スラムダンク | ナノ

 24

30分間の準備運動は、全員の合同練習。
それぞれ真剣にやる、というよりは体慣らしと言ったほうが適切な表現だろう。

望ちゃんのことが気になって彼女の姿を目で追ってたんだけど、こんな短い練習の中では何も分かるはずもなく。
しかもそれが体慣らしなら尚更だ。
私=敵と認識しているだろうし、そんな敵の前では手の内だって見せることもないと思う。

なので、私もなるべく普通を装って練習に参加してみたり。
既に私のプレイスタイルを知っている人達に関しては、もう隠しようもないけれど。
湘北のみんなはともかく、他校で知っているのは仙道くん、神くん、花形さん、高野さんくらいだ。
といっても、仙道くんと花形さんは同じチームだし、このメンバーの中でだって試合形式でやったことがあるわけじゃないから、一部分での実力しか知られてないわけだし。

男子と一緒に普通にプレイできるっていうことを知らない限り、甘く見てくれる。
……と、思いたい。
まさか女子相手に本気でかかって来ないよね。

……来ない、よね?

卑怯な考えかもしれないけど、どうしても優勝賞品を伯父さんにあげたいんだ。
みんな、私に勝ちを譲って!!
……なんて、心の中で叫んだところで、結局は正々堂々と勝負するしかないんだよね。
本気で頑張ろう。





準備運動と簡単なシュート練習を終え、さっそく試合開始の準備に移る。
まず最初はA対B、C対Dなので、私たちの出番はまだない。

とりあえずギャラリーに回ることになった…のだが、ギャラリーは既にあぶれた人達でいっぱいで。
仕方が無いので、コートの隅で見学することに。

Aチームは長野さん、木暮先輩、牧さん、佐々岡くん、潮崎くん、石井くん。
湘北控え選手が三人いるけれど、牧さんの存在は大きいと思う。
木暮先輩だって頑張り屋さんだし、いざとなると強い。

Bチームは高野さん、武藤さん、花道、魚住さん、福田くん、植草くん。
陵南からけっこう入ったんだね、それにしても花道と魚住さんが並ぶとすごい迫力。

Cチームには高砂さん、桑田くん、彩ちゃん、越野くん、彦一、藤真さん。
まさか彩ちゃんもメンバーの一人になるとは思わなかったけど、このチームは六人いるから結局控えに回るみたい。
サポートするのかな、マネージャーとしての援護が期待できそうだ。
藤真さんと一緒のチームとか、ちょっと羨ましいなって思ったり。
越野くんと藤真さんが一緒にプレイするのを見るのが楽しみだ。
けど、申し訳ないが彦一が完全に穴になるだろうな。
当たるときは狙わせていただこう、容赦なく。

Dチームは長谷川さん、寿先輩、ヤス、角田くん、宮益さん、ノブ。
長谷川さんと寿先輩のチームって、どんな風になるのかな……この時点で二人はどういった関係なんだろうか。
それがわからないからちょっと心配。
しかもノブの乱入でとんでもないことになりそうな予感。
ヤス、角田くん、そして宮益さん。
……頼りないけど頑張れ。





審判は田岡先生と高頭先生で行われる。

交流試合の特別ルールで、前半・後半の各10分間。
ハーフタイムに5分。
全部で一試合につき25分かかる。
なんだかんだで色々やっているうちに30分は確実にかかるので、ひとつのコートで7、8試合行われるわけだから、単純計算で……全部の試合が終わるまでに、ほぼ4時間か。
途中でお昼休憩も入るだろうし、結局は夕方までかかっちゃうかな。

そんなことはもちろん苦じゃなくて。
寧ろみんなと一緒に楽しい時間を共有できてるんだから、もっと長くてもいいくらいなんだけど。


試合開始の笛が鳴り、4チームの力と力のぶつかり合いが始まった。
個人的にはFチームの力を見ておきたかったけど、我らがEチームの試合と同時にFチームも隣のコートで試合なんだよね。
しかも、全ての試合において必ずという試合順。
で、最後にEチーム対Fチームの試合が待っている、と。

他のチームとの対戦も楽しみだけど、先程望ちゃんによる挑戦状を受け取った時点で、私の中のメインイベントはFチームとの戦いになったのだ。
だから最後まで体力を温存しながら戦いたい。
けど、各チーム兵揃いだから、そう簡単にいくはずもないよなぁ。
とにかく、ベストを尽くすのみ!

出番が来るまで試合を眺めていると、隣に座っていた仙道くんに話しかけられた。

「蜂谷ちゃんはさ、何か賞品狙ってんの?」

「ん?そうだねぇ、優勝賞品が欲しいんだよねー」

「え、マジ?それって、誰か一緒に行きたいヤツがいるとか?」

「いやいや、違うよー。お世話になってる伯父さん夫婦に息抜きしてもらいたくて。プレゼントできたらいいなぁ、って思ってさ」

思っていたことを素直に口にすると、仙道くんからの返事がなかなか返って来ないので不審に思って隣を見ると。
仙道くんはふるふると振るえ、突然私の肩をガシッと掴んだ。

「わっ、な、何!?」

「蜂谷ちゃんて、ほんっとイイコだよね。素直な子に育ってくれて嬉しいよ……!」

そう言って、またもや頭をくしゃくしゃにされてしまった。

「仙道くんに育てられたわけじゃないし!つーか、私の頭をくしゃくしゃにするのやめてよね!」

「えー、だって頭撫でやすいし」

やっぱり撫でやすいのか!

「嬉しくないわけじゃないけど、撫でるならもっと普通に撫でて欲しい」

「ははっ、わかった。ごめんね」

ムスッとしながら言ったのが効いたのか、仙道くんの手は私の髪を梳くような優しい手つきになった。
嬉しいとは言ったけど、この手つきは流石に恥ずかしいぞ……!

仙道くんの手の暖かさがちょっと気持ちいいな、なんて思っていると。

「危ない、避けろ!!」

木暮先輩の必死の叫び声が耳に届き、反射的に仙道くんとは逆の方向にサッと避けると、その次の瞬間。

ドゴッ!!

と、もの凄い音でボールが壁に弾き返された。
その凄い音に体がビクッと反応し。
思わず目も見開いてしまった。

「なっはっは、すまんすまん!手がスベッた!!」

私たちの近くに転がったボールを取りにきたのは、謝罪の言葉は吐きつつも反省した様子のない花道。

「は、花道!怖いって、本気で!やめてよねー!」

「あ、イヤ、すみません亜子さん、しかし狙ったのはセンドーですから……」

「は?狙った?」

「イエイエイエイエ!狙ってなど!!手がすべったんです、手が!さー!試合再開だ!」

最後に仙道くんに対して睨みを効かせ、試合へと戻っていく花道。
一体、何だったんだ出て…。

「こりゃ、手ごわいな」

「ん?」

「なんでもないよ、独り言」

花道の後姿を追いながら、仙道くんがボソリと呟いたんだけど。
その呟きは私の耳には届かなかった。

しかし……狙ったとか、手が滑ったとか……どうもうさんくさい。
仙道くんに喧嘩売ってるようにしか見えなかったけれど。
ていうか、木暮先輩のおかげで避けられたから良かったようなものの、もう少し遅かったら当たってたかもしれなかった……!
花道の馬鹿力で投げられたボールだもん、怪我どころじゃすまないんじゃ……!

あ、当たらなかった事だし、想像するのはやめておこう。

「あ、そうだ蜂谷ちゃん」

「へ?」

再び仙道くんに話しかけられ、間の抜けた返事をしてしまう。

「あのさ、こないだの健闘賞、俺にもくれない?」

「健闘賞?」

「うん、あの時は俺が勝ったけど、蜂谷ちゃんに健闘賞をあげたじゃん。だから蜂谷ちゃんからも健闘賞をもらいたいなーって」

「うーん、出来る範囲でならいいけど……」

なんだろう、ジュースの代わりに食事奢れ、とか?
それとも、一日俺の奴隷な!とか言われちゃったりするんだろうか。
目の前にいる仙道くんからはそんな台詞、想像できないんだけれども。

「じゃあ、この試合で優勝したら、俺と一緒に八景島行こうよ」

「え!?」

「だって、蜂谷ちゃんは安西先生にチケットあげるんだろ。だから、俺の分の賞品で蜂谷ちゃんにも楽しい思いをしてもらおうと思って」

た、確かに自分自身でもテーマパーク行きたいな、とは思うけど。

「い、いいの?それじゃあ仙道くんが損しちゃうよ?」

「損はしないだろ、一緒に行くんだからさ。それに、俺がそうしたいと思ってるからいいんだよ」

本当にいいのかな。
仙道くん、彼女とか……他に誘いたい人いるんじゃないのかな。
あ、でも彼女なんていたら他の女なんて誘わないか?
仙道くんの好意を無碍には出来ないし、素直に嬉しいと思う。
けど、それは優勝前提の話だよね?っていうことに気づき、問いかけてみた。

「でも、優勝できなかったら健闘賞なくなっちゃうよ?」

「その時は別のものを考えてるからいいよ」

「別のもの?」

「うん、今は言わない」

「えー、何それ。気になるんですけどー」

「あはは、気にしておいて!」

「「避けろー!!」」

またか!


避けろという言葉と同時に、再び体が反応し。
避けた後にはまたもやドゴッという音と共に、花道の投げたであろうバスケットボールが。

と、思ったら今度は更に奥のコートから寿先輩がやってきた。

「いやー、悪い!手が滑った!」

あなたもですか!

それ以前に、花道は私たちが座っている手前のコートだから分かるよ。
だけど、寿先輩が試合しているコートはその奥。
手が滑ったごときでどうやってここまでボールが届くんだ、と。

……ああ、開会式の前に寿先輩が言っていたのはこういうことか。
他校の選手と必要以上に馴れ合うな、ということね。

私が湘北の情報でも漏らしてるとか思ってんのかな。
何にせよ、これ以上仙道くんと話を続けているとまた危険な目に合いそうだ。

仕方が無いので仙道くんの隣から立ち上がり。
立ち上がったときに仙道くんにアイコンタクトで謝りを入れると、仙道くんは困ったように笑って。

ごめんね、湘北の選手はこんなやつらばっかで。
そう思いながらそんな湘北の選手の一人、リョータの隣に座りなおすことにした。


(※試合時間等は原作に合わせていますので、現在の公式ルールとは異なります。)
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