▼ 27
三試合が終わり、現在12時をちょっと回ったところ。
ちょうどいい時間なので、この後はお昼休憩に移る。
私は家が近いので、お弁当ではなく帰って食べる予定。
本当はね、お弁当にして、みんなと一緒に食べたほうが楽しいっていうのはわかってるよ。
けど、多分こんなヤツもいるんじゃないかと思ったから。
「亜子先輩、べんとー忘れた」
「ああ、やっぱりね。寝坊したもんね、流川くんは」
……こんなヤツ。
そもそも、だ。
弁当忘れて一番に言いに来るのが私の所っていうのはおかしいだろう。
流川くんは私の家がここからすぐだっていうのを知ってたから、狙って言いに来たのかもしれないけど。
「ウチに昼食の準備してあるから、一緒に食べる?」
そう問いかけると、コクンと頷いた。
近くにコンビニもあるけど、やっぱりコンビニ食もまあまあ高いよね。
流川くんだけをウチに招待すると、他の人たちに何か言われそうだと思ったので、湘北のみんなには『今度招待するからね』と前もって念を押してある。
案の定、いつものうるさい四人組マイナス流川くんの三人がブーイングしてたけど、彩ちゃんと赤木先輩が一喝してくれたおかげで収まった。
そうと決まったら、伯父さんと赤木先輩には許可をとってあるし、早めの移動を……
「あの、蜂谷……さん」
「ん?」
「この辺で一番近いコンビニってどこかな」
声をかけてきたのは、陵南の越野くんだった。
普通に好青年だな、越野くんは。
「あー、えっとね……ていうか、もしかしてお弁当持ってきてない、とか?」
「うっ、ま、まぁ、そんなとこ」
言葉に詰まり、あはは、なんて恥ずかしそうに照れ笑いをする越野くん。
流川くんもいることだし、一人も二人も変わんないよね。
「良かったら、今からウチで食べるんだけど、越野くんも一緒にどう?」
「え?ウチって?」
「私の家。ここから5分くらいのところにあってね、お昼ご飯たくさん作ってあるから、一人くらい増えても大丈夫だと思うよ」
「それは申し訳ないんじゃ……」
「……いいんじゃないすか、俺もお世話になるし」
「流川くんが言う言葉じゃないよね」
「ウス」
悪気があるのかないのかわかんないけど。
流川くんがこう言うってことは、越野くんに対しての敵対心はないのだろうか。
仲良くしてくれるには越したことないけど。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな……初対面なのに、本当にいいのか?」
「初対面とか関係ないから!みんなとも仲良くなりたいし、越野くんと仲良くなれるキッカケということで!遠慮しないで」
「蜂谷さんっていいヤツだな……有難う。魚住さんに報告してくるよ!」
「うん、分かった!」
いいヤツ、だって。
嬉しいこと言ってくれるわ。
こっちはみんなと仲良くなりたいっていうよこしまな気持ちもあるんだけどな。
思わぬ展開で越野くんと仲良くなれそうだ。
と、思っていると、後ろからジャージの裾をつん、と引っ張られた。
「何?流川くん」
「腹減った」
「あー、はいはい、腹減ったのはわかったから。今、越野くんが来るまでもうちょっと待ってて」
「……待ってると、余計なのを連れてきそうな気がスル」
そんな事言ったって。
もう一緒に食べようって誘っちゃったし、置いて行くわけにもいくまい。
「余計なのって?」
「センドーとか、他のヤツ」
「まさか。他の人はちゃんとお弁当持ってきてそうだったし……」
「じゃ、あれは?」
ん、と指を差したその先には。
流川くんの言うとおり、仏頂面の越野くんの後ろから、笑顔の仙道くんが付いてきている。
なんつーお約束な展開だよ。
「蜂谷さん、ごめん!仙道にバレた。魚住さんだけに伝えようとしたのに、彦一が大きな声でバラしやがった」
「というわけで、俺も蜂谷ちゃんの手作りご飯にありつきたいな〜、と!」
その時。
ニコニコしている仙道くんの後ろに、不審な影がひとつ、ふたつ。
「おお〜、センドー!探したぞ!」
「俺らと一緒に昼メシ食おうぜ、仙道!」
「えっ!?桜木……それに、三井さん……!?うわ、ちょっと!何すんですか!やめてくださいよ!蜂谷ちゃん、た、助けて!」
越野くんと仙道くんが一緒に戻ってきた直後、花道と寿先輩が仙道くんの体をガシッと掴んで。
そのまま、引きずるようにして自分達の湘北スペースへと連れて行ってしまった。
花道が最後に親指をグッと立てて見せたけど……もしかして助けてくれたんだろうか?
いや、絶対そうだよね。
その光景をぽかーんと見てしまっていたが、このチャンスを逃すと家に帰れなくなりそうだ。
「ええと……じゃ、今のうちに行こうか」
「あ、ああ」
「ウス」
同じくぽかーんとしていた越野くんと普段と変化なしの流川くんに声をかけて、ようやく家へと移動できることになった。
「じゃあ、適当に座って〜」
一人暮らしだから小さい部屋だけど、一応四人くらいで囲めるテーブルがある。
友達が来たときのために、って考えて買っておいたものだ。
そこにキッチンに準備しておいたおかずを並べて。
味噌汁とご飯は温めなおし、お茶の準備もOK。
「すごいな、これ全部蜂谷さんが作ったの?」
「そうだよ、一人暮らしだからね。一応料理はバッチリなんだー」
「イタダキマス」
「あ、こら流川!あんた一人だけ先に……あっ、越野くんも、よかったら食べて!」
「あ、じゃあいただきます!」
思わず流川くんを呼び捨てしちゃったけど、本人大して気にしてないご様子。
いい加減くん付けも面倒になってきたし、これからは呼び捨てにしようかな。
年下だしね、それでいいや。
先に食べ始めた二人に少し遅れて、私も席に着き、ご飯を食べ始める。
いつもこの家だと一人で取る食事だけど、こんな風に賑やかなのは嬉しい。
自分が作った料理を食べてもらえるっていうのがね、いいよね。
「ど、どうかな?」
「うん、どれもうまいよ!ほんとすげーな、俺と同い年だろー?感心するよ」
「ウマイ」
越野くんが嬉しすぎることを言ってくれるのに対し、流川は一言。
もともとそんなに喋るヤツじゃないしね、本当に美味しいと思ってくれてるのは分かるから、まあいっか。
「そっか、おいしいなら良かったよ」
「今からこんなに出来るんじゃ、いい嫁になりそうだよな」
「え」
「うおっ、な、何でもねーよ!」
つい、口が滑った。
そんなような様子で、顔を真っ赤にしてしまった越野くん。
普通に褒め言葉って受け取れるから、そんなに誤魔化すことないのに。
同い年なのに可愛い人だ……。
男の人に可愛いは禁句なのかもしれないけど、心の中ではそう思わせていただきたい。
「……亜子先輩」
「ん?」
流川がお茶碗をテーブルに置いて、真剣な顔でこっちを見ているものだから、ドキッとした。
ま、まさか流川も嫁うんぬんとか言い出すんじゃ……
「おかわり」
…………はい、そうですよね。
一瞬にして体中の力が抜けたわ。
流石ですよ、やっぱりここでも流川節炸裂だな。
隣の越野くんなんか苦笑しちゃってるじゃんよ。
流川の空気読まない発言に、顔の赤みも即座に引いてしまったようだ。
「わかりました、よそってくるよ。越野くんも、遠慮なくどんどん食べてね!」
「おう、さんきゅー」
言葉どおり、二人は遠慮なしに綺麗にご飯を食べつくしてくれた。
流川なんか、遠慮のえの字もないわ。
やっぱり男の子ってすごく食べるんだね。
運動選手だから特に、かな。
二人でこれだけの量ってことは……今度湘北のみんなを呼ぶときにはどれくらい用意しなきゃならないんだろう。
発言撤回したりとか……無理かなー。
目の前の二人に気づかれないように、小さくため息を吐き出した。
prev /
next