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交流試合前日。
今日は学校から帰ってくると同時に、明日の為に会場のセッティングを始めた。
といっても参加者の名簿とか、机の準備とか、大してやることもないんだけど。
でも、私にとって重要な作業が残っているんだ。
それはドリンクの買出しである。
運動に欠かせないドリンクは、みんなも持参してくること間違いなしなんだろうけどさ。
湘北は彩ちゃんがいるし、翔陽は藤真さんの妹さんがいるから問題はなさそうだけど、他の二校…海南と陵南はマネージャーがいるのかどうかも知らない。
本格的な試合じゃないからそんなの準備しなくてもいいのかもしれないけど、やっぱり飲み物とか準備されてただけでも気分は違うよね、多分。
少なくとも、自分が逆の立場だったら嬉しいし。
伯父さんに頼まれたわけでもないけど、自主的にみんなのドリンクを準備しようと思って買出しの計画を練っていたのだ。
計画というほど大げさなものではないけど。
体育館の倉庫にジャグボトルが4つくらいはあったはず。
あれが4つもあればとりあえずは大丈夫かなぁ。
えーと、ひとつ8リットルとして、ポカリの粉とかお茶のパックで作ればいいよね。
ちょうど二つずつできるかな。
足りなくなると困るから大量に購入しておこう。
余る分には問題ないっしょ。
と、なると……近所のコンビニにはお茶のパックはあったけど、ポカリの粉は売ってなかったし…ちょっと遠くに買出しに行かないと駄目かしら。
荷物が多くなるから電車は嫌だな。
時間にも余裕あるし、自転車でどっか適当に行ってみようかな。
こっちの世界で過ごすようになってからそれほどの遠出というものをしたことがないし、探索がてらの買い物も楽しそうだ。
新たな発見とかあったりしたら嬉しいしね。
面白そうなお店とか、チェックしておこう。
明日の準備をしているということもあり、今日は一般の人が体育館を使うことは不可能。
これは前もって張り紙をしているので問題ない。
なので戸締りだけきっちり行い、自転車に乗って思うがままに漕ぎ始めた。
今日も天気がよく、頬を掠める風が気持ちいい。
明日もこんな天気の中、楽しく交流試合が出来るといいなぁ。
まだ会ったことのないキャラ……キャラというか、もうここまできたら紙面で見ていたのと完全に違う。
一人の人間だよね、普通に。
キャラなんて言ってたら申し訳ないや。
で、まだ会ったことのない人に会えるのも楽しみなんだけどさ。
なにより一番楽しみなのはバスケを通じて友達ができるかもしれない、と思うのが楽しみで。
花形さんと高野さんは気をつけろ、なんて言ってたけど。
まだどんな人かもわからないし、最初から警戒してたってしょうがないし。
だからどんなに気をつけろと言われても、単純思考の私は藤真さんの妹さんと会えるのが待ち遠しかったりする。
自転車をこぎ進めて30分くらい経っただろうか。
大きめなスポーツショップが目に飛び込んできた。
ここならポカリの粉だってたくさんあるだろう。
本当はスーパーとかショッピングセンターとかがあればそこでも良かったんだけど、生憎ここに着くまでは何もなかった。
ショッピングセンターだったら服とかも見ようかな、って思ってたんだけど。
それはまた次の機会になりそうだ。
ちょっと残念。
近くの駐輪場に自転車を停め、中に入る。
外から見るよりも結構大きめな店内は、明るくて華やかな雰囲気だった。
とりあえず目的の物をゲットしなきゃね。
店内表示を見ながらスポーツドリンクのコーナーに向かう。
ポカリの粉を発見し、3箱くらいカゴに入れた。
それからテーピングやコールドスプレーのコーナーへ。
多少の救急用具はあるものの、テーピングが残り少なくなってたような気がする。
これも余っている分には問題ないし、とりあえず買っておこう。
色々な大きさのテーピングを次々とカゴの中に入れ、コールドスプレーも2、3本入れた。
あと必要なものは何だろう……えーと……。
どこを見ようかとキョロキョロしていたとき、知っている顔と目が合った。
「「あ」」
向こうも私の存在に気づき、お互いに一声発して。
ゆっくりとにこやかな笑顔で近づいてくるのは、海南の神くんだった。
神くんとは一度ウチの体育館で会って以来で、なんか久しぶりな感じ。
「亜子ちゃんじゃない。久しぶりだね」
「うん、久しぶりー!神くんも何か買い物?」
「ああ、バッシュを見に、ね。ちょっと寄ってみただけ」
「部活は休み?」
「うん、明日の為に体を休めておけって。今回の交流試合ってお遊び感覚なのに、ウチの監督は勝つ気でいるらしいんだよね」
「勝つって……チームメンバーはランダムなのに?」
「はは、そうなんだよね〜」
「なんていうか……勝ちに貪欲なんだね」
「まあ、それが監督のいいところでもあるんだけどさ」
「じーんさーん!何かいいのありましたかー!?」
神くんと話が続いていると、先程神くんが歩いてきた方向から今度は元気なおさるが一匹。
「あー!!亜子さん!!何でいんの?!」
「おーっす、ノブ!相変わらず元気だねぇ!私は明日の買い物に来てるんだよー。ていうか、神くん一人じゃなかったんだね」
「そうそう、亜子ちゃんとの話に夢中で信長の存在忘れてた」
「うおっ、神さん酷いッス!!」
「ははは、冗談だよ冗談」
「神さんの冗談は時々本気に聞こえるから分からないんっすよ!」
「あははは、二人とも面白い!」
ようやく二人のやりとりを見ることが出来て、嬉しかったんだけど。
それ以上に楽しさがこみ上げてきて、思わず笑ってしまった。
「わ、笑うなよ!」
「いいじゃん、楽しいんだから。そう言えばさ、二人とも一人ずつ会ったことはあったけど、こうやって二人一緒に会うって初めてだね!」
「ああ、言われてみればそうだね。信長のこと、あの体育館に連れて行こうと思ってたんだけど。なかなか機会がなくてさ」
「そうそう、俺も早く行ってみたい!でも明日行けるもんな、楽しみだぜ!」
「私もすっごく楽しみなんだよねー、みんなと一緒にバスケ出来るの!いっその事男に生まれてくれば良かったのに、って思うくらい、みんなに混じってバスケやりたかったんだー!」
そう言うと二人はなんとなしに顔を見合わせた。
いや、私から見てなんとなしにって思うだけで、二人は何か思惑があってのことなのかもしれないけど。
「亜子さんは女でいいっしょ!」
「俺もそう思う」
「え?なんでそう思うの?」
「「秘密」」
「うお、なにそれ!っていうか息ピッタリでなんかムカツク」
「まあまあ、いいじゃない。それより亜子ちゃんはこの後時間あるの?」
「おお、ナイス神さん!俺もそれ聞こうと思ってました!」
「時間?うーん、明日の準備はほとんど終わってるようなもんだし……大丈夫といえば大丈夫、かな?」
「それなら、俺たちこれから近くのマック行く予定なんだけど。一緒に行かない?」
おおお!
お誘いいただいちゃったよ!
マジでかー、すごい嬉しい!!
……あー、でもなぁ。
嬉しいんだけど……この荷物を考えるとちょっと厳しいかなぁ。
「行きたい気持ちは大きいんだけどね。でも、この荷物で移動するのはちょっと厳しいので……また今度誘って頂けると有難いよ」
「荷物?そんなの持ってやるよ!」
「そうだよ、そんな事で断られちゃうんなら、荷物くらいいくらでも持つけど」
「え、でも悪いじゃん」
「遠慮すんな、現役バスケ部をなめんなよ!」
「何それ、関係ないし!……じゃあ、お願いしちゃおうかな」
おずおずと控えめにそう言ってみると、二人とも笑顔を向けてくれた。
そして、ノブに背中を押されてさっさとレジでお会計を済ませ、三人で一緒に近くのマックへと向かった。
少しくらいは自分で持つって言っても、二人は二人で分けたら全然軽いし、といって全部の荷物を持ってくれた。
確かに重くはないけど結構かさばってる気がする。
けどまあ、二人がそう言ってくれてるんだし……ここは甘えてしまおう。
それにしても、荷物を持ってまで私を一緒に誘ってくれるなんて嬉しすぎる。
なんていい人たちなんだ……!
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