スラムダンク | ナノ

 17

賞品が出ることには出るけれど、何にしようか考えているのは陵南の田岡先生と、海南の高頭先生らしい。
だからどんなものになるかは不明だそうだ。
というのは、花道からの情報ではない。
我らが湘北の監督兼、私の伯父さんこと安西先生からの情報。

花道に聞くより伯父さんに聞いたほうが確かだという事に気づいたのは、学校から帰ってきてからで。
結局のところ、花道のクラスに出向いたのは無駄骨だったんだけど。
そんな中でも桜木軍団と仲良くなれるっていう収穫があったので、良しとしよう。

しかも交流試合の会場は、この体育館を使用するんだそうだ。
みんなとも会う事が出来て、みんなにこの場所を知ってもらう事も出来て。
一石二鳥どころか、嬉しい事尽くしだな。
これで藤真さんの妹さんとも仲良くなれたら、より楽しいだろうな。
女の子で一緒にバスケできる子いなかったし。
そんで、携帯の番号とか交換しちゃったりして、暇なときにでも誘ったりして……待てよ。

……携帯……?

……携帯……今のいままですっかり忘れていたけど、私、こっちの世界で携帯電話……持ってなかった。
誰にも番号教えてとか、アドレス交換しよ、とか言われてないからかな?
あれ、私って存外寂しいヤツ……!?
いざ友達になったときに連絡が取れないなんて、そんなの寂しすぎる……!
明日は休館日だし、バスケ部に顔を出さずに携帯買いに行こうかな。

ベッドに潜り込んで、会社はどこにしようかな、とか機種はどんなのがあるかな、等と考えていたら。
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。





朝起きて、家の掃除や洗濯を済ませ、出かける準備をする。
一人暮らしだから部屋もそんなに大きくないし、洗濯物だって一人分なわけで。
大して時間がかかるものでもない。
久しぶりにお出かけをするので、その分準備に時間をかけてみた。
一応私にだって女らしいところもあるんだからね、と誰に言うわけでもなく心の中で呟く。

……こんなとき、携帯持ってたら誰か誘うことができたのになぁ。

残念がっても仕方ない、そのためにも今日そのアイテムを手に入れるんだから!
ちょっとばかし気合を入れつつ、軽い昼食を済ませてから外に出た。



日差しがある割には暑いって程でもなく、丁度いい気温。
こういう日は外で散歩をするに限る。
体を動かすのが好きということもあるから、家でじっとしてられるタイプじゃない。
だから、休館日はいつもバスケ部の練習に顔を出したりしてるんだけどね、たまにはお出かけもいいよね。

携帯を取り扱っているところといえば、真っ先に思い浮かんだのが電気屋。
確か3駅先の駅前に大きな電気屋があったことを思い出し、軽い足取りでそこに向かった。


到着してから、携帯だけ見るのも折角来たのにもったいないなと思いつつ、店内を色々とうろついてみたりもした。
パソコン欲しいな、とか、このホームシアターいいなぁとか。
たくさんの商品に目移りしたけれど、今回は見て満足。
そして目的の携帯コーナーへ突入!

予想以上にたくさんの機種が並んでいて、優柔不断な私は選ぶのに相当時間がかかってしまいそうだ。
下手したら一日ここに居ることになるかも。
いや、それは避けたいところ。

どれにしようかな〜なんて、次々と手にとって見てみる。
折角だから最新機種もいいなぁ。
でもテレビがついてたところで、携帯でテレビなんて見ないよなぁ……。

「おい」

かといって通話だけの電話は味気ないし、何よりメールが使えないのは痛い。
豪華すぎても使いこなせる自信はないなぁ。

「ちょっと」

ああ、このデザイン可愛い!
……けど、可愛いよりはカッコイイデザインのほうがいいなぁ。

「なあ!おいって!」

「ひゃああああああ!?」

「ばっ、馬鹿!!声でけー!!」

突然肩に置かれた手にビックリし、思わず叫んでしまった。
言われた通りに私の声は大きく、近くにいたお客さんも店員さんも、訝しげな目でこっちを見ている。
私は、その原因となった人物をキッと睨んだ。

「何ですか、っていうか誰ですか!」

「うおっ、こえーな!そんな熱り立つなよ!あんた、蜂谷亜子っていう人じゃねぇ?」

水戸くんの時といい、最近名前を言い当てられることが多いな。
……しかも、年下に。
海南のバスケ部一年が、何故こんなところにいる。

「そういうアナタは清田信長くんっていう人ですよね」

「ぬおっ!?な、なんでオレの名前を!?」

水戸くんの時と同じような反応で返してやると、清田くんは『ずざぁ!!』という効果音が聞こえてきそうなくらい、後ろに仰け反った。

「一応、県内で有名な男バスのプレイヤーの顔と名前は知ってるんだよね。そういうキミは、神くんから聞いたのかな?」

「ああ、オレは神さんから聞いて、そんでもって陵南の相田に偶然会った時にアンタの写真を見せてもらってな」

写真!?
彦一……!いつのまにそんなもの撮ったんだ……!
もうお前は彦一『くん』なんて呼んでやらん!彦一で十分だ!

「っていうか、オレって有名?」

へへ、と嬉しそうに頭を掻く清田くん。

「うん、有名。期待のスーパールーキーでしょ」

「おう、まあな!照れるじゃねーか!かっかっか!!」

おお、この独特の笑い方が生で聞けるとは…!

「あ」

「ん?」

「あ、いや、そういや蜂谷……さんって先輩だったな、って今更……思って……」

「なにぃ……?私が童顔って言いたいのか」

「え?!いや、その……まあ、ハイ」

最初は勢い良くタメ口だったのに対し、最後は敬語。
やべぇ!と顔に出ているのが良くわかる。
素直だなぁ。

「あはは!別に怒ってないよ。言われ慣れてるし……それに、タメ口で全然おっけー!」

そう言うと、清田くんはパァッと顔を輝かせた。
一喜一憂して、なんか可愛い。
やっぱり猿っぽい。

「マジで!?じゃあ、遠慮なく!オレのことは普通に呼んでくれて構わないぜ!寧ろ、ノブでよろしく!」

「いいの?」

「おう、もちろんだ!」

「じゃあ、こっちも遠慮なく!よろしくね、ノブ!」

笑顔を向けながら握手を求めると、ノブも照れくさそうに手を重ねた。
よっしゃあ、神くんに引き続き海南での友達ゲットォ!

「あのさ、折角だからアドレス交換しねぇ?」

「……!」

初めて言われたー!
この世界に来て、初めて言われたよそれ!!
ここが携帯コーナーだからっていうのもあるのかな、どんな理由にせよ嬉しいよ!

だがしかーし!

「私、まだ携帯持ってなくてさー、今買おうと思ってたところだったんだよね」 

「あ、だからここに居たのか。じゃあさ、オレ、一緒に選んでいい?」

「え、ほんと?それかなり有難いよー、優柔不断だからさ!」

「おっしゃ、任せとけ!」

ニカッと笑いながら結局ノブが選んでくれたものは、ノブの携帯と同じ機種の、色違い。
携帯って慣れるまでに時間がかかるし、同じ機種ならわかんないことがあったら教えてやれるっていうのが理由だって。
私は純粋にノブと同じ携帯っていうのが嬉しいけどね。
ちなみに、ノブの色はブラック。
私の色はダークブルー。
女なら普通明るい色なんじゃねーの?って聞かれたけれど、仕方ないじゃん。私の好みは普通の女の子と違うんだから。


そんなこんなで無事に携帯を購入し、選んでくれたお礼にと近くのカフェでノブに奢ってあげることにした。

「いやー、初対面なのになんか悪いな!」

「いえいえ、もう少し話してみたかったしねー!」

「オレもさ、神さんから話を聞いたときに興味持ってさ!でも、相田に見せてもらった写真と雰囲気違かったから、声をかけるまでに悩んだけどな!」

「え、雰囲気違うってどんな?」

「あー……えと、」

あれ?
言いづらいのかな?
ノブは口をもごもごさせていた。

「何、言えないの〜?失礼なことでも思ったんじゃないでしょうね?」

ニヤリと笑いながらそう言うと。

「違うって!今日の格好だと普通に可愛らしい女にしか見えねー……って、だあああ何言わせんだよ!!この話はやめんぞ!!違う話題だ、違う話題!!」

おやぁ……真っ赤になっちゃって。
純情少年だな、こいつは。
普通にサラリと言ってしまえば深く追求しようと思う内容でもないのに、そんなに真っ赤になられると……こっちが恥ずかしいよ。
けど、同時にからかいたくなるっていうのも、イタズラ好きの血が騒ぐんだよねぇ。

「私が可愛らしい女に見えるんなら、この状況ってデートっぽいよね!」

悪びれた様子もなく言い放ってやる。
すると、当然の如くノブの顔は更に真っ赤になって。
耳まで真っ赤な可愛いおサルの出来上がり。

「おっ、おまっ、なんつー事を……!!」

「あはははは!ノブは純粋だねー!可愛いよ!おねーさんキュンときた、キュンと!」

花道と一緒で、ノブをからかうのって楽しい…!!

そんなやりとりを何度か交わし、そのほかにも神くんの話や、牧さんの話を聞いたりして。
今日一日はノブのおかげで有意義なものとなったことに感謝したい。

そして、手に入れた携帯のアドレス帳の001には『清田信長』の名前が登録された。
学校に行ったら、他のみんなのアドレスや番号も教えてもらおっと!
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