スラムダンク | ナノ

 30

そりゃ、誰一人として管理人室に来ないわけだよね。
体育館の入り口で翔陽の生徒がこんな風にバリケードを作っていたのならば、さ。

少しの隙間もなく塞がれている入り口。
案の定、望くんが管理人室に来る前に翔陽の生徒に命じて来たものらしい。
命じてきたという言い方がなんとも藤真兄弟らしいな、と思ってしまったことは内緒にして。

一人の生徒が藤真兄弟プラス私の姿に気づくと、みんなでギャラリーへと戻っていってしまった。
ここまで忠実なのも凄いな。

そして体育館へ入って行くと、ちょうど試合が終わったらしくみんなしてこっちに向かって集まってくる。

「亜子!大丈夫だったのか?」

「捻挫すか?」

「病院行かなくていいのか?」

湘北のみんなから質問攻めにされてしまったけれど、軽い捻挫だと返せばみんな安心した表情になってくれた。
みんなで心配してくれるとか、嬉しすぎる。

「じゃ、俺らは自分達のチームの方に戻るから」

「お前はここで座ってろ」

「あ、有難うございました!」

近くの椅子を指差し、望くんと藤真さんは自分のチームへと戻っていってしまった。
それと同時に、集まってくれたみんなにも『もう大丈夫だから』と伝えると、みんなも自分のチームの方へと戻って。
私の周りにいるのは、私のチームのみんなだけになった。

「なあ、藤真さん達となんかあったのか?」

そう問いかけてきたのはリョータ。
そりゃああの雰囲気の中、藤真さんには抱えられ、望くんは翔陽のみんなを動かして管理人室まで来たわけだから、何かあってもおかしくないと思われるのは当然のこと。
ていうか、望くんのことは他のみんなにはバレてしまったんだろうか……。

チラリと花形さんを見ると、軽く首を振ってくれた。
多分、まだバレてない、って事だよね?

それならわざわざ話を大きくする必要もない。

「ううん。藤真さんは自分で責任を感じて、怪我の対処してくれただけ。望ちゃんはみんなが試合をしていられるように、って配慮してくれたみたいだったよ」

「そっか。ならいーんだけど……俺らも心配で見に行きたかったけどさ、翔陽のやつらが通してくんねーから……そういう理由ならいっか」

そう言って、私の頭をクシャリと撫でるリョータ。

「心配してくれてありがと」

「っとにな!」

素直にお礼を言ったのに、デコピンされてしまった。
リョータとのこういうやり取りは楽しくて好きだからいいんだけど、何気にちょっと痛い。

「けど俺らのチーム、蜂谷ちゃんが抜けちゃったら人数足りないよな。この後の試合どうすんだろ」

「仙道、それなら心配ない。さっき田岡先生に相談したら、一人多いチームからウチのチームへと配置してくれるそうだ」

「え、マジっすか花形さん。流石ですね、話が早い」

「……なんか、ほんとすみません」

私が怪我をしたことで色々迷惑をかけている気がしてならない。
そう思って、二人に向けて謝ると。

「まあ、もうちょっと蜂谷ちゃんと一緒にプレイしたかったけどね。仕方ないっしょ」

「さっきも言ったけど、悪いのはお前じゃないさ」

なんと、ダブルで頭を撫でられた。
流石にこれは気恥ずかしくなり、思わず顔が赤くなる。
な、なんていうか……子ども扱いされている気がしてならない。



花形さんの言うとおり他のチームから一人貰って、ウチのチームには新たに佐々岡くんが加わった。
佐々岡くんのいたチームには牧さんがいたとはいえ、同じ一年の石井くんもいたし、そこまで緊張はしてなかっただろうに……このチームに来てからは緊張が酷い様子。
確かに、凄い人たちばかりだもんね。
きっと牧さんのチームでも石井くんが急に緊張し始めたに違いない。

「佐々岡くん、頑張ってね」

「は、はひ!頑張ります!」

緊張を少しでもほぐそうと声を掛けてみたものの、ガッチガチな返答には少し笑えてしまった。




その後は何事もなく残りの試合が行われて。

最後の試合が終わったのは、もう17時を回るところだった。
試合自体は順調に進んで、私の捻挫騒ぎてちょっとだけロスタイムが生じたくらい。
一応予定通りの終了時間となった。

ベンチに座ってからは自分のチームの応援に専念したけれど、最後の赤木先輩率いるFチームには負けてしまった。
正直に言うと、望くんは藤真さんほど上手くはない。
というよりも、そんなに上手くはない。
普段スポーツやってないのかな、そんな感じの動きのようにも見えたけど。

でも、流石は藤真さんの弟。
運動神経はバツグンのようで、上手くないながらに自分の出来ることをやろうと、適度に立ち回っていた。
それに努力をコツコツと積み重ねたのが藤真さん、って感じかな。

その藤真さんのチームにも棄権負けしてるし、残念ながらウチのチームの優勝はない。

伯父さんに八景島ランドのチケットをあげられなかったのはちょっと悲しいけれど、楽しかったし満足したよ、うん。





「この後すぐに閉会式だってさ。肩貸すから行こうぜ」

「あ、うん、ありがとリョータ。身長ほとんど一緒だから歩きやすいよー」

「おあっ、てめーこの親切な場面でそれを言うか!俺だってまだ伸びる!きっと!」

「あはは、きっと、っていうのが願望にしか聞こえない」

「亜子……お前はどうやら一人で歩きたいようだな」

「あー!嘘うそごめんごめん、リョータ様カッコイイ!素敵!優しい!」

「ったく……素直に肩借りときゃいいんだよ、行くぞ」

「はーい」

閉会式のためにプレイヤー全員が体育館に整列し、ギャラリーのみんなは帰り支度を始めている。
リョータに連れられた私は一番後ろについて、佐々岡くんが持ってきてくれた椅子に座らせてもらっての閉会式になった。

「よし、じゃあこれより閉会式を始めます」

伯父さんの閉会式開始の言葉により、つらつらと話が進む。
順番に進めていって、次は順位発表。
ウチのチームの優勝はないなってわかっているけれど、対戦表を最後に見なかったからどこのチームが優勝したのか分からない。
でも、多分Fチームかな?
負けてなかったと思うんだよね、一回も。

田岡先生の口から順位が発表されるらしく、田岡先生が前に出た。

みんなにちょっとした緊張が走る。

「優勝は……赤木、神、流川、藤真妹、伊藤のFチーム!」

「「「「おおおおお!」」」」

片付け中のギャラリーからの凄い声援。
Fチームには陵南以外から全員いるので、ほぼみんなからおめでとう!だとか、やったな!とか、そんな声が聞えてくる。
流川も心なしか嬉しそうな顔……してるよね、あれは。
こんな時にまで無表情とかないよね、嬉しそうな顔ということにしておこう。

「二位は、Cチーム!」

おおお、二位はCチームだったのか。
牧さんのAチームも強かったんだけど、A対Cでは藤真さんのCチームの方が勝ってたしな。
ここの対決は面白かった。
牧さんと木暮先輩、藤真さんと越野くん、この両者のコンビのぶつかり合いが特に。
すごいいい勝負だったけどね、最後の最後で地道に頑張ってた湘北一年の桑田くんが、なんとノーマークで3ポイントを決めてしまって。
それでCチームの勝利を収めたわけだ。

「最後に、MVPだが……」

あ、忘れてた。
そういえばこの試合、MVPなんてものもちゃっかりあったんだよね。

誰かな、きっとこの試合では優勝チームと二位チームからMVPは選ばれないだろう。
だって、親睦会で楽しい会のはずだから優勝と二位がオイシイとこ取りしちゃったらつまんないだろうし。
となると、牧さんかな?
でも魚住さんとかも頑張ってたし、ウチのチームのみんなだって頑張ってたし、どうだろう。
花道と寿先輩と長谷川さんはないな、きっと。

「色々話し合った結果、蜂谷に決まった」

…………蜂谷!?

私!?

「おお、スゲーじゃん亜子!」

「お前頑張ってたもんなー、良かったな!」

前のリョータからは頭をぐしゃぐしゃにされ、横にいた寿先輩からは背中をバシバシ叩かれ。

い、痛い。

「女子でありながら男達の中で対等に戦い、そしてナイスファイトを見せてくれた。安西先生も、高頭先生も、私も文句なしのMVPだ。おめでとう」

椅子に座ったままの私の元へ、田岡先生がわざわざMVP賞品のバスケットボールを持ってきてくれた。

「きょっ、恐縮です!」

思わず声が裏がえり、田岡先生は苦笑い。
周りからは爆笑が聞えて、私は真っ赤になってしまった顔を受け取ったバスケットボールに埋めた。
……恥ずかしいったらありゃしない。

でも、本当に私がMVPを貰っちゃっていいんだろうか。
本来の試合だったら、途中で捻挫してベンチ入りの人にMVPなんか貰えるわけないのに。

でもでもでも。
この手の中にあるバスケットボールは、私が貰っていいんだよね?

開会式でMVPの賞品を聞いた時は別にいらないや、なんて思ってたけれど……こうやって実際自分の手の中に入るとすっごい嬉しい。

この大会、参加させてもらえてほんっと良かった。

込み上げてくる嬉しさを抑えながら、バスケットボールを抱きしめつつ閉会式が終わるのを待つことにした。
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