スラムダンク | ナノ

 37

今回のテストは、なんだか色々あって勉強に身が入らなかった。
一概に流川と寿先輩のせいってわけじゃないけど、二人とのデートを考えていたら気がそっちに向いちゃって、勉強に集中できなかったということもないわけではない。

一応、無難にはやったつもりなんだけど。


赤点さえ取らなければいいかな、くらいの気持ちで望み、早々に3教科が終わって昼休み。
大抵の学校のテスト期間と違って、湘北はちょっと特殊。
朝の登校時間を遅らせ、午前中に3教科、午後に1教科やって解散になる。
徹夜する生徒のことを考えて、朝の時間を遅らせたそうなんだけど……徹夜するなら結局何時になっても同じだと思うのは私だけじゃあるまい。
他の学校なんか、午前中に1教科だけやって終わりっていうところもあるくらいなのにね。
少しは見習ってほしいもんだ。


いつもどおり、彩ちゃんとリョータと一緒にお弁当を繰り広げる。
転入初日以来、たまに屋上でバスケ部みんなで食べたりすることもあるんだけど、テストの日は教室でちょっとだけでも復習しておきたいし。
テストが終わるまで屋上はおあずけ状態。

教室で食べるときは三人のうち誰かが飲み物を買いに行くことになっている。
それは当番制で、今日は私の番だった。

「二人は今日は何飲むの?」

「俺は頭が良くなる飲み物がいい」

「アタシはお茶ね!」

「彩ちゃん了解、リョータは頭良くなる飲み物って何!」

「少しでも頭が活性化するようなさー、そんな飲み物買ってきてくれよ!」

あ〜〜、なんて頭を抱えているリョータ。
きっとここまでのテストの出来が最悪なんだろう。
そんな状態のリョータにこれ以上考えさせることは不可能だ。

そう考えた私はわかった、と一言呟いてその場を後にした。


それにしても、頭が良くなる飲み物なんて。
あったら私が飲みたいくらいだ。
アミノ酸とか入ってる飲み物は見たことあるけど、あれって頭っていうより健康だよね。
ダイエットに関するお茶とか……そんなのしかわからない。

変に考えて時間を潰すわけにもいかないので、とりあえず自販機に並ぶ。

「あれ、今日は亜子ちゃんが当番なんだ?」

「あ、木暮先輩!」

後ろから名前を呼ばれ、振り向くとそこにはいつも笑顔の木暮先輩がいた。
木暮先輩の笑顔って、ほんと和むんだよね。
いいお兄ちゃんって感じだ、お兄ちゃんになってください、木暮先輩。


「そうなんです、今日は私が当番!そういう先輩こそ、今日は先輩の番なんですね〜」

「ああ、そうなんだ、今日は俺の番」

木暮先輩と赤木先輩は同じクラスなので、私達と同じく昼休みの飲み物は当番制にしている。
なので、私が自販機に居るときは大概交互に二人とお会いするのだ。

「そうだ、先輩は頭の良くなる飲み物って何だと思います?」

「頭の良くなる……?ははぁ、リョータだな?」

「おお、なんかお見通しって感じですね」

「まあね。亜子ちゃんと彩子は普段ちゃんと勉強やるだろうし、そんな事言い出しそうなのはリョータくらいだろ?」

「ご名答です。何がいい?って聞いたら、頭の良くなる飲み物って言われて……思いつかなくて困ってたんですよね。そこへ木暮先輩が登場!私の救世主です!」

「きゅ、救世主は大げさなんじゃないかな……ははは……」

そんな困った顔も素敵な木暮先輩。
優しい先輩は、一緒になって考えてくれるようだ。

「コーヒー、でいいんじゃないか?」

「コーヒーですか?」

「うん、リョータの場合は頭が良くなる飲み物よりも、テストを見ながら眠くならないほうが得策だと思うんだ。だからコーヒー」

「ああ、なるほど。先輩さすがですねー!」

「さすがっていうほどの意見じゃないけど、お役に立てたのなら」

「いえいえ、先輩がいなかったらきっと、自販機の前で悩み込んじゃってましたもん。助かりました、有難うございます!」

「そんなお礼なんていいって。あ、ほら、自販機あいたよ」

いやいやー、やっぱさすがですよ、木暮先輩。
私だったらコーヒーとか思いつかなかったもんね。
普通にスポーツドリンクとか買っていきそうだったし、多分。

ええと、彩ちゃんの分のお茶と、リョータの分のコーヒー。
それに私の分の……今日はミルクティーでいいや、三つを購入して。

「じゃあ、木暮先輩もテスト頑張ってくださいね!ありがとうございました!」

「ああ、亜子ちゃんこそ頑張れよ。あ、そうだ、これあげる」

そう言って、木暮先輩はポケットから何かを取り出し、私に向かって軽く投げた。

「え、わ、」

缶を三つ持っていたので、放り投げられたところでキャッチは難しい……!
わたわたしながらもそれを抱えるようにうまくキャッチすると、木暮先輩から『ナイスキャッチ!』なんて明るい声が聞えた。

あ、飴だ。
それもコーヒー味の。

「ありがとうございます、お昼食べ終わったらいただきまーす!」

お礼を言って、先輩に手を振られてその場を後にした。
ていうか木暮先輩、もしかして自分がコーヒー味の飴を持っていたからコーヒーとか言ってたんじゃ……まさか先輩に限ってそんな単純なことはない……よね。

でも、先輩でも眠くなるんだな、と思うとなんとなく嬉しくなった。
だって先輩真面目だし、授業はしっかりバッチリ聞いてそうだし。
ちゃんと眠気防止対策取ってる木暮先輩って……なんか、可愛いかも。

可愛いお兄ちゃんだな。

あー、ホントに木暮先輩みたいなお兄ちゃんが欲しいー!


そんな事を考えながら教室に戻ると。

「遅いー!いつまでかかってんだよー!」

リョータの遅いという声に、今までの木暮先輩との幸せな時間が一気に崩れ落ちた。

「バカリョータ!あんたのせいで悩んで時間かかっちゃったんでしょーが!」

リョータに向かって反論しながら、コーヒーを放り投げる。

「おわっ!投げんな!!……って、なんだよこれ、コーヒーじゃんか!」

「コラ、リョータ。せっかく亜子が買ってきてくれたんだから、文句ばっかり言うんじゃないの」

「だってアヤちゃん……」

「だって、じゃないよ。それにコーヒーは私の案じゃないもんね」

彩ちゃんのお茶を私のミルクティーを机に置き、椅子に座ると、彩ちゃんがニヤリと笑う。

「ああ、もしかして赤木先輩か木暮先輩に会った?」

「そのとおり。木暮先輩だったんだけどね、リョータには眠気覚ましのコーヒーが一番いいんじゃないかって」

「あー、なるほどね。流石木暮先輩だわね」

「こ、木暮サンかよ……それじゃ文句言えねーじゃんか……」

「私に対しても文句言わないでよ、せっかく買ってきたのに!」

「バカ、亜子だから文句が言えるんだろが」

「なんだその屁理屈!」

「はいはい、そろそろ言い合いはやめて、早くご飯食べないと時間なくなっちゃうわよ」

彩ちゃんに制されて、とりあえず落ち着いてご飯を食べることにした。

その間、テストの答え合わせとかをちょっとやって、その後すぐに答え合わせよりも次のテスト勉強のほうが大切なことに気づいて。
ご飯を食べながらも単語帳をめくったり、教科書を読み直したりした。

こんなちょっとの時間で勉強になるとは思えないけど、それでもほんの少し単語帳をめくるだけでも安心できる気がするから、それはそれでいい。
何もしないともっと不安だしね。

リョータが素直にコーヒーを飲んでいたのを目撃した瞬間は、少々笑いそうになってしまったけれど、なんとか堪えた。
まあ、それ以外に飲むものないから仕方ないんだけどさ。



昼休みが終わり、午後のテストは英語。
それが終われば今日は帰れる。


裏返しの答案用紙をめくり、忘れないうちに解る問題だけを早々と問いていく。
難しくて考えてしまうのは後回しのほうが効率いいって、誰かが口走っていたからそれを見習ってのことだ。

30分くらいで全ての問題は解けたけど、絶対に間違いはあるので見直しをする。
それから、解らなかった問題を再度考えよう。

ふと、リョータと彩ちゃんの様子が気になって顔をあげてみた。
彩ちゃんは真面目にやっていたけど、リョータ……なんか頭フラフラしてない?
コーヒー飲んだにも関わらず、すっごい眠たそう……。

これはこの時間が終わったら木暮先輩にメールで報告だな。
その返事がどうくるか楽しみでニヤニヤしてたら。

「蜂谷、テスト中にニヤニヤするな。怪しいぞお前」

「すっ、すみません……」

もちろん、テスト中にも関わらず、クラスのみんなに笑われたことは言うまでもない。
誰も振り返ったり顔を上げたりしなかったけれど、小さくクスクス笑ってるのは聞こえてるんだよ、みんな!

そもそも先生……そんなことテスト中に注意しなくてもいいじゃないですか。
明らかにカンニングっていう動きしてないでしょ、私。
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