スラムダンク | ナノ

 21

夕方、学生が帰宅している時間ということもあり、マックは結構混んでいるかと思いきや。
意外に空いている席が多かったのでスムーズに入ることが出来た。
とりあえず席に荷物を置いて。

「じゃあ、私荷物見てるから二人とも先に買ってきなよ」

「いやいや、ここは俺に任せて!亜子さん、神さんと先に買って来いよ!」

ドン、と胸を張るノブ。
小さなことでも動作が大きくて、なんていうか可愛いよね。
そんなノブに対し、神くんが少々不審な目つきで視線を送っていた。

「?な、なんすか神さん」

「さっきから気になってたんだけどさ……信長って、亜子ちゃんに対してタメ口だよな」

「あ、それは私がいいって言ったんだ、最初年上に見てもらえなくてねー!」

あははー、なんて笑うと、ノブは微妙に引きつった顔であの時はほんっと悪かったって!なんて必死で謝ってきた。

「あー、まあ、確かに……亜子ちゃんは幼く見え……うん、なんでもない」

神くんが言葉を濁したのは『幼く』まで口にした時、私が睨んだからだ。
私が睨んだところで怖くもなんともないだろうが、ノリ的にさ、ここは睨むべきだと思ったのだよ。

「さ、神さん、どうぞ亜子さんを連れて買いに行ってください!」

もうその話はいいじゃん、とばかりに私と神くんの背中を押すノブ。
確かに、こんな話いつまでも引きずってもつまんないもんね。

「うん、じゃあ荷物はノブに任せて行こうか」

「はーい、ではお先に!」

顔だけ振り返り、敬礼のポーズをとって神くんと二人でカウンターに向かった。


今日は何にしようかな。
いつもはチキンフィレオのセットで定番なんだよな。
でも期間限定のセットも気になるし……。

「神くんは何にするの?」

「俺はビッグマック。いつもこのセットなんだよね」

おお、なんか意外かも。
神くんは身長は大きいけど、たくさん食べるっていうイメージはなくて。
ビッグマックくらいだったら普通の人も普通に食べるだろうけど、神くんは食べないイメージがあった。
私の勝手な偏見だ。
スポーツマンで現役の男子高校生だもんな、そりゃたくさん食べなきゃ体がもたないわな。

「亜子ちゃんは?」

「うーん、私もいつものかなぁ、チキンフィレオのセットにしようかな」

「じゃあ、メガマックと、ビッグマック、チキンフィレオのセットをひとつずつ」

お飲み物は何になさいますかー?という店員さんの声に、ハッとする。
神くん、私の分まで一緒に頼んでくれたんだ。

「飲み物は?」

「えと、コーラで!」

店員さんに聞こえるように大きな声で答え、財布からお金を取り出そうとすると。

「あ、いいよ、今日は俺に任せておいて」

なんと、神くんが奢ってくれると言うのだ。

「ええ、そんな!悪いよ!」

「いいからいいから」

「いや、でも」

「黙って俺に奢られなさい」

ね、と、私の財布を鞄に押し戻す。
何気に神くんの手が触れて、ちょっとドキっとしちゃうのも無理はないと思う。

「う……あ、ありがとう」

「よくできました」

お礼を言うと、神くんはにっこり笑った。
同い年なのに年上に見えちゃうくらい大人な雰囲気……余裕があるっていうのかな?
カッコイイよ、神くん。

「お待たせ致しました」

セットが全部揃って、トレイが二つ。
当然のように神くんは重いほうのトレイを持って、ノブの待っている席へと歩いていく。
私は残った軽いトレイを持ち、神くんの後ろをついていった。

「お待たせ、信長喜べ。今日は亜子ちゃんが一緒だから、まとめて俺の奢り」

「ええー!マジっすか!神さん、太っ腹!!あざーっす!!」

男の子って遠慮がなくていいよね、なんて思っていたら。

「亜子ちゃんも、このくらいの反応しなきゃ。ね?」

そんなことを言われてしまった。
ノリ良くいきたい私としてはこれに応えたくなるわけで。

「神くん、あざーっす!」

ノブの真似をしてそういったら、そうそう、と満足そうに頷かれてしまった。
うん、やっぱ男の子っていいなー。
二人は女でいいと言ってくれたけどさ、こういうの見てると男同士の友情とか、先輩後輩の関係とかうらやましいと思うよ。

「いよいよ明日だよなー、一体どんなチームになんだろなー」

「たまにはこういうのも斬新でいいよね」

二人とも明日の交流試合を楽しみにしているようだ。
同じ気持ちだと思うと自然に嬉しさが込み上げてきて、自動的にテンションが上がる。

「明日、何らかの賞品が出るっていう話、知ってる?」

「え、マジで!?」

「うわっ、信長汚いよお前!!」

賞品の話を耳にした途端、ノブは口に入っていたメガマックをぶほっと吹き出して。
隣の神くんは至極迷惑そうな顔。
かく云う私にも被害が及んでいたので、ノブに紙ナプキンを投げつけた。

「すんません!で、賞品って何?」

「どんなものが出るかはわかんないんだけどねー、何だろね」

「うーん。交流戦だからなぁ……そんなに豪華なものは出なさそうだよね。例えば……そうだな、スポーツショップの割引券とか?」

ああ、そうだよね。
あわよくばテーマパークご招待券とか考えていたけどさ。
交流試合でそんなたいそうな賞品が出るわけないんだよね。
多分、監督達の自腹だろうし。

「割引券かぁ……それじゃあんまやる気でねーよなぁ……せめてリストバンドとかあったらいいなぁ」

「あー、リストバンドかぁ。そしたら、そのチームでお揃いを持つってことになるね!それ素敵かも!」

そう言うと、神くんが軽く吹き出した。

「え?なになに?何かおかしなこと言った?」

「いや、素敵とか、女の子らしいと思って。ごめん、変な意味はないよ」

「ああー、亜子さんでもそんな女の子らしいこと言うのか、って感じっすよねー!」

「んん?それはどういう意味かねノブナガくん」

「なはは、別に意味はねーよ!」

「ほお〜、そういうヤツにはおしおき!」

いまどきこんなことやる人もいないだろうと思いつつ、ストローの袋をストローにはめなおし、ノブめがけてフッと吹き飛ばした。

「ぬお!何をする!!」

「はは!ナイス亜子ちゃん」

「神さんまで!」

「まあ、これはノブの発言がいけなかったということだからね、素直に謝れば良かったのだよノブナガくん」

「何だそのキャラ、誰キャラだよ!」

「誰でもないのだよ」

「ははは、誰でもないのに続けるんだ!」

くだらない話で笑い出すと止まらなくなってしまって。
その後も海南の牧さんがどうしたとか、湘北の花道がどうしたとか、みんなの馬鹿みたいな面白い話で盛り上がって、店を出たのは入ってから2時間も過ぎての事だった。







店を出てからはそれぞれ帰る方向が違う。
私は再び自転車で。
二人は歩きだったけど、送ってくれるなんて言い出して。
でも自転車だし大丈夫!って一歩も引かなかったら、そのうち二人が折れてくれた。
荷物も持ってもらっちゃったし、そのうえ神くんには奢ってもらっちゃったし。
更に送ってもらうなんて申し訳ないにも程があるってもんだ。

「また三人でメシ食おうぜ!」

「うん、もちろん!」

別れ際にノブ言ってくれたその言葉が凄く嬉しかったので、私も笑顔で返した。

近いうちに何らかの形でお礼が出来たらいいなぁ。
いつか海南に行って差し入れとか。
行かないまでも、試合のときに差し入れとかね!



さあ、明日はいよいよ交流試合。

残ってる準備もちゃっちゃか終わらせて、後は綺麗に掃除をするだけだ。
綺麗な体育館でみんなをお迎えしたいし、掃除も頑張ろう。

明日、みんなが楽しい気持ちで試合をすることが出来ますように。

そう願いながら、体育館までの帰り道を急いだ。


あれ。
なーんか忘れてるような気が……。

……しまった、ノブのアドレス聞き忘れた。
ついでに神くんのも聞いておけば良かった。
そう気づいたのは、夜、布団に入ってからの事だった。
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