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「おっはよー彩ちゃん!」
「あ、おはよ亜子。何〜?最近機嫌良過ぎるんじゃないの?」
今日は学校で練習の日なので、普段どおりに朝練の手伝いに参加。
着替えて体育館に行くと、流石というか何と言うか。
目敏いよ、彩ちゃん!
「昨日は珍しく来なかったじゃない、まさかデート?」
デートといえばデートのようなもんかな。
但し、友達デートみたいなものだけど。
「ふっふっふ〜」
わざとらしく濁すと、一瞬驚いた彩ちゃんは私の肩をぐいっと引き寄せて。
「え、ちょっとちょっとー!彼氏出来たの!?」
「うわ、馬鹿!彩ちゃん声でかい!!」
「何ィ!?亜子さんに彼氏だと〜う!?」
「は?何だその話、詳しく聞かせろ!」
「……俺にも」
「彼氏!?いつの間に出来たんだよ亜子!」
……ほら、いつものうるさい四人組が集まってきちゃったじゃないか。
関係ない話なのに、ちょっと面白そうだと思ったらすぐに駆けつけてくるんだから。
ハイエナか、っつーの!
「ち、違う違う!彼氏じゃないって!」
慌てて弁解しても、彩ちゃんのニタリ顔は元には戻らない。
「でも、昨日は誰かと出かけてたんでしょ〜お?」
「出かけてたっていうか、偶然会ったっていうか!」
「「「「誰にだ!」」」」
「ひぃえ!!話す!話すから離れて!!」
何でいつもこうなるんだ。
私悪いことしてないのに、責められてる気分じゃないか。
それから、近寄ってきたみんなから私が一歩後ろに下がって。
昨日ノブと出会って仲良くなったいきさつを話した。
「ぬ・あ・に・い〜!!あの野猿め……!!亜子さんとデートだなんて、許せん……!!」
「だからデートじゃないって、花道」
「大丈夫かお前!何かされなかったか!?」
「大丈夫も何も、普通に遊んだだけですって、寿先輩」
「清田のヤツ、亜子に手を出すとは……!」
「だから、出されてないって、リョータ」
「……………」
「ん?その手は何だね、流川くん」
一人ひとりにツッコミを入れてたら疲れてきた。
そう思い、ふぅ、と息をついたところ、視界に手を伸ばす流川くんの姿が。
「携帯、よこせ」
「は?」
二度も言わせんな、と言わんばかりに顎で『早く』と急かされた。
「いやいやそんな言い方はないでしょう」
「……よこしてください」
大して変わらんがな。
まあ、でもこれが流川くんの精一杯なのかしら。
流川節炸裂だな。
とりあえずポケットから携帯を取り出して差し出した。
昨日買ったばかりだし、何もダウンロードとかしてないから見られて困るものはない。
そう思って安心しきっていたのが間違いだったことに、気づかなかった……この時は。
「あれ、亜子携帯買ったのか?」
「お、マジで?じゃあ俺にもアドレスと番号教えろよ」
「え?」
流川くんの肩に手を乗せながら、リョータと寿先輩がそう言った。
流川くんは迷惑そうに顔を歪めたが、然程気にしてはいなさそうだ。
私の携帯をぽちぽちと弄っている様子。
「あ!俺も!俺も知りたいッス、教えてください亜子さん!!」
「あれ?ほんとに?」
「アーンタ、やっと買ったのね〜、当然アタシにも教えてくれるわよね?」
「あれれれ?みんな、私のアドレスとかに興味あるの?」
そう聞くと、一堂ぽかーんと私の顔に注目。
え?なんだこの雰囲気……何かマズイこと言ったのか?
「興味あるもなにも、アンタ携帯持ってなかったじゃないの」
「え?そんな事言ったっけ?」
「ああ、俺もその時一緒にいたけどさ、亜子はアヤちゃんに携帯持ってるかって聞かれて、持ってないって答えてたぜ?」
「うそーん!?」
「うそーん、じゃない。ほんと」
「イタッ」
彩ちゃんからデコピンをくらった。
っていうか、本気で覚えがない。
つい先日携帯持ってないことに自分で気づいたくらいなのに……ということは、私、人の話をちゃんと聞かない子ってことー!?
……そうか、私がみんなに『アドレス教えて』とか言われなかったのは、自分で携帯持ってない発言をしたからなのか。
落ち込んで損した。
「わー、なんかごめん」
「お前……謝る気ゼロだな」
「だって寿先輩……その質疑応答をした覚えがないんですもん」
「あー……お前馬鹿だもんなー」
「馬鹿!?失礼な!寿先輩の方が馬鹿じゃないですか!」
赤点組に馬鹿って言われる筋合いないわい!
「なにおう!?俺はやれば出来る男なんだよ!」
「ミッチー、亜子さんに失礼だぞ!謝れ!」
「そーだそーだー……ん?」
寿先輩との言い争いに花道が乱入してきたその時、流川くんが目の前に携帯を差し出した。
「終わった」
「終わったって?」
「見ればワカル」
んー?
見ればわかるって、一体何を……。
携帯をぽちぽち弄ってみると。
「ええええええええ!ちょっと!ノブのアドレス消えてんじゃんんんん!!何してくれてんの流川ァァァァァ!!」
「おっ、ナイスだ流川!」
「キツネめ……なかなかやるな」
「よくやった、流川」
「あ〜……亜子、可哀想に……」
ただ一人、彩ちゃんだけは哀れんでくれた。
が、他の男三人はよくやった、と盛り上げるだけ。
「どうしてくれんだこれ……!……あれ?」
ない、ない!
どこにもノブのアドレスが残ってない!
そう思って慌てて色んなボタンを押してたら。
001 流川楓
この表示が目に入り、私は目を見開いた。
……もしかして、自分が一番に登録されたかった、とか?
いや、自惚れんな自分!
いやいやでも、それ以外に理由が考えられない。
いやいやいやいや、単なる嫌がらせかもしれないし!
…………わからない!
「あ〜、もう。消えちゃったものは仕方ない、また今度ノブに会ったときに教えてもらわなきゃじゃん……」
「まぁ、いいだろ清田のアドレスなんてどうでも。ところで、俺のも登録してやんよ、貸せ」
「あ!」
オニューの携帯は、今度は寿先輩によって取り上げられた。
手がゴツゴツしてて、男の人だなぁ、カッコいいなぁ、なんて感心している場合でもないんだけど、ついつい私の目が寿先輩の手を追ってしまった。
スポーツしている人の手っていいよね。うん。
先輩が登録してくれるのに便乗し、リョータや花道、最後には彩ちゃんが。
ようやくみんなのアドレスをゲットできたのにはすっごく嬉しいんだけど……。
結局、彩ちゃん以外のみんなは自分が一番の番号が欲しかったみたいで、先に登録していたみんなのを消してから、自分のを登録していたみたい。
最後には花道と彩ちゃんのアドレスしか残らず、私の手元に返ってきたのだった。
……後で落ち着いた頃、また流川くんと寿先輩とリョータのアドレスを教えて貰うことにしよう。
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