姪っ子……そんな設定になっているのか。
もういいや、本当にそのまま話あわせちゃえ。
「実はそうなんですよー」
「亜子」
「は?」
「面倒だから亜子でいいか?見た感じオレよりは年下だよな?」
これは、名前で呼んでいいか?と聞かれているんだろうか。
しかし、見た目で決めつけるとか……失礼な。
「好きに呼んでくれてかまわないですよ。ちなみに、現在高二の年齢です」
「え、同い年!?中三か、高一かと思った……!」
「なっ……!自分こそちっこいくせに!」
「ちっこ……!?はぁ!?」
超失礼発言をしたのは、宮城リョータ。
なんとなくムカッときたので即座に言い返してやった。
ちなみに私の身長は164pである。
別に小さいわけではない。
年下にみられたのだとしたら、きっとこの顔のせいだろう。
多少の童顔っていう自覚はあるのだ。……多少ね、多少。
「まあまあ、リョーちん。今のはリョーちんが悪い!亜子さんですね、オレは天才「桜木くんだよね!」
「そうです、さすが亜子さん!天才だと見抜くとは……見る目ありますね!!」
自分で口癖のように天才って言ってるくせに、よく言う。
おもしろいぞ、桜木花道!
「くそ、何故花道だけ……!」
飛び掛ってきそうな勢いの宮城リョータを、桜木花道が抑えて。
先ほど三井寿に抑えられたのが悔しかったのだろうか、今は自分がその立場にいるから嬉しそうだ。
「オレ、三井寿。何でも好きに呼んでくれていーぜ」
「オレも、好きに呼んでください!」
「……宮城リョータ。ちっこいはやめろ!」
宮城リョータの最後の台詞が少しツボに入ったけど、とりあえず三人とも自己紹介をしてくれたので、三井さん、桜木くん、リョータと呼ばせてもらうことを伝え、三人の了承を得た。
三井先輩に関しては、別に自分の通っていた学校の先輩ってわけじゃないから、三井さん。
先輩って呼んでみたい気もするけどね、そこは弁えてみました。
「それよか、練習始めたいんだけど……電気とかって点けてもらえねーかな」
「あ、わかりました!じゃあちょっと待っててくださいね!それから、更衣室とか案内しますんで」
言われたとおり必要な設備のブレーカーを入れ、電気を点けて、再び彼らの場所へ戻る。
すると、三人ほど……赤木さんと木暮さんと流川くんが増えていて、その三人にも自己紹介を済ませ、練習に入ってもらうことにした。
しばらくすると、他の人達もぞろぞろと集まってきて。
一応全員と自己紹介をし合い、マネージャーの彩子ちゃんとは早速仲良く話をさせてもらったりした。
夢の中とはいえ、皆さま雨の中ご苦労様です。
prev /
next