▼ 36
彩ちゃんに電話相談すること5分。
本当は洋服買いに行ったりするのに付き合って欲しかったんだけど、中間テストが終わってからの彼女は忙しいらしく、断られてしまった。
その代わり、と、ひとつの提案をしてくれたのだが。
その時の会話はこんな感じ。
『翔陽の藤真さんに相談したらいいんじゃない?』
「え?藤真さん?なんで?」
『アンタ仲良くなったんじゃないの?藤真さんならいいアドバイスくれるかもよ!』
「確かに仲良くなったけど……でも、男の人にアドバイス貰うとかどうなの……」
『は?……あー、違う違う!藤真さんって、妹のほう!』
「…………ああ!」
そっか。
彩ちゃんは望くんが男だっていうことをまだ知らないんだ。
だから、望くんにアドバイスを貰えと。
彩ちゃんには当たり障りなく『そうだね』なんて答えておいたけど、彼も男だしなあ。
とりあえずテストが終わってから、ちょっと話を聞くだけ聞いてもらってみようかなぁ。
そんなことを考えていたのが、4日前の話。
既に中間テストはあと3日に迫っていた。
先日は流川のお誘いの件で図書室には行けなかったので、今日こそは!と、意気込みながら図書室に向かう。
そろそろ本腰入れて勉強しないとヤバイよなーと思いつつ、図書室のドアを開け、適当に人が少なそうな席を探してみた。
すると、窓際に図書室に不似合いな人物を発見。
「寿先輩、勉強してるんですか?」
その不似合いな人物に近寄り、声を掛けてみるとしかめっ面を返された。
隣に座ると寿先輩は大きなため息を吐いて。
「……まあ、一応な」
「その様子じゃ全然はかどってないみたいですね」
「オリャー勉強の仕方なんざわかんねーんだよ」
「じゃあなんで図書室で勉強やってるんですか、赤木先輩とか木暮先輩に教えてもらったほうが効率よさそうなのに」
「あー……気分っつーもんがあるだろ、気分っつーもんが。今日はなんとなく図書室で勉強してみたい気分だったんだよ」
そんな気分だったにしろ勉強方法がわからなかったら意味ないのに。
そんな寿先輩が妙におかしくて、小さく笑うと頭を小突かれてしまった。
「いったいじゃないですか、何すんですか」
「お前が笑うから悪い」
「寿先輩の鬼!」
「なんとでも言え!そんでもって笑った罰として俺に勉強の仕方を教えろ!」
「ええ!私下級生なのに!」
「うっせー、勉強方法に上級生も下級生もあるか!」
なんとも理不尽な答えである。
確かに、勉強方法だったら年齢なんて関係ないとは思うけど。
どれだけ効率良く頭に入るかが問題なわけだし。
ていうか、中間テスト3日前に勉強方法って。
私、自分の勉強する気満々だったのに。
「亜子」
「何ですか?」
「お前今、俺の隣に来なきゃよかったなーとか思っただろ」
うわ。
なんでバレたんだ、私の頭の中。
「なんでバレたんだ、とか思っただろ」
この男は……!
「寿先輩、そういうことには頭回るんですね」
「おいおい、そういうことにしか頭回んねーよーな言い方すんなよ、俺が馬鹿みてーじゃねーか」
「馬鹿じゃないですか」
「おっ、お前な〜〜〜!」
「ぎゃ!痛い痛い!すみませんごめんなさい!!」
いつもどおりのやりとりが始まってしまった。
売り言葉に買い言葉、私も後に引けない性格だから途中で止めるということが出来ない。
「あのー、他の人に迷惑なんで。静かに出来ないなら退室してもらえませんか?」
「あー、悪い悪い」
「すっ、すみません」
騒いでいたのが目立ってしまったらしく、図書委員の人に注意をされてしまった。
寿先輩のせいだ!
しかも謝る気あんのかという態度の寿先輩。
「寿先輩のせいで注意されちゃったじゃないですか」
「お前のせいだろ」
「いーや、先輩のせい!」
「亜子のせいだ!」
「ごほん!!」
小声で言い合いをしていたつもりだったのに、やっぱり次第に声が大きくなってしまって。
わざとらしい咳払いと共に、再び図書委員の人の注意の視線。
「…………とりあえず、勉強しましょうか」
「……おう」
居た堪れなくなって、私たちは静かに勉強をすることにした。
一応、自分で今までやってきた勉強方法なんかを寿先輩に教えつつ、自分の問題集も解いていく。
根本的には出来る人らしく、寿先輩は途中から自分の勉強に集中し始めた。
大体一時間が経った頃だろうか。
「あー!限界きた!おい亜子!休憩すんぞ、休憩!」
「ええ、まだ一時間しか……!」
「もう一時間も頑張ったんだ、つべこべ言わずに行くぞ!」
休憩するなら一人ですればいいのに。
そんな風に言うことも出来たんだけど。
寿先輩と一緒に休憩するのも悪くない……と言うより寧ろ、先輩が私を誘ってくれたことが嬉しかったので、私も休憩をとることにした。
図書室から少し離れ、食堂に入って自販機でジュースを購入。
放課後になってから食堂へとやってくる人はほとんどいないので、寿先輩とふたりっきり。
テーブルに突っ伏した寿先輩から、あー、だとか、うー、だとか唸り声が聞こえる。
「先輩、何唸ってんですかー」
「べんきょー嫌いだなーって思ってよー」
「私も嫌いですよ、勉強なんて」
「なんか楽しく息抜きしてーなー」
「そうですねー」
賛同の意を述べた後、突然寿先輩がガバッと起き上がったので、思わず体がビクッと動いた。
そして、まじまじと話を見ながら。
「……お前さ、流川とデートすんの?」
「え!どこからそんな情報を!」
「彩子」
彩ちゃんめえ……!
寿先輩が知ってるってことは、他のバスケ部のみんなも知ってるんだろうか。
それにしても情報早すぎる…………でもないか、4日は経ったもんな。
「デート、というか、一緒に出かけるだけですけど」
「ふーん」
「な、何ですか」
ふーん、と言いながら人の顔をジロジロ見ないで欲しい。
そうかと思ったら、不適にニヤリと笑みを溢して。
「よし、俺ともデートすんぞ」
「ええええええええええ!?」
「何だよ、嫌か?」
「いや、嫌というより……本気ですか?」
「あー、変に考えるな、息抜きだよ息抜き」
「息抜き……」
嫌なわけがない。
寿先輩だって普通に好きだし、一緒に出かけるのも楽しいと思う。
けど、やっぱり流川と一緒でデートって思うと緊張しちゃうし!
しかしながら断る理由なんてひとつもないんだよね。
「まあ、いいですけど」
「まあ、って何だよ、まあ、って」
「もー、そんなとこ突っ込まないでくださいよ、いいですよ!喜んでお受けいたしますー!」
「よし、わかりゃーいい!」
なんとも偉そうな俺様な態度だ。
そこが寿先輩の持ち味で、いいところなんだけど。
「いつにします?」
「あー、そうだな、中間終わってから考えるか」
「そうですねー、わかりました!」
後々考えてみると、中間終わってからでは息抜きとは言えないんじゃ……とも思ったけど、結局はテスト勉強しなきゃいけないし。
別に息抜きだろうが息抜きじゃなかろうがなんでもいいか、と思ったのでその辺は黙っておくことにした。
しばらく食堂で休憩をとりながらどこに行こうかなんて話していると、時間なんてあっという間に過ぎてしまって。
いつの間にか勉強時間より休憩時間の方が長くなってしまっていることに気づいたときには、少し後悔した。
prev /
next