スラムダンク | ナノ

 14

「「「「「お疲れーっしたー!!」」」」」

コートに響く男子バスケ部の声。
今日の練習が終了した。

「やー、アンタがいてくれると助かるよ、やっぱ!またいつでも大歓迎!」

「あはは、彩ちゃんにそう言われると照れるなぁ。休館日は手伝いに来るからね、待っててね!」

晴子ちゃんは友達に誘われて先に帰ってしまったので、今は彩ちゃんと二人で片付け中。
部員のみんなは汗を拭きに一旦部室へ。
先に着替えて、それから片づけを手伝ってくれるのがいつものパターン。

「うおおおっ、こっ、これは……!」

「なんじゃこりゃ!?すげぇ……ぞ!」

「グハァ、み、水色……!」

部室のほうから、何やら騒がしげな声が聞こえる。

「なんだろ?」

「うーん?」

いつもと違う雰囲気の声に、彩ちゃんに問いかけてみたけれど。
彼女にもわかるわけがなく。
私たちは顔を見合わせた後、部室へと向かった。

ドアが開いていたので、ひょいっと顔だけ覗かせ、声をかける。

「騒がしいけど何かあったの?」

「ぅうわっ!!亜子!!」

「わ!?」

私の声に驚いた寿先輩が、慌てて何かを後ろに隠した。
そんなにびっくりしなくてもいいのに!
逆にこっちがびっくりしちゃったし。

「先輩、何隠したんですか〜あ?」

彩ちゃんが、怪しげな目で寿先輩に近寄る。

「い、いやっ、こ、これは……!」

よくよく見てみると。
寿先輩だけじゃなく、リョータや花道、流川くんまで、後ろ手に何かを隠している。
しかも、微妙にほんのり顔が赤い。

……怪し過ぎるぞ、キミタチ。

ぬぅ…誰が捕まえやすいかな……おし、あいつに決めた。

「花道」

「は、ハイッ!」

ジロリと睨むと、花道は硬直した。

「それ。後ろに持ってるもの。寄越しなさい」 

「え、イヤイヤ、いくら亜子さんの頼みでも、こればかりは……!」

なははは、と笑いながら後退していく。
その時、後ろにいた木暮先輩にドンッとぶつかった。

「おっと、桜木、何か落ち……!?」

「わああああメガネ君!!だめだ、これは!!だめだだめだ!!」

「スキあり!!」

花道の横を華麗に通り抜け、木暮先輩の手に持っていたものをシュパッと横取りして。
それは、一枚の写真だった。

「んんー?何この写真……って、ちょ!!何これー!!」

「なになに、どしたの?……うわあ、アンタ……やられたね」

ぺらりとめくって表を見ると、そこには先ほど水道でびしょぬれになった姿の私が写っていた。
当然、Tシャツが透けた状態のね。
さっき聞こえた『水色』の叫び声はこれだったのか……!!

と、いうことは。

「寿先輩、リョータ、流川くん。それ、私に寄越しなさい」

「だああ、わかったよ!」

「仕方ねぇな……」

「……チッ」

三人が持っていたものは、全て私の写真だった。
授業中の風景から、登下校の姿、そして運動スタイルの時まで。

「アンタたち、なんでこんなものを……」

彩ちゃんが呆れながら問いかけると、流川くん以外の全員が必死で首を振った。

「お、オレ達は何も……!!部室に戻ってきたら、この写真がばら撒かれてあったんだって!ほんとだって!な!?」

「おう、三井サンの言うとおりだぜ!ここに、こうやってバーッと……ん?なんだ、この手紙」

リョータが写真がばら撒かれていたという場所を指さすと、そこに一枚の紙が落ちていた。

「《ネガが欲しくば、明日の放課後柔道場に来られたし!》って書いてあるけど、まさか……」

「あんのジュードー男か!!」

リョータが読み上げた内容に、花道が過剰反応する。
ジュードー男って……確か、花道を柔道部に入れるために晴子ちゃんの写真で釣ろうとしたっていう……あの男か。
名前、忘れちゃったけど。

「ネガ……取り返さないと、困るなあ……」

普通の写真だけだったらまだしも、下着が透けてる写真は勘弁してほしい。

「明日、って書いてあんだよな?」

「そーッスね」

「行くっきゃねーな」

「……めんどい」

コラ流川。
めんどいとはなんだ、めんどいとは!
寿先輩、リョータ、花道は取り返そうっていう表情をしてくれてる……、と、思いたい。

「っていうか、それって人物指定はないの?」

ああ、そういえば。
彩ちゃんがツッコミを入れてようや気づいた。
リョータが読み上げたときには名前は言ってなかったけど、誰が〜っていうのはないのかな?

「ん〜……あ、これか?小さく書いてあるぜ、《愛しの亜子ちゃん》……うわあ、オレいま鳥肌立った」

「……私もだよリョータ」

あの柔道男に《愛しの》って…でもぞぞぞっときた、ぞぞぞっと!!

「明日、行くんすか」

「え、流川くん、付いてきてくれるの?」

「……いいけど」

「なに!!流川一人でいいトコ見せようとしてんじゃねーぞ!!オレも!オレも行きます、 亜子さん!!」

「オレも行くぜ、可愛い後輩のために一肌脱いでやろうじゃねーか!」

「しょーがねーからオレも行ってやんよ!」

「おお、なんだかわからないけど、男四人もついてきてくれるなんて、心強いぞ……っていうか、みんなこの写真見たんだよね?」

「「「「!!」」」」

「ほ、ほら、それは明日一緒に行くってことで、チャラに……」

「そうそう、一緒に取り返してやるから、な!?」

「絶対取り返す」

「そうッスよ、亜子さん、だから落ち着いて……!!」

「最初から落ち着いてますー!ははっ、もう気にしてないですよーだ!」

「「「「(……ふぅ)」」」」

そんな事を言いつつ、女の子の味方だって欲しいなーと思いながら、彩ちゃんに視線を送ってみた。

「あはは、頑張ってね!いってらっしゃ〜い!」

「彩ちゃん、他人事!?」

「まあまあ、いいじゃない。それだけ人数がいれば、青田先輩だって引き下がるでしょうよ」

笑顔で手を振る彩ちゃんの口から出た名前で、ようやく思い出した。
そうだ、柔道男は青田っていう名前だった。

「コラ!!いい加減片づけを進めないか!いつまで着替えとるんだ!!」

ゴリの怒号が飛び込んできたので、私たちは慌てて残った片づけを進めることにした。


明日の放課後は、柔道場に乗り込むぞ……!

ごめんなさい、伯母さん。
明日もちょっと遅くなります。
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