スラムダンク | ナノ

 22

いよいよ、四校合同交流試合当日がやって来た。

「おはようございます、亜子さん!」

「あ、お早う花道!一番乗りだね!」

集合時間が近づいて、そろそろ誰かしら来るかな?と思い、体育館の外に出てみたら。
元気な赤坊主がこっちに向かって走って来ていた。

「今日は一人で来たの?」

「なっはっは、そーなんです!朝早く目が覚めてしまって……!」

「早くって、何時に起きたのさ」

「ええと、今10時だから……いち、いに、さん……5時に起きました!!」

5時って!
早すぎるよ、花道。
私も楽しみだったから気持ちはわかるけどさ。

「なんか花道らしいよね」

「え、そ、そーすか?なはは!!やはり天才!!」

褒めてるには間違いないけど天才とは言ってないぞ。
でも調子に乗ってる花道を見ているのも面白いから、ここは笑っておくべし。

「おーす、花道早ぇな!」

「リョーちん!ミッチーも来たか!」

「うーす。他の奴らはまだなのか?」

「はい、花道が最初で、次にリョータと寿先輩。このメンバーが赤木先輩や木暮先輩よりも早いって珍しいですよねー」

「ばっか、んなことねーよ!」

「ぎゃ!朝から勘弁してくださいよ、寿先輩!!」

頭をぐちゃぐちゃにされ、それを見てリョータと花道が笑う。
お前ら笑ってないで助けろ!

いつも通りの馬鹿なやりとりをしていると、次第に湘北のみんなが集合した。


「よし、これでみんな揃ったかしら?」

彩ちゃんがみんなに声を掛ける。
全員を見渡してみると……あれ、流川くんが来てないじゃん。

「流川はまだなのか?」

「ああ、まだみたいだな……」

「赤木先輩、木暮先輩。私、流川くんに連絡してみますから、先に着替えててください!」

「おう、頼んだぞ」

「じゃあ、よろしくお願いするよ」

「じゃ、アタシも着替えてくるわね、亜子!」

「うん、おっけー!」

みんなを更衣室へと先に行かせて、携帯の電話帳で流川くんの名前を探し、通話ボタンを押した。
2、3回コール音が流れて不機嫌そうな声で電話に出た。

『……はい』

「あ、流川くん?集合時間過ぎちゃったけど、どうしたの?」

『……時間……今、なんじ』

「だから10時過ぎたってば」

『………寝坊した。スグ行く』

「すぐって……あ、切られた」

花道が楽しみで早起きした日にアンタは寝坊かい。
ほんと正反対なんだから……でも、これだからこそ名物コンビなんだけど。
とりあえず赤木先輩に報告しに行こう。

更衣室へ向かおうと振り返ろうとしたら。
遠くに紫と黄色のジャージ集団が見えた。

海南だ!


その集団は次第に近づいてきて、体育館の前へとやってきた。
もちろん私はそのままお出迎え。
赤木先輩には後でもいいよね、報告するの。

それにしても……うわあ、なんて迫力のある……!

「亜子さん、おはよーッス!」

「おはよう、亜子ちゃん」

「おはよー、ノブも神くんも、昨日ぶり!そして牧さんをはじめ、海南のみなさん初めまして!この体育館の管理者、蜂谷亜子です。今日はよろしくお願いします!」

ペコリと頭を下げると、チュース!といういかにも部活集団です!という独特の挨拶が返ってきた。

「君が蜂谷さんか。神や清田から話は聞いているよ。こちらこそ、今日はよろしく頼む」

「はい!」

牧さんが手を差し伸べてくれたので、迷わずにその手をがっしりと掴ませて頂いた。
牧さんの手、すごい大きい!
花道が『じい』って呼ぶのも分かる…なんて言ったら、絶対本人に怒られること間違いなしだな。
赤木先輩の時みたいに『じい』の『じ』の一言も出さないように気をつけよう。

「では、更衣室へ案内……と思ったんですけど、もう一校到着したみたいですね。神くん、更衣室の場所わかるよね?」

「ああ、うん、大丈夫。みんなは俺が連れて行くよ」

「ごめんね、有難う!」

海南のみんなの案内は神くんに任せて、後ろから来たもう一校を出迎えた。
あのツンツン頭がいるってことは、あれは陵南だな。
魚住さんでかい!!
わ、越野くんもいる!!
福田くんもいるじゃん!!

いるのが当たり前なんだけどさ。
さっきの牧さんや海南のみんなといい、陵南のみんなといい、今まで出会ったことのない人たちが一同集結しちゃってるんだよ!
私の気持ちの盛り上がりようが凄い……!!

「蜂谷ちゃん、おはよー」

「亜子さーん、お久しぶりです!」

「仙道くん、彦一!おはよー、久しぶり〜!」

挨拶をして手を振ると二人ともにこやかに振り替えしてくれた。
彦一なんて特に、両手を広げて大はしゃぎだ。
どこぞの子供みたいに見える。

「陵南高校のキャプテン、魚住だ。今日はよろしく頼む」

牧さんと同じように、一歩前に出て礼儀正しく挨拶をしてくれた魚住さん。
ほんっとでっかい!
差し伸べてくれた手もでっかい!
私の両手でも包めないほどの手だ。

魚住さんと握手を交わすと、その後ろから仙道くん。

「こないだは楽しかったね。今日もすごい楽しみにしてたんだぜ」

「うん、私も楽しみにしてたよー!」

先日みたいに抱きついてこないところを見ると、あれはノリでやったことなのかな。
失礼だが、とりあえず普通の人みたいで安心した。

「じゃあ、更衣室に案内しますねー」

残る一校は翔陽だったけれど、まだ来る気配がなかったのでひとまず陵南を更衣室へとご案内。


今日は女子は人数が少ないので管理人室で着替えてもらう予定で、いつもの女子更衣室を男子更衣室に。
もともと男子更衣室はひとつあるけれど、こんなにも大人数だとひとつでは足りないし。
だから二つの更衣室をみんなで使ってもらえるように、と思ってのことだ。
湘北と陵南、海南と翔陽。
こんな組み合わせで。

「湘北と合同になりますが、ここが陵南のみなさんの更衣室になります」

「案内サンキュ、また後でね」

「わっ、やめーい!」

お礼の言葉と共に仙道くんの手が振ってきて、頭をクシャリとやられた。
寿先輩といい、そんなに私の頭はくしゃくしゃにしやすいのか!

そんな仙道くんの横をすり抜けて体育館の入り口に向かおうとすると、魚住さんの後ろにいた越野くんと目が合った。
ぺこりとお辞儀をすると向こうもぺこりとしてくれて。
会話はできなかったけれど、ようやく越野くんにも会えて嬉しいぞ……!
ついでに福田さんもいたけれどこっち見てなかったから、まあいいや。
扱い酷くてごめんよ福田さん。
いつかフクちゃんと呼んでみたい気持ちだけはあるよ!


入り口のほうでざわざわと声が聞こえる。
きっと、翔陽が到着したんだ。

慌てて出迎え体制に入る。

「おはようございます、翔陽のみなさんですね?」

声を掛けるとみんな一斉にこっちを振り向いた。
これまた他の三校と違う迫力があるからビビる…!

「おはようございます。キミが管理人の蜂谷亜子さん?花形や高野から話は聞いてるよ。今日は、よろしく」

一番近くにいた藤真さん。
振り返った瞬間にキラキラオーラが見えた、すごく綺麗で美人な男の人。
こんなに綺麗な人、世の中にはいるもんだなぁって感心できちゃうくらい。
こりゃあみんなから王子様って呼ばれてもおかしくはないわ。
私なんぞが握手させてもらっちゃっていいのかな、おこがましい。

でも結局握手しないことには失礼だよね、と、手を伸ばしたところ。

バチン!

その手を藤真さんの横から出てきたこれまたすごい美少女に、叩かれてしまったのである。

「気安く兄貴の手に触んじゃねーよ」

「「やっぱり……」」

突然のことに呆気に取られながら、花形さんと高野さんの『やっぱり』なんて呟きが頭に響いて。
ああ、この美少女が藤真さんの妹さんか。
まるで藤真さんがそのまま女の人になったみたいに綺麗だなぁ。

そんなことを思いながら、差し出した引っ込みのつかない手はどうしたらいいんだろうか、と悩んでいると。

「兄貴に近づく女は容赦しねーからな」

「望、これは単なる挨拶だから」

「いいの、それでも駄目なもんは駄目なの」

「……ふぅ。悪いね、こういう性格なんだ、ウチの妹」

すさまじいブラコン、ということですかな。
流石に手を伸ばしているのもおかしな話だ。
その手は自分の胸のあたりに持ってきて、いいえ、というポーズをとった。

「あ、だ、大丈夫ですから、気にしないでください!」

「わかったらとっとと更衣室に案内しろよ」

「は、はぁ……」

すんごい口の悪い女の子だわー……。
しかもハスキーボイスだから更に悪く聞こえる。
あんなに美少女なのに、もったいなさ過ぎる。
花形さんと高野さんが言ってたのはこういうことだったのか……。
そりゃあ気をつけろ、とも言いたくもなるよね。
あわよくば仲良く〜なんて思っていたけれど、あれではどうにもこうにも取り付く島もない。

仕方なしにそのまま更衣室に案内すると、藤真さんを先頭にみんなぞろぞろと入っていく。
通り過ぎる時、花形さんと高野さんがゴメンな、と、小さく呟いてってくれた。
お二人のせいじゃないんだけどなぁ。
しかし藤真さんももう慣れっこなんだよな、妹さんには。
ちっとも動じてる様子なかったし。

みんなが入っていくのを眺めていると、目の前を通り過ぎる藤真さんの妹さん。
いや、そのまま男子更衣室に入っちゃまずいでしょ!

「女子更衣室はこっち!」

「うおっ」

思わず腕をぐいっと引っ張ってしまった。
さっきあんなことがあったばかりなのに、睨まれやしないだろうか。

「あ、ああ。そうか。ここは男子更衣室か。悪ぃ」

あ、れ?
意外にも素直だ。

「なっ、じーっと見てんじゃねーよ、さっさと案内しろよ!」

あれぇ。
もしかしてさ。

「藤真さんの妹さ……望さんて、藤真さんに近づかなければ別に怒ったりしないの?」

「あー?人の詮索してんじゃねえよ、それにさん付けとか気持ち悪ぃな。同い年なんだろ?亜子、だったか?」

「え、あ、うん。じゃあ、望ちゃんでいいかな、流石に初対面で呼び捨ては出来ないからさ」

「ちゃ……ちゃん、かよ……仕方ねぇな」

やっぱり、望ちゃんて藤真さんが近くにいなければ意外と普通なのかも。
藤真さんと話が出来ないのは相当悲しいけれど、望ちゃんとは仲良くなれる……かも、しれない気がしてきた。

望ちゃんを女子更衣室……もとい、管理人室に案内すると、ちょうど中には彩ちゃんがいたのでそのまま任せることにした。

ちょっと浮上した気分でフロアへと向かおうとしたところ、ようやく現れた寝坊人、流川くんを目撃。
頭はボサボサ、まだ眠たそうな顔をしている。
ノロノロと更衣室に向かっていたが、ゴリの拳が炸裂することは間違いないだろうな。

自業自得だけれどもご愁傷様です、流川くん。
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