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そろそろ9月も終わり、もうすぐ10月。
元の世界の学校では体育祭が10月に行われて、11月には文化祭がある予定だったんだけど。
湘北では体育祭は6月に終わってしまっていたらしい。
残念だけど、文化祭が近いと思うと楽しみだ。
しかし、その前にあるのが中間テスト。
中間テストが終わってしまえばあとは文化祭一直線なんだけどな。
四校交流試合が終わってから、他校のみんなも暇をみつけて体育館を利用してくれるようになった。
せっかく仲良くなれたんだし、みんなも文化祭に呼んだりみんなの学校の文化祭にも行きたい。
今日のHRでは、そんな文化祭の出し物を決めるために話し合いが行われることになった。
中間テストが先でも出し物だけは今の時期に決めておかないといけないんだとか。
事前準備があるのはわかるけど、それで中間テストがおざなりになってしまう可能性も考えられるのに。
お気楽な学校なのか、はたまたこれが普通なのか。
楽しい行事は全て好きだから個人的には嬉しいことだけど。
クラス委員長と副委員長が壇上に上がり、進行していく。
「では、みんなから意見を募集したいと思います。やりたいことのある人、いますか?」
ふと、壇上の横の机で書記が油性ペンをくるくる回しているのが目に入った。
あんなぶっといもの、よくペンまわしできるな、等と思いながらボーっとみていると、何かを忘れているような感覚に襲われて。
油性ペン……
なんだっけ、油性ペンに関するもの…………
「あっ!」
そうだ、ボールにみんなからのサインを貰ったとき、越野くんに借りたままの油性ペン!
まだ返してなかったじゃん!
今更気づくなんて、遅すぎる上に越野くんに申し訳ない……!!
「亜子さん、何か意見ある?」
「ん?」
「いや、今『あっ』って言ったじゃん。いいアイデアが閃いたとかじゃないの?」
「あー、ごめんなさい、忘れてたことを思い出しただけ……デス」
「えー、紛らわしい!バツとして意見一個、出して!」
「ええええ!そんなご無体な!」
クラスのみんなに爆笑され、隣の彩ちゃんには馬鹿ね〜、なんて言われ。
意見といわれてもなあ。
……あ、そうだ。
「意見なら宮城くんがいいアイデアを持ってると思います!」
「は!?なんで俺!?」
みんなと一緒に私のことを笑ったから、とばっちりくらわせてやった。
これで矛先はリョータに向くはず。
「宮城、本当?」
思惑どおり、委員長がリョータに話を振り始めた。
「ちょっと待てって、俺そんな事一言も言ってねえし!亜子にちゃんと意見出させたほうが懸命だと思うな、俺は!」
リョータがそう返すと、委員長は『それもそうか』と私に向き直る。
ちょっと待て、諦め早すぎるぞ委員長!
「じゃ、やっぱり蜂谷さん。とりあえず何でもいいから意見出して」
何でもいいからって……ああー、困った。
うーん……もう、これでいいや。
「じゃあ、仮装喫茶」
「仮装喫茶?」
「別な言い方すれば、コスプレ喫茶」
どこの学校でもありがちな意見なんじゃないだろうか。
まさか女子がそんな意見を出すと思ってなかったのか、委員長は少々面食らったような顔をしている。
「へえ、いいんじゃないかな、仮装喫茶。面白そう」
賛同の声を挙げたのは、副委員長の女の子。
気づけばクラス中の女の子が賛成ムードだ。
「と、とりあえずひとつの意見として。他にも意見あるかもしれないから、聞いてみよう」
仮装喫茶が嫌なのか、慌てた様子で他の意見を聞きだしていた委員長。
結局ロクな意見は出ず、とりあえずとして我がクラスは仮装喫茶をやることに決まった。
それと同時に文化祭実行委員にされそうになり。
半ば無理やりに、だ。
お前の意見が通ったんだからお前が実行委員やってくれよ、なんてさ。
誰が無理やり意見を出させたのさ!
「生憎だけど、私は部活に入ってなくても体育館の管理をやらなきゃいけないから」
そうやんわりと断りを入れれば、クラスの大半は私が体育館を管理しているという事情を知っているので、実行委員にされることは免れた。
その後で自分から名乗り出てくれた子がいたからその子に任せて。
でも『協力はしてよね』と言われれば、それに対して頷くしかなかったんだけど。
協力くらいだったらたいしたことないだろうし、まあいいか。
細かいことは後々決めるとして、今回は何をやるかが重要だったらしく、話し合いはここで終わり。
次の話し合いは中間テストが終わってからになるそうで、それまでテスト勉強を頑張ってくださいという委員長の一言でシメられた。
せっかく楽しい気分になってきたのに中間テストの一言でぶち壊しだよね、ほんと。
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