スラムダンク | ナノ

 31

閉会式が終わり、各チーム帰る準備も終わったようだ。
帰りは各校バラバラ解散のようで、既に帰り始めている人たちもいる。
ギャラリーにいた人達は先に帰っていいとのお許しが出てるみたいで、残っているのはほどんとレギュラーのみ。

みんなこういう機会が滅多にない為、積もる話もあるんだろう。

みんなの楽しそうな話をしている姿を見るのも、かなり楽しい。
人間観察っていうわけじゃないけれど、みんなの色んな表情が見れるのっていいよね。

そう思いながらボケッとしてたら。

「蜂谷ちゃん、何ボーッとしてんの?」

「あっ」

横から仙道くんにボールをひょいっと取られてしまった。

「ずっと抱えて持ってるんだね、それだけ嬉しかったってことか」

「うん。最初はボールは別にいいやって思ってたんだけどね、いざ貰えちゃったら凄く嬉しくて。手放したくないっていうか……仙道くんは、みんなと喋ってこなくていいの?」

「いいの、俺は蜂谷ちゃんと話そうと思ってここに来たんだからさ。ねえ、最初のさ、試合を見学していた時に俺とした話、覚えてる?」

仙道くんに言われて思い出した。
確かに、試合見学しているときに仙道くんと話をしてたな。
何度もボールが飛んできて怖かったけれど。

「健闘賞の話、だよね?」

「うん、そう。優勝できなかったから残念だったけどねー」

「別のものってやつ?」

「正解。それねー、簡単なことなんだけど」

「うん?」

「俺のこと、『仙道くん』じゃなくて名前で呼んでよ」

「彰くんって?」

「そうそう。別にくん付けしなくてもいいけどさ、名前の方が親しげでいいじゃない。俺、蜂谷ちゃんともっと仲良くしたいし」

彰くん、かあ。
仙道くんは仙道くんっていうイメージがあったから、呼び辛い気もするんだけど……寿先輩も三井先輩、っていうイメージがあったから最初は呼び慣れなかったし、似たようなもんかな。

「最初は間違って仙道くんって呼んじゃうかもしれないけど、頑張るよ!」

「はは、自然に呼んでくれるようになるのを楽しみにしてるよ」

「おーい、仙道!そろそろ行くぞー!」

「あっ、越野が呼んでる。じゃあ、もう帰るみたいだからさ、またね」

せんど……彰くんが私の横から行こうとしたとき、いいアイデアがふっと浮かんだ。

「ちょっとまったー!」

「うわっ!」

思わずジャージの裾を引っ張ってしまったので、半分ズッコケるような体勢になってしまった彰くん。

「な、何かな?」

驚きつつも笑顔で返してくれるあたり、やっぱりこの人も爽やかボーイ。

「あのね、お願いがあるんだけど。陵南のみんなのサインが欲しくて。このボールに書いてもらえないかな?」

「サイン?」

「うん、この大会のことずっと忘れたくないし、思い出深いものになると思うんだ。だからお願いしたいんだけど……だめかな?」

「いーや、大丈夫。じゃあ、ちょっと待ってて」

「ありがとう!」

ボールを受け取った彰くんは、そのまま越野くんたちの元へ向かっていき、サインの話をしてくれている。
しまった、書くもの渡すの忘れてた!なんて思っていると、越野くんが自分の鞄から油性ペンを取り出して、それでみんなで書いてくれていた。
越野くん、準備いいな。

その光景をじいーっと眺めていると、そのボールは油性ペンと共に海南のみんなへと手渡されていった。
一度彰くんが私の元へ戻って、『みんなにまわるように伝言しておいたから』と気の利いた台詞を残し、その後凌南のみんなと一緒に帰ってしまった。



海南、湘北、翔陽へと手渡されるボールの行方を確認しながらも、書き終わったみんながわざわざ挨拶に来てくれるのでその対応をしつつ、みんなとの別れを惜しみながら見送ったりして。
最後に私の元へとボールを持ってきてくれたのは望くんだった。

「多分、これで全員分書けたぜ」

「あ、ありがとう!もちろん望く……ちゃんも書いてくれたんだよね?」

「俺?俺は……」

小さな声で、ごにょごにょと『元々プレイヤーじゃねえし』と呟く望くん。

「それでも、友達になってくれたんだし。今日一緒にプレイしたわけだし。望ちゃんのサインがないのは寂しいんだけど」

「あー、はいはい。わかったわかった。書くよ、書きますよ」

「うん、ありがとう!」

笑顔でお礼を言うと望くんはチッと舌打ちをして。
それでも嫌そうじゃなかったのが、やっぱり嬉しかった。
そんな望くんの後ろから藤真さんがこちらに近づいてくるのが見えた。

「蜂谷さん」

「藤真さん!お疲れ様です!」

「だからなんでお前は兄貴が来るとピシィ!となるんだっつーの」

「いや、だから雰囲気がそうさせるんだって」

「はは、俺の雰囲気?そんなオーラ出てる?」

「出てますとも!」

「双子なのに、なんだこの差は」

双子だけど、藤真さんと望くんって全然違うし。
口が悪いのは一緒だけど、やっぱり最初から友達になりたいって思ってた分望くんの方が接しやすい。
藤真さんは緊張しちゃって恐れ多いっていう感じになってしまう。

「俺も望と同じように接してくれて構わないんだけど。俺とも友達になっただろ?」

「そ、そうですよね……!」

「じゃあまずはその敬語からやめてみようか」

「ええ!それは無理ですよ!年上に敬語抜きとか!」

「おいてめー!俺だって年上だっつーの!」

「いや、だからここに二年生として来てる時点で、年上って思ってないんだって」

「こ、この女……!」

「あはは、ごめーん!」

素直に言えば、望くんの方が意識しなくて済むんだけどね。
何度も思うことだけど、やっぱり最初に女っていう意識がついちゃった事であんまり異性として見ることが出来ない。
どうせ望くんだって私のことを気にしてるわけじゃないんだし、これはこれで本当にいい友達になれそうだと思ったわけで。
それに、漫画自体にはいなかった人だから私と一緒でイレギュラーなのかも、とか思ったら親近感がわいた。
本当に失礼な考え方だと思うけど、それでも正直にそう思うから仕方ない。


サインを書き終わった望くんにボールをゴスッと押し付けられ、文句を言っていたら。
その上から藤真さんがオマケ、といいつつ白いリストバンドを置いた。

「え?これは……?」

「俺とお前の友情の証?」

疑問に疑問で返すとか、どうなの。

「も、もしかして今日の二位の賞品ですか?」

「うーん、近いけどハズレ。これは俺が元々使ってたやつ。今日は片腕だけしてたから、こっちは使ってないんだ。だから別に汗臭いとかそんなのはねーよ」

あ、汗臭いとか藤真さんの口からそんな言葉を聞くなんて!
いや、藤真さんだって男だし、口が悪いのはもうわかったことだし、これが当たり前なのか。

「藤真さんが使ってたものとか、私がもらっちゃっていいんですか?」

「言っただろ、友情の証って」

「うへぇ……兄貴、キザだな……」

「うるさい、お前は黙ってろ」

「へいへい」

「あ、でも私、藤真さんにあげられるもの持ってない……!」

そう言うと二人とも目を丸くして『ぶはっ』と吹き出し、爆笑された。
な、なんでここで爆笑!?
友情の証っていったら、お互い何かを交換して〜っていうもんじゃないの?
片方だけが貰って成立するもんなの?

「お前純粋なのか鈍感なのかわかんねーなー」

「まあ、新鮮でいいんじゃないか?とにかく、蜂谷さんに貰って欲しいから渡しただけでさ、つまり俺とお揃いで使おうぜ、ってこと」

「あ、あ、そういうこと!ようやくわかりました!有難うございます!!」

なるほど、藤真さんとおそろいで一緒に使うことで友情の証ってことね!
って納得したから即座にお礼を言ったのに。
その反応の仕方がおかしかったらしく、またもや爆笑された。

「お前、いいキャラしてるよ」

「なんか、素直に喜べないよ望くん……」

「まあまあ、いつまでもそんなキャラでいてくれることを願うよ。今度は翔陽にも遊びに来いよ!」

「翔陽に!はい、是非!」

「んじゃ、そろそろ行くか。またな」

「いたっ!……もう!またね!」

最後に望くんにデコピンされて。
やっぱり痛かったけれど、藤真さんとも望くんとも仲良くなれた嬉しさでカバー!
二人の去っていく姿を見送っていると、奥の方に花形さんが見えたので思い切りぶんぶん手を振ってみた。
すると、軽く微笑みつつ手を振り替えしてくれた。

花形さんにも随分お世話になったし、また今度機会があったらきっちりお礼を言わせていただきたい。




最後に体育館に残ったのは湘北のいつものメンバーと、桑田くん、石井くん、佐々岡くんの三人。
最終的な片付けをしないといけないな、と思って立ち上がろうとすると。

「亜子さん、片付け俺らでやりますから!」

花道が尻尾を振った犬のように走ってきて、立ち上がりかけた私を椅子へと押し戻した。

「や、でもみんな疲れてるし」

「ノンノン!何言ってんすか、亜子さんの大事な足がこれ以上酷いことになったら困ります!だから、今回はそこで座っててください!」

ノンノンって、あんた。
それに、テーピングもきっちりしてあるから、ちょっと動いたくらいではこれ以上酷くならないと思うんだけど……でも、必死で私を動かすまいとしてくれる花道が妙に可愛かったので、ここは引くことにした。

「ありがとう、花道。お言葉に甘えてお願いしちゃおうかな」

「オーケー任せてください!オラ野朗共、掃除始めんぞ!」

くるっと振り返ってみんなに向かって叫ぶ花道。
頼もしいけど、先輩達からはブーイングの目で見られているのが可笑しい。



こうして、最後の片付けも無事に終わり。

話の手にはみんなのサインが集まった思い出のバスケットボールが。
きっと、このボールを見るたびにこの試合のことを思い返すのだろう。

あとどれくらい、みんなとの思い出が作れるのかな。

赤木先輩や木暮先輩、それに寿先輩はもう三年で…………


あ、れ?


凄くおかしいことに気づいたんだけど。
っていうか、今更過ぎるほど今更なことに気づいたんだけど。

今、9月でしょ?

9月っていったら夏のインターハイだって終わってるでしょ?
赤木先輩と木暮先輩って引退、するんだよね。


…………なんでまだいるの?



大きな疑問を残しつつ、これにて四校合同交流試合、閉幕!
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